第三十八話 「決意と夜空」
少女の親を探すとはいえど、ノート自身にもやらなければいけない事がある。
「親を捜しつつも、研究所へと向かう。それでいいかい?」
これが一番だと考えた。
「わかった。」
……
さて、ノートがダイラを引き連れてやって来たのは
近くの商店街だ。
「ここ、来たことある?」
「ある。でもいつだかは覚えてない。」
もしここで親とはぐれたのだとしたら、
さっきの場所に辿り着く可能性も無くはない。
「まあ取り敢えず此処を捜してみよう。」
……
見渡す限り、人と店しかない。
捜そうにもただ歩く事しか出来ない。
ダイラの反応を待った。
けれど何も無かった。
……
…
ついに商店街の端から端まで歩いてきてしまった。
「…いなかった?」
「いない。」
そりゃそうだ。
こんな不思議な子なのだから
経緯も不思議な事なのだろう。
まあそれがどんな事かは知ったものではないが。
「じゃあ…近くに公園があったな。そこ行ってみる?」
「…うん。」
……
…
来てみたものの…
人が数人いるだけで、それらしき人はいない。
「…いる?」
「いない。」
さて、次はどこへ行けばいいのか。
近辺は周りきった。
…やはり、ただの迷子として考えてはいけないのか。
「…じゃあ、研究所に寄っていいか?」
「うん。」
返ってくるのは、どれも生返事。
本当は、自ら家出を所望したのだろうか。
もしそうなら、大したものだ。
……
…
目の前にそびえる大きめの建物。
見慣れた景色のはずが、何故か懐かしく思える。
ノートがここに来たかった理由。
ポータルは一度閉じれば、出現するポータルの場所が変わる。
これならば、ガルフィスがポータルを辿ってこちらに来る事も出来ない。
この他に、もう一つ理由があった。
さっきガルフィスに使った小瓶。
あれを使えば、少女を親の元へ帰せる。
けれど、だ。
あの小瓶本体は、数パーセントの確率で全く別の場所へ連れて行く可能性がある。
だからこそ、これを使わずに親の元へ帰したかった。
しかしこれを確立させる方法が一つだけある。、
「夜空の想い」
と呼ばれる鉱石。
純真無垢な心をドリップし、固めたものがそれだ。
これを入れれば、確率を100%にできる。
そんな事なら元から入れておけという話だが、
なんせこれは入手が困難であり、多様な用途がある。
出来る限り使いたくはない代物だ。
……
…
研究所 地下部屋
ポータルの横にある装置に触れた。
一際目立つ赤いボタンを押すと、ポータルは消えた。
もう一度ボタンを押す。
またポータルが出現した。
「…これでいい。」
次は、ある程度整った机を見渡す。
小瓶の在庫はある。
だが、「夜空の想い」が足りない。
…待てよ。確か引き出しに素材があったな。
……これだ。これなら一つぐらいは作れる。
それをおもむろに機械へ流し込む。
現代科学においても最先端を行く為、
常人がこの機械を見ても、なんなのかさっぱり分からない。
隣の少女も、その一人だ。
「…何をしてるの?」
「あるモノを作るのさ。君が帰る為のモノをね。」
「ふーん。」
先程液体を流し込んだ所に、別の液体やら固体を投入する。
「よし、後は20分待って、アレを入れれば…」
……物音が聞こえた。
背後の階段を降りてくる音。
階段の軋む音。
「…ダイラ。下がってろ。」
突然扉が開けられた。
「警察だ!!」
大量の人間が押し込み、ノートの行く手を阻む。
「…なんだ?俺を捕まえるってか?」
「当たり前だ!殺人犯を逃す訳あるまい!!」
殺人犯…か。
目の前には何人もの敵。
後ろには思想界へのポータル。
足元には、少女。
「なぁダイラ?」
「なに?」
「お前は俺について行くか?それとも、お巡りさんについて行くか?」
「お嬢さん!こっちに来るんだ!」
少女は、ノートと警察の二人を見比べた。
少し俯き、ノートを見て言う。
「…おじさんがいい。」
「だから助けたくなるんだよ。」
大剣を取り出し、体の前で大きく振りかざす。
吹き抜く風は、敵の背後へ抜けていった。
「来てみろ警察。俺は罪人だ!!」




