表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/2

そのギャップがいいんでしょうが!

居酒屋で大ジョッキを片手に机へ突っ伏し、千花は叫んだ。


「あ゛ー」


「……惨敗!!」


「愛嬌ってなんだ!?」


「悪かったわね可愛げがなくて!」



原因は数日前まで遡る。


二年間付き合った恋人に別れを告げられたのだ。彼のことは本当に好きだった。


かっこよくて、ガタイが良くて、男らしい。そんなところに惹かれていた。


カフェでその話を聞いていた親友・愛由美が、スマホをいじりながら尋ねる。


「浮気された?」


「うん」


「俺が守らないといけない子が見つかったんだって……」


「お前は俺がいなくても生きていけそうって言われた」


机へ突っ伏す千花に、愛由美は画面から目も離さずため息をつく。


「はー……最悪だね」


傷心の千花は弱々しく呟く。


「一途な男がいい……」


その一言に反応した愛由美が、ふとスマホを見て声を上げた。


「あ」


「これ見てみ?」


にやりと笑って画面を差し出す。


「?」


「獣人男性は一人の番を大切にする種が多いらしいよ」


そこには『獣人男性は超一途!? 生涯一人だけに愛を誓う、ロマンチックな大恋愛♡』という記事。


「こ、こ……」


千花は勢いよく身を乗り出した。


(これだーーー!!)



後日、獣人限定の合コン。


(オオカミ、ライオン、ヒョウ……)


(肉食系獣人最高♪)


目の前には筋肉でパツパツの肉食系獣人たち。まさに理想そのものだった。


(かっこよくて、大きくて、頼り甲斐があって、男らしい男で)


(そして何より一途!!)


期待に胸を膨らませながら率先してサラダを取り分ける。


「取り分けちゃいますねー!」


(絶対ものにしてやる!)



「ぜんっぜんダメだった……」


現実は甘くなかった。


甘え上手で愛嬌たっぷりの女性陣に囲まれ、真面目で面倒見のいい千花は完全に埋もれてしまう。


話題にも入れず、愛嬌の「あ」の字すら出せないまま惨敗。


一人で居酒屋へ逃げ込み、ビールをあおる。


(もうこうなったらヤケだ! 浴びるほど飲んでやるー!!)


そう思っていた矢先、隣の席へ視線が止まった。


「……っ!?」


そこに座っていたのは、まさしく理想の男性だった。


広い肩幅、長身で引き締まった体格。


少し影のある強面の横顔は文句なしにかっこよく、黙ってグラスを傾ける姿だけで大人の色気が漂っている。


(超ストライク!♡♡♡)


酔いの勢いも借りて声をかける。


「あ、あのー……」


「おひとりですか? よければ一緒にお話しでも……」


「……ん?」


ゆっくりこちらを向いた彼を見て、千花は固まった。


(ウ、ウサギの耳!?)


頭には体格とまるで釣り合わない可愛らしいウサギ耳。


それも酔っているせいか、ぺたりと垂れ下がっている。


ぼんやりした瞳としおれた耳の組み合わせは、男らしい体格とのギャップがあまりにも大きかった。


(男らしい体格なのにかわいい……!)


その瞬間、千花の世話焼き気質が一気に刺激される。


ガタイのいい大男が耳を垂らして酔い潰れている。その姿は放っておけないほど愛らしかった。


(放っておけない! なにこの感情……!?)


戸惑う千花の前で、彼は突然ぽろりと涙をこぼした。


「な!!!???」


慌てて背中をさする。


「大丈夫ですか?! なんかありましたか?!」


酔った勢いもあって、彼は見ず知らずの千花へ胸の内を漏らした。


「俺だって好きでウサギになったわけじゃない」


「はい?」


予想外の言葉に目を丸くする。


「……俺、可愛くないんだ」


彼――真紘はグラスを見つめたまま、静かに続けた。


『兎田さんってウサギなのに大きくて怖いよね』


『肉食系獣人みたいで近寄りがたい』


『もっと可愛い感じかと思ってた』


社員たちの何気ない会話を偶然聞いてしまい、自分の容姿を気に病んでいたのだ。


「なんで肉食系じゃないんだろ」


無表情のまま涙だけを流す姿に、千花の中で何かが弾けた。


(は????)


勢いよく立ち上がり、机を叩く。


「ウサギなのに大きい?」


「肉食系獣人みたい?」


「そのギャップがいいんでしょうが!」


ビクッと耳を立てる真紘。涙もぴたりと止まる。


しかし千花は止まらない。


「ガタイも良い! 顔も良い!」


「なのに耳ペタンとさせて!」


ぷんすか怒りながら座り直し、小さく本音を漏らした。


「私は男らしい人が好きだったはずなのに……」


「放っておけない」


その言葉に、真紘の耳がぴくりと動く。


「……変わってますね」


グラスを傾ける横顔は少しだけ照れていて、首元には酔いとは違う赤みが差していた。


「初対面の方に変なこと言ってすみません」


「いえ、こちらこそ……」


騒いでしまった恥ずかしさを覚えながらも、千花は改めて彼を横目で眺める。


(にしても、やっぱりよく見れば見るほどタイプだなぁ)


そしてあることに気付いた。


(これはチャンスだ)


「そうだ、お名前! お名前教えてください!」


その一言で真紘の空気が一変する。


「あ、申し遅れました」


姿勢を正し、スーツの内ポケットから名刺を取り出す所作は、先ほどまで泣いていた人物とは思えないほど丁寧だった。


「私、兎丸商事株式会社の兎田 真紘と申します」


その真面目すぎる自己紹介に圧倒され、千花は思わず両手で名刺を受け取る。


「頂戴いたします……」


視線を落とした名刺には、大企業の社名がしっかりと印字されていた。


(大企業じゃん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