第一話 ネタバレ済みの人生
人生がゲームだったら。
私は、たぶん二周目を遊んでいる。
……なんて言うと、少し違う。
二周目なら、前回と違う選択もできる。
私は違う。
エンディングまで全部見終わった状態で、一周目を遊んでいる。
だから。
「次は何が起きるんだろう」
と思ったことは、一度もない。
でも。
「今日は何を食べようかな。」
とは、毎日思う。
それは別だ。
だって、美味しいものは知っていても美味しいから。
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「今日はオムライス。」
冷蔵庫を開けながらそう呟く。
ケチャップはまだ残っている。
卵も二個。
問題なし。
フライパンを火にかけながら、ふと時計を見る。
七時四十分。
少し早い。
まあ、いいか。
早起きした日は、朝ご飯をゆっくり食べられる。
私はその時間が結構好きだった。
オムライスを食べ終えて、食器を流しに置く。
歯を磨いて。
髪を整えて。
部屋を出る。
鍵を閉める。
一歩歩いて。
立ち止まる。
「あ。」
財布。
取りに戻る。
……
危なかった。
普通に忘れるところだった。
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駅まで歩く。
今日は少し風が強い。
お気に入りのパン屋さんから、焼きたての匂いが流れてきた。
「……帰りに寄ろう。」
そう決める。
今日はクロワッサンが美味しい日だった。
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「おはようございます!」
事務所へ入ると、元気な声が飛んできた。
「おはよう。」
「今日も配信ですよね!」
「うん。」
「頑張ってください!」
「ありがとう。」
マネージャーは、今日も元気だった。
たぶん、この人は十年後もこんな感じなんだろう。
……いや。
そこまで考えるのはやめよう。
今日の話だけで十分だ。
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夜。
配信開始五分前。
私はマイクの位置を少しだけ直す。
もう少し左。
うん。
これでいい。
深呼吸を一つ。
配信開始。
「こんばんはー。」
コメントが一気に流れ始める。
『きた!』
『待機してた!』
『こんばんはー!』
『今日も間に合った!』
「間に合ってえらい。」
『褒められたw』
『今日もかわいい』
「ありがとう。」
『今日は何するの?』
「雑談して、そのあとゲームかな。」
『ゲーム楽しみ』
『勝てる?』
「どうだろ。」
勝てる。
でも、その方が面白いから勝つだけだ。
そんなことは言わない。
雑談は、いつも通りだった。
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コンビニの新作スイーツ。
最近見た映画。
朝ご飯の話。
コメント欄は穏やかに流れていく。
『オムライスいいな』
「美味しかったよ。」
『ケチャップ派? デミ派?』
「今日はケチャップ。」
『今日は?』
「うん、今日は。」
何となく口にしただけなのに、
コメント欄は少しだけ盛り上がった。
『今日はって何w』
『昨日は違ったの?』
『こだわり強そうw』
私は笑う。
「気分かな。」
嘘ではない。
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ゲーム配信も特に何事もなく終わった。
大きなミスもない。
回線落ちもない。
変なコメントもない。
二時間が、あっという間だった。
「じゃあ今日はこの辺で。」
『おつー!』
『楽しかった!』
『またね!』
『おやすみ!』
配信終了。
私はヘッドホンを外して、大きく伸びをした。
今日も平和だった。
それで十分。
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スマホを見る。
通知が一件。
【ニュース】
○○駅前で車同士の接触事故。
渋滞が発生しています。
私がいつも使う駅だった。
財布を取りに戻らなければ。
一本早い電車に乗らなければ。
今ごろ、あそこを歩いていた。
「……。」
スマホを閉じる。
パン屋さん、まだ開いてるかな。
私はそれだけ考えて、帰り道を歩いた。
今日はクロワッサンが美味しい日だから。




