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小人の国  作者: 長屋恭介
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第1話

僕は大袈裟な大きな声で応援し、友人の背中を力強く叩くと、気合いの満ちた笑顔で応えてくれた。

「ありがとうキドタク。気合い入ったわ」

と感謝の言葉を放ちながら友人は、一目散に運動場へ駆けていく。大きなカバンとバットケースを携えて。今週末は大きな大会があるそうで、追い込み練習をするのだそうだ。


「疾風みたいな人だな」

と呟いた僕は、友人の姿が見えなくなるまで運動場の方を見ていた。


部活動に所属していない僕は、真っ直ぐ家へ帰る。

「あ!キドタクじゃん!一緒に帰ろうぜ」

一瞬、裏社会で暗躍しているアサシンが僕の情報を掴んで暗殺を実行しようとしてるのかと妄想が捗りつつも、身構えて振り返った。声を掛けてきたのはクラスメイトだった。

「なんだ、佐藤くんか。いいよ」

「なんだってなんだよ。敵に襲撃されたとか思った?」

「そ、そんなわけないでしょ…」


馬鹿話をしながら、僕と佐藤くんは笑い合って歩いている。


そう。

自分が中二病である事を、佐藤くんに知られているのだ。他にはまだバレていない。そう願っている。


2人で楽しく喋りながら帰っていると、あっという間に佐藤くんの家に着いた。

「じゃ、またねキドタク!」

僕は振り返らず、片手を軽く上げて、

またね、とだけ言い、歩き出した。

我ながら格好いい。


僕の家は山の麓にある。詳しくは知らないけれど、ご先祖様から受け継いできた山と土地らしい。

地元のお年寄りはその山を、小人山と呼んでいる。

なんでも、昔は小人がこの山に出没していたらしい。

「いいか、タクミ。もし裏山で小人を見かけても、騒がずにそっとしといてあげてね」

僕が物心がついた頃から父は、決まって僕に言った。

泥だらけになりながら山を駆け巡り、小人を探してたっけ。


僕は、去年死んでしまった父の事を思い出しながら玄関のドアを開けて家に入った。

父のいない生活は、案外受け入れやすかった。普段から、仕事で家に帰ってくる事が少なかったからだ。

死んじゃったのはもちろん悲しいけれど、実感がないという方が正確かもしれない。

とても優しくて、元気いっぱいで、子供にも敬語を使う。茶色がかった髪の毛と白衣は、いつもしわくちゃだった。


「また、会いたいな」


自分の部屋に入った僕は、荷物を置いた。クローゼットから、お気に入りのジャージを取り出し着替える。

一目惚れしたそのジャージは黒色で、腕や足の側面には金色のラインが入っていてとてもかっこいい。

他にもさりげない所に黒色のラインが入っているのが、パワードスーツみたいでテンションを上げてくれる。


準備は万端。玄関のドアを勢いよく開け、山へ向かって駆ける。

いつ裏社会の組織が狙ってくるかわからない。だから僕はその陰謀に抗うべく、修行をしなくてはならないのだ。


それは妄想だ。という言葉が一瞬よぎったが、なかったことにした。


山は良い。風は楽しそうに踊っているし、空は笑ってる。木々や草花は気持ちよさそうに輪唱している。

僕は手始めに、山の頂上を目指して駆ける。

それから、大きな木に登り別の木へ飛び移る。

最後は、崖を命綱無しで登る。

この山は修行の場として重宝している。子供の頃から日課になっている修行のお陰で、身体能力は高い方だと自負している。

学校の体育の時間やスポーツテストでは、優秀な成績を収めていて注目される事もしばしば。

油断しない限り、この山で怪我をする事はなくなっていた。


汗だくになり、草が生い茂っている場所で寝転んで休憩をした。

風のダンスを体全体で感じ取る。

山の声に耳を傾けると、お疲れ様と言われているような気がして自然と笑顔になった。


僕はふと茂みに目をやると、小鳥が木の下で震えていた。

慌てて起き上がり、その小鳥を観察した。どうやらケガはしていないようだ。その木を見上げると、細い枝で出来ている巣を見つけた。

「そっか。落ちちゃったんだね」

木を登り小鳥を巣に戻すと、親と思われる鳥がこちらに飛んでくる。

「安心して。子どもは無事だよ」

僕がそう言うと、鳥は綺麗な声で鳴いた。なんていう鳥だろ?


