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6.十七歳:卒業そして

 




 マリオンはエイダと同じように学園の成績は上位を保ったまま卒業間近となった。


「君はエイダによく似ているね」


 成績も、容姿も、なにかとエイダと比較される三年だった。それでもミゲルが褒めてくれていることを喜んでしまうマリオンは、自嘲するしかなかった。

 そして、マリオンはずっと考えて決めたことをミゲルに伝えることにした。夕食を終えて書斎に入ったミゲルの元へ、お茶を持って入る。ミゲルにお茶を勧め、お茶を楽しんだ後にマリオンは告げるべきことを口にした。


「伯爵様。私、卒業したらこの館を出て就職をしたいと思います」

「就職?」

「はい。どこか勤め口を探していただけないでしょうか」


 マリオンの話にミゲルは渋い顔をした。


「卒業も近くもうすぐ十八か。私の後見があれば良い条件の結婚の話もあるだろうし、外で働かなくても……」

「私はロングラム家の血筋ではなく、なにより社交や家の監督をする生活は合いません。賃金を得て自立していきたいのです」

「ならば、この館で働けばいいだろう」

「こちらではいろいろと甘えてしまいますから」


 長年館で過ごしてきたので、使用人とは顔なじみだ。『仕事』を教えることはしてくれていたが、


「今日から一緒に働きます」


 と言ったら彼らを困惑させてしまうだけだ。

 それにマリオンが別所で就職したい一番の大きな理由は、この館にいることが辛いことだった。

 出会ったときはミゲルの大きな体と大きな手がマリオンに安心感を与えてくれた。父親とはこのような安心感を与えてくれる存在なのだろうか、と思っていた。しかし時が経つとともに、母の語った大事な人の姿と重なっていった。ミゲルを見て、声を聞いて胸を弾ませ、初恋と自覚したのは十歳の時。

 その頃から、ミゲルが様々な人から後妻をどうか、と言われていることも知っている。


「出戻りだが良い女性だ」

「未亡人でパートナーを探している」


 それらの話はミゲル自身がすべて断っているが、その理由はこの館に飾ってある数々の肖像画を見れば一目瞭然だ。美しき亡き妻への愛の深さが窺い知れる。それにミゲルはよく彼女の肖像画を眺め、時に彼女へ語り掛けている。それは亡き妻を今でも愛してやまないからに他ならない。

 ミゲルが後妻を選ぶのなら、きっとペトラに似た人物か、ミゲルとの立場が同等の女性のはずだとマリオンは思う。

 ―――私のような子供過ぎる平民の娘など、歯牙にもかけることはない。

 マリオンはミゲルの愛が自分に注がれることはないと理解している。そしてこの館にいる限り、秘めた思いをミゲルへ向けている自分が肖像画一枚一枚に、ペトラに笑われている気がしていた。

 貴女の思いは決して届くことはないのよ。だって彼が愛しているのはこのペトラなのだから、と。

 館を離れれば、ミゲルから距離を取ればこの苦しさも和らぐかもしれない。マリオンはその考えに縋った。


「伯爵様に紹介いただけないのならば、自分で勤め口を探して就職します」

「いや、やめてくれ。心構えもなくお前まで突然去られると、私も―――」


 ミゲルが悲痛の声を出した。

 フェリウスが館から姿を消して五年。あれから彼は一度もこの館に帰ってきてはいない。

 愛息の行方がわからず、ミゲルが胸を痛めていることはマリオンも重々承知している。自分が発した言葉でミゲルがどれだけ苦しい思いをするのかも。


「わかった。知り合いの商会に聞いてみるよ」


 深い溜息と共にミゲルはそう言った。

 数週間後、ミゲルがマリオンの元に持ち込んだ勤め口は隣国の国境にある小さな領、そこの領主の養い子の侍女という仕事であった。ロングラム家で給仕の方法を学んだ人物であれば、他国の貴族の侍女という仕事も保証できるということのようだ。


「ディオノレ、男爵家エリザ様……」

「隣国では双子の下児は凶の印、忌み子として降家先に養子に出される。エリザ嬢は双子の下児だ」


 隣国の宗教は学園の授業でも触れていた。基本的な捉え方として、『物には両面があり、それは光と闇であり、吉と凶である』という程度には。


「エリザ様は忌み子として男爵家へ?」

「エリザ嬢は本来トーヴィル侯爵家令嬢だ。隣国の慣例なので、家族は忌み子を容赦なく手放す。周囲からも相当酷い扱いを受けているはずだ。エリザ嬢にとっては可哀想な話だな。しかしディオノレ家は信用できる。お前を預けるのに申し分ないと思っている」

「―――行かせてください」


 男爵家への信用からではなく、話の中のエリザという少女の力になりたいとマリオンは思った。この国と宗教の源は同じはずの隣国。けれど、ライジンク国では当たり前の双子という存在がベリアーノ国では双子の下児というだけで卑下される。家族からさえも、だ。家族を失い《一人になる》という立場の気持ちは自分にもわかるし、自分にしかわからないこともあるだろう。

 マリオンの決意を受け、納得しかねるという顔をしながらもミゲルは頷いた。こうしてマリオンは、ディオノレ家に務めることになった。




 マリオン十八歳、ディオノレ家に務めることになった



こっそり投稿にお付き合いいただいている数名の方、お読みいただきありがとうございます。


次話位から見果てぬの内容がこれでもか、と出てくると思いますが、できるだけサックリと話を進められるように頑張ります。

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