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第十九話 待っていたもの

朝。


目を覚ます。


七時三十八分。


昨日より一分早い。


カーテンを開ける。


花を見る。


昨日より、少しだけ下を向いている。


花びらを指先で触る。


まだ張りがある。


「おはよう。」


水を替える。


朝食を食べる。


紅茶を飲む。


時計を見る。


家を出る。


――――――――――――――――――――


いつもの道。


パン屋の前まで来る。


昨日より人が少ない。


入口も空いている。


少しだけ立ち止まる。


店の中を見る。


焼きたてのパンが並べられている。


クロワッサンもある。


扉を開ける。


ベルが鳴る。


「おはようございます。」


「おはようございます。」


店員が顔を上げる。


「今日は空いてますね。」


「そうですね。昨日はすごかったですよ。」


「昨日、通りました。」


「やっぱり。外まで並んでましたから。」


少し笑う。


トレーを取る。


クロワッサンを見る。


一つ取る。


それから、隣にあった小さなパンを見る。


少し迷う。


そちらも取る。


会計をする。


「ありがとうございました。」


店を出る。


袋を持つ。


少し軽い。


二つしか買っていない。


でも、今日はこれでいい。


――――――――――――――――――――


駅。


電車に乗る。


座れない。


昨日は座れた。


今日は立つ。


窓を見る。


流れていく景色を眺める。


昨日と同じ景色なのに、少し違って見える。


――――――――――――――――――――


事務所。


「おはようございます!」


「おはよう。」


「今日は早いですね!」


「昨日より一分早い。」


「そこまで覚えてるんですか?」


「時計を見たから。」


「なるほど!」


午前の打ち合わせをする。


午後はレッスン。


発声をする。


何度か同じところを繰り返す。


休憩する。


水を飲む。


もう一度やる。


終わる。


「お疲れさまでした!」


「お疲れさま。」


帰る。


――――――――――――――――――――


家に着く。


買ってきたパンを机に置く。


夕食の前に、少しだけ食べる。


クロワッサンを半分にする。


一口食べる。


「……おいしい。」


もう一つのパンを見る。


そちらも食べる。


少し甘い。


知らない味ではない。


でも、今日はこれでいい。


残りを袋に戻す。


――――――――――――――――――――


夜。


花を見る。


昨日よりも、明らかに下を向いている。


「まだ大丈夫。」


水を替える。


今日は花瓶の位置を少しだけ窓から離す。


配信の準備をする。


――――――――――――――――――――


「こんばんは。」


『こんばんはー』


『待ってた』


『今日もかわいい』


「こんばんは。」


『パン屋行った?』


「行った。」


『おお』


『久しぶりじゃん』


「うん。」


『何買った?』


「クロワッサンと、もう一つ。」


『もう一つw』


『名前は?』


「忘れた。」


『忘れたんかいw』


少し笑う。


『おいしかった?』


「おいしかった。」


『よかった』


『今日はなんか機嫌いい?』


「そう?」


『うん』


「パンがおいしかったからかも。」


『単純でかわいい』


「そうかも。」


コメントを眺める。


今日はよく笑う。


――――――――――――――――――――


配信が終わる。


パソコンを閉じる。


机の上には、朝買ったパンの袋がある。


もう一つだけ残っている。


明日の朝に食べようと思う。


袋を閉じる。


明日の朝が少し楽しみになった。


「楽しみ。」


電気を消す。


一度だけ振り返って、花を見る。


今日はまだ、きれいだった。

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