7
*
オフィス内にはカタカタとキーボードを叩く音が響いている。時刻は21時を回ったところだ。帰ろうとするものは誰もいない。かくいう俺も業務時間はシュレッダーのせいで、書類に手をつけることができなかったため、こうして残業している。「何やってんだろうな。今頃同期たちは、アフター5を楽しんでるんだろうな」と考えると少し憂鬱になった。実際、俺の配属されている総務部は会社内でも相当忙しい部署の一つである。労働組合が発行していたチラシでも残業時間は平均100時間と残酷な現実を示していた。
*
トゥルルルル。トゥルルルル。こんな時間に電話が鳴るのは珍しい。トゥルルルル。「お前がでろ」と突き刺す視線が浴びせられる。
「はい。綱島です。」
仕方がないので俺が出る。基本的に、うちの部署は外部からの電話はほとんどない。ついつい、いつものように名前だけ名乗ってしまった。
「・・・・・」
返事がない。「なんだ。いたずらか」と思い切ろうとした時、
「・・・満足か。」
今なんか聞こえたような。
「すいません。何かおっしゃいましたか。申し訳ありませんが、もう一度、お願いします。」
「今の生活に満足してるか。」
女性の声だった。しかし、今まで聞いてきた女性の声と比べたら、何か有無を言わさない凄みというか、神秘的な何かを感じた。だが、質問の意図がわからなかった。「満足しているか」って何だ。どうせいたずらだろう。
「すいません。いたずら電話であれば切ってもよろしいでしょうか。」
「なっ・・いたずらだと。もういい。」
ツー。ツー。切れた。最後ちょっと怒っていたが、まあいいか。
「今の電話誰からだったの。」
先輩が不審に思ったらしく聞いてきた。
「たぶん、いたずら電話です。暇な人もいるもんですね。」
訳の分からない電話で時間を取られた。時刻は22時を回っている。「今日も終電か」と諦めながら書類の山に手をつけた。




