2話
およそニメートル程の機械が、不気味な音を立てている。レバーやスイッチの他に、端子の差し込み口がある。小さなランプは赤く点滅している。
タクミは、何をする為の機械か見当がつかず、まじまじと眺めていた。
「キドッチをみつけたよ!」
小人は、スラリとしたスタイルの男性に言った。その男性は、白衣を着ている。黒縁メガネを掛けており、ストレートな黒髪を後ろでくくっている。
「ふふ、その子はキドッチじゃなくて、城戸君の息子さんだよ」
「えええええええええええ!」
小人は驚きテーブルの上を走って、タクミの目線と同じくらいの高さの機械の上へ飛び乗った。
小人はまじまじとタクミの顔を観察した。
「こんにちは、タクミ君。君のお父さんのお葬式以来かな?久しぶりだね」
男性はタクミの前に立ち、頭に手を乗せて撫でながらそう言った。
「どうも。お久しぶりです」
タクミは視線をずらし、パソコンとにらめっこをしながらタイピングをしている女性へ目を移した。女性は呻いている。
「乾。タクミ君が来てるよ」
男性は、ボサボサで赤茶色のロングヘアーの女性へ歩み寄り、無理やり回転椅子を回してタクミの方へ視線を向けた。
「お?なんだ!タクミじゃない!元気?じゃあ、私は忙しいから」
そう言いながらパソコンへ再び向かった。
「あ、そうだ津上。次に邪魔したらぶん殴る」
男性は津上と呼ばれた。
「えっと、混乱してるよね。わかる。急に小人が現れたら驚くもんね」
津上はうんうんと頷きながら、タクミに椅子を勧めた。
言われるまま、タクミは椅子に座る。
「さて、どこから話そうか。うん、まずは自己紹介だね。私は津上サトル。君のお父さんの幼馴染だよ」
気遣いながら話してくれているのを、しっかりと感じ取り、タクミは自然と笑みがこぼれた。
「で、この小人は」
「おいらはピコ!よろしくね、キドッチのこども!」
ピコと名乗った小人は、元気いっぱいに自己紹介した。
「僕は城戸タクミっていいます。えっと、父さんの息子です」
「キドタクミ!よろしく!」
「あ、タクミでいいよ。ピコって呼んでいいかな?」
津上は、タクミとピコのやり取りを見守りながら笑っている。
「ほら、乾。君もこっちに来なよ。休憩休憩」
はぁ〜、と大きな溜息をつきながら、キャスターのついた回転椅子ごとテーブルへ移動した女性は、
「私は乾マリナ。君のお父さんの幼馴染2号だよ。んー、大きくなったねタクミ」
そう言いながら、乾はタクミの頭に手を乗せて髪の毛をクシャクシャにしながら撫でた。乾は、ダボッとした薄手のグレーのスウェットを着ていた。目が大きく、とても可愛らしい印象だ。どこか自信満々の面持ちをしている。
津上は乾を引き離し、タクミにごめんよと言いながら、オレンジジュースを用意してくれた。
「さてタクミ君。君は今、何故父親の友達と小人が普通に喋っているのか。この部屋はなんなのか。そもそも小人がいるなんて信じられない。的な事を考えてるね?」
タクミは驚いた。津上の指摘が全て的中したからだ。無言で頷くタクミ。
「ではまず、小人は存在するのかという事だけど、ピコがそれを証明してくれてるね」
ピコは笑顔でタクミに手を振る。
「そして、ピコと私達は友達だよ。君のお父さんも含めてね」
タクミは、頷きながら次の話に期待を膨らませ、鼻息を荒くしている。興奮が津上に伝わり、
「順番に説明するからね」
と、津上は笑いながら伝えた。
「あれは、私達が小学六年生の頃。君のお父さんと乾と私はこの山で遊んでいたんだ。ピコと初めて会ったのはその頃だよ。」
「懐かしいよな。あの時津上、ピコを見て泣いてたよな。あれは爆笑した」
