第二十二話 「蒼より蒼く」
「神器が、かなり馴染んできているのか。」
「…来る!」
ノートの声とほぼ同時に青白い光が辺りを覆った。
それは、剣の輝きではなく、
龍の胴体が発光していたのだ。
「さっきよりも光が強いぞ!」
瓦礫を吹き飛ばし、こちらへ突進してくる。
口を開いた。
中は既に炎が充満している。
途端、羽ばたいた。
真下に炎を放ち、焼き尽くそうという考えだったのだろう。
「まずい!」
五発ほどの銃弾が真上へ飛んで行った。
だが最早、止める手段は無かったようだ。
「クロブさん伏せて!
穹窿!」
地面のタイルは土に還り、
瞬時に丸型の屋根を作り上げた。
土は燃えない。
この判断は賢明としか言いようがない。
「レド、これ保つのか?」
「土の造型は、1分間なら絶対に崩れないです。」
「お前ホント万能だな。」
一方のノートは、
いない。
先程まで居た場所に居ない。
「ノートは何処だ?」
「クロブさん!あれ!」
レドが指した方向には龍がいた。
ノートはさらにその向こう側だった。
「いつの間に!?」
表情は、いつしか見せた冷酷な顔だった。
「さっさと落ちろ…!」
宙を舞うノート
流星の如く落ちる姿は、その心境を物語っていた。
眼の前にまで迫った。
その時既に額の一筋の傷から、紅色の雫が垂れていた。
それだけでは終わらない。
遅れて宙を裂く二本の剣があった。
一瞬にして傷は三本となった。
斬った衝撃に打ち上がったノートは
大剣を腰にあてる。
空を蹴りあげ、みるみる内に速度を増す。
「今度こそ決めさせくれ。
参式居合『極彩色』!」
瞬きする間も無く、男は龍の背後にいた。
一瞬、また龍の動きが止まった。
次に動き出した時、身体中至る所に傷が出現した。
だが、ただ一通りの色ではない。
七色に輝くその衝撃波は、それを包んでいた。
ふと動きを止めた龍は、
力尽きたのか、地へと墜落していった。
「結局最後はおいしい所持ってくんですね。」
「いいじゃんかよ。最後のシメは居合斬りだろ?」
「…まあいいですけど、
それより早く旋律取って戻りましょう。」
「ああ。」
振り返り、一歩踏み出した時だった。
そこで違和感を感じた。
水溜まりだ。
いや、水だ。
辺り一面が水びだしだ。
「なあレド?こんなに水あったっけ?」
「え?」
まさか
一行は、急いで横を向いた。
氷が溶けかかってきている。
「まさか、もう溶けてきてるのか?」
「マズイですよ!こんな所にいたら全員溺死します!」
「いや待て、もう一回凍らせれば問題ないだろ?」
「それが……
さっき龍に撃った魔術が結構響いてて…」
「お前の弱点そこだったのか。」
「いや言ってる場合か!
ノート、早く旋律を!」
「はいはい…」
流石のノートにも疲れが見え始めていた。
台座の前に来た時には、もう完全に息切れを起こしていた。
焦る呼吸を抑え、一息つく。
そして手を伸ばした。
その旋律からは、非情に焦がれ
「呑気に味わってる場合か!早く脱出するぞ!」
……さて、この時既に一番身長の高いノートでさえ
膝下にまで水が来ていた。
「水流の魔術ぐらいならいけそうです…!」
「わかった。どこまで行ける?」
「最長で海岸の少し前ぐらいまでかと。」
「よし、やってみてくれ。」
「暴発しても勘弁してくださいよ?」
「爆発しなけれりゃ問題ない。」
「行きますよ!海流!」
氷を炎で溶かす事によって水を発生させ、それを動かすこの技。
そこらの魔術師では、既にへたばっている所だろう。
だがレドは、やり遂げた。
重力無視の水流は、三人を海岸まで打ち上げた。
「案外、砂ってクッションになるのな。」
「ああ。そうらしいな。」
「取り敢えず、ラスター王に報告しましょうか。」
「それがいい。」
三人は倒れ込むか、座って談笑していた。
目には夕焼が写りこんでいた。