そのまま木を降りて、再び寝転ぶ。


僕はどうやらそのまま眠ってしまったようで、目を開けると空が茜色に染まっていた。


「やば。寝ちゃってたよ」

僕は伸びをして、下山する事にした。門限はないが、母に心配を掛けるのは良くない。母は、父の死を乗り越えていないから僕が支えなくっちゃ。


空の茜色と木々にしがみつく葉の紅色が、秋を感じさせてくれる。鰯雲が幻想的で、僕はニヤニヤとしている。


「あれ!?キドッチだ!生きてた!!やったーーーー!」


突然、声が聞こえた。

僕は辺りを見回す。しかし、人影はどこにもない。


「誰!?どこにいるの!?」

僕は緊張で声が裏返ってしまった。


「キドッチ、ここだよここ!下!」


僕は目線を下げた。こんな事がありえていいのだろうか?確かに、こんな日を待ち焦がれていたのは認める。でも、ありえないでしょ。


足元には、小さな人間の様な何かが僕を見上げていた。


「えええええええ!こ、こ、小人!?凄い!」

「何を驚いてるの?僕だよ僕!」


小人は、両手を大きく上に広げながらヒラヒラと振っている。嬉しそうにその場をくるくると回りながら笑っている。


小人は何故か僕の事を、キドッチと呼んでいる。そんなあだ名で呼ばれた事は一度もない。

とりあえず僕はその場にしゃがみ込んで、小人を手のひらに乗せて顔の位置まで上げた。


「小人って、本当にいるんだね」

「もう!キドッチはさっきから何を言ってるの!」

小人は、頬を膨らませながら言う。緑色の服にパンツは茶色。頭にはゴーグルのようなものがある。


この時僕は、父の言葉を完全に忘れていた。そっとしておくなんて出来なかったのだ。

「ごめん、えっとさっきからキドッチって言ってるけど、それは僕の事?」


「そうだよ。キドッチはキドッチでしょ。それより大変なんだよ!早く来て!みんなに知らせなくっちゃ!」

「うわぁ。やばい。なんかテンション上がってきた!えっと、ついていけばいいの?」

「うん!こっちこっち!」


小さな人間の様ななにかは、僕の手のひらから軽やかに飛び出し、地面に着地して走り出した。


正直、めちゃくちゃワクワクしている。心臓はドクドクと脈打ち、息も荒くなっている。僕は夢中で小人についていく。


「ねぇ!君、名前はなんていうの?どこから来たの?他にも小人っているの?てかなんで日本語話してるの?どこで習ったの?」


テンションが抑えられず、矢継ぎ早に質問した。しかし小人は走る事に夢中になっていて聞こえてない様子。


「ほら、ここだよ!忘れちゃったの?」

小人は、蔦が生い茂っている崖の前で僕に言った。

ここと言われても、僕にはただの蔦にしか見えない。

「ほらほらこっち」

小人は、蔦に向かって歩いていき、奥へ行ってしまった。

恐る恐る、僕は蔦に手を突っ込んだ。そのままズブリと肘まで入り、奥に空間があると悟った。


「こんな所に洞窟があったの知らなかったな…」

蔦を掻き分け、奥に進むと目の前には茶色のドアがあった。丈夫そうな木材でできている。お洒落な金色に輝くドアノブとドアノッカーに目が行った。


そのドアを開けると、大きな機械が複数並んでいて、病院のベッドも置いてあった。

部屋の中央には金属製のテーブルがあり、そこに見たことのある二人の大人が座っていた。


「見つけたよ!」

小さな人間の様ななにかは、その大人に向かって元気よく報告した。


僕の名前は城戸タクミ。これから何が起こるのかを期待せずにはいられなかった。

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