「いや、びっくりして泣いてしまうくらい普通だから。ハイテンションで即意気投合した乾と城戸君の方がおかしいんだ…」
「キドッチも、いぬいっちも、つがみんも、みんなげんきいっぱいだったよね!」
タクミは、仲良く話している三人を邪魔しないように頷きながら相槌を打つ。
「あのとき、おいらのくにがたいへんだったんだ。おおきなドラゴンがあらわれて、おいらのくにをおそったんだ…」
ピコは、真剣な面持ちで語った。
「そこで、助けを求めてやってきたピコと出会った。そして、ピコが王様から借りてきた魔法の玉を使ったんだよ」
「え?魔法の玉?それでどうなったんですか?もしかして…」
津上の説明に、我慢ができなくなったタクミが興奮しながら質問をした。
「そう、魔法の玉としか言いようがないね。今思い出してもありえないって思うよ。私と津上と城戸が、その玉から発せられた光に包まれて、気がついたらピコと同じサイズになってたんだよ」
乾は大きく笑いながらとんでもない事を言い、津上とピコは頷いている。
「うわぁ…。本当に?アニメの話とかではなく?」
タクミはすかさず聞いた。
「「「うん」」」
津上と乾とピコは同時に返事をした。
静寂が流れ、タクミは俯きながら身体を震わせている。
心配になった津上は、
「タクミ君、大丈夫かい?確かに信じられないよね。わかるよ…」
津上と乾は様子を見ている。ピコはぴょこぴょことテーブルの上を歩き、俯いているタクミの顔を伺った。
すると突然タクミは立ち上がり、両手を広げながら、
「凄い!凄過ぎる!!!小人の国?魔法の玉?ドラゴン?最高じゃないですか!」
感情が抑えられず、前のめりになった。
「それで、小さくなった父さん達は何をしたんですか?教えてください!」
中二病であるタクミは、興奮で格好をつけるのを忘れていた。まるで、新しいおもちゃを買ってもらった子供のようだ。とてもはしゃいでいる。
津上達は、顔を合わせて笑った。
「いいね、タクミ!それでこそ城戸の息子だ」
乾は、ガハハと笑いながらそう言った。女性らしさの欠片もない。
「君は本当に城戸君に似てるね」
「キドッチっぽい!」
タクミは嬉しくなり、頭を掻きながらはにかんだ。
「あ、ごめんごめん。続きね。それで、小さくなった私達とピコの四人で、小人の国に向かったんだ。ここから上に登ったあたりに大きな岩があるでしょ?」
タクミは、津上の言葉に頷く。
「あの岩の根元に亀裂があってね。そこから小人の国へ行けるんだ。乾と城戸君は、小人の国の景色に興奮しちゃって、落ち着かせるのに苦労したよ」
「はぁ?あれで興奮しない方が変だろ。お前は昔から冷静すぎるんだよ。もっと城戸を見習った方がいいね。」
「いいや、そんな事はない。確かに美しい景色だった。だが、興奮して走り出して周りに迷惑を掛けるのは如何なものかと思うけど?」
津上と乾が口論を始めてしまった。タクミとピコは、顔を合わせて声を上げて笑った。
「おっと、失礼」
津上が咳払いをし、メガネを掛け直す。乾は今にも津上を殴りそうになっていたが、溜息を短く吐いて椅子に座り直している。
「えっと、話を戻すね。で、私達四人はまず、景色を楽しみながら城を目指して歩いた。どこまでも広がる草原に、色とりどりの花がとっても幻想的だったよ。」
津上は何事もなかったかのように話した。
「おいらの国は、ぜーーんぶきれいなんだよ。タクミ」
いつの間にかピコは、タクミのすぐそばのテーブルの上に座っている。タクミは和みながらも続きが気になってソワソワしている。口が渇いているのに気が付き、オレンジジュースを一口飲んだ。
「それで、ドラゴンはどうしたんですか?」
タクミが問い掛けると、
「そう、いたんだよ。ドラゴンがね。翼はなかったけど、赤くて、鱗がトゲトゲで、眼光なんて半端なかったぜ。それに、ものすごくデカかった。」
乾は、ジェスチャーをしながらドラゴンの概要を説明した。あまりにも激しくジェスチャーをしているので、とても大きくて凄かったんだなとタクミは納得した。
「でも、そんなに凄かったドラゴンをどうやって退治したんですか?」
タクミが疑問に思っていると、
「小人の国にはね、金属がないんだ。その代わり、とっても硬いガラスがある。それで防具と武器を作ってもらったんだよ」
「みんなかっこよかったよ。ゆうかんにたちむかう3にんをみて、おいらもゆうきをもらったんだ」
「ガラス…」
タクミはつぶやく。
「ガラスの甲冑と棍棒。それと尖っていない弓矢。それでドラゴンを懲らしめて、追っ払うことに成功したんだ」
「城戸と私が棍棒でボコボコ叩いて、後ろからちょこちょこと津上が矢を射るって感じだったな」
津上と乾が笑顔で語る。
「なるほど。かなり丈夫なガラスなんですね」
タクミは唸った。
「タクミ。ぼくたちがつかってるガラスはね、ほんとにすごいんだよ。いえとか、おしろとか、しょっきとか、とにかくたくさんのものにつかってるよ」
ピコは、身振り手振りを交えてタクミに説明をした。
「そして、私達三人とピコは、小人の国の英雄として称えられた。そして、城戸君と乾、そして私は無事に帰ってきた。それから大人になるまで、ピコと会うことはなかった」
津上がそう言うと、くくっている髪を解き、メガネを外してテーブルに置いた。
ピコは少し俯いた。
「そんな大冒険をしたなんて、羨ましいです。」
タクミは、少し寂しそうにそう呟くと、
「そうだね。この経験は私達だけの宝物と言ってもいい。そしてそれから私達は、周りに秘密にして生活をしていたんだけれど…」
「けど?」
「城戸君も乾も、もちろん私も、もう一度だけでいいから小人の国へ行きたいと思っていたんだ。でも、ピコにはもう会えない。何とかならないだろうかと思っていた矢先、城戸君に呼び出されたんだ」
真剣な眼差しで語る津上に、息を呑むタクミ。
「あれは、私達が25歳の頃だったかな。乾と私は城戸君に、もう一度小人の国へ行こうと言われたんだ」
「あれは驚いたね。そんな昔の話を持ち出すなんて思ってもいなかったからなぁ」
津上の話に乗った乾が、大袈裟に肩をすくめるジェスチャーをする。
ピコは静かに話を聞いていた。
「我が父ながら、熱い展開じゃないですね!凄い…」
興奮したタクミはさらに前のめりになる。
「その時に気付いた事なんだけど、それぞれが小人の国への行き方について考えててね、それぞれがそれぞれの得意分野を把握してた事もあって、どうやって行くかはすんなり決まったんだよ」
津上は、少し勿体ぶった言い方をした。
「その方法は?」
タクミが聞くと、乾は椅子ごと機械の方へ移動し、またすぐ戻ってきた。
そして、乾は手に持っていたものをテーブルの上に置いた。
タクミは、それをプラモデルのロボットだと感じた。金属で出来ていそうで、至る所が細かく、相当な完成度だと分かった。しかしタクミは疑問に思い、あからさまに戸惑っていると、
「聞いて驚けタクミ!これこそ!脳神経変換式小人型機械人形だ!!!!!!」
乾は、声高らかに叫んだ。
タクミは、そのいかにもな格好いい名前に、驚きと歓喜が入り混じり、その場で立ち上がり、
「うおーーーー!かっこいいーーー!」
と叫んだ。




