第4話 奥の院
ずずーん
肛門から臓腑に響く縦揺れの後、傾きかけた橙色の空にぼっと黒煙が立ち昇ると、黒雲は大空に赤く照らされながら広がった。
城の兵士や家来は大声で叫びながらバケツの水を持って右往左往する。
既に本丸は盛大に炎上中で手のつけようが無かった。
今火の手が上がったのが三の丸。二の丸からは倒壊し瓦礫の下敷きになった人々の呻き声がやまなかった。
「いけいけ、ファーマ!壊し尽くせ!」
「さっきと言っている事違う..」
「人さらいなんぞに遠慮なんかする事ねぇ!」
奥の塔の暗い廊下には子供が通れるか如何かくらいの丸い明かり窓がポツリポツリとあり、縦縞の影を落としている。
外が騒々しいと様子を見に行かされたお付きの女中がブツブツと長い廊下を摺り足で進んでいた。
「ああ、気味が悪いったらありゃしない、あんな部屋には戻りたくない。」
大きな音はもう止んだようだが何やらきな臭い匂いが漂ってくる。
疑問に思いながらも女中は、三十路を少し過ぎた筋ばった首筋を摩りながら、忌まわしい部屋から一時的にも逃れられた幸運に安堵して居ていた。
「ほうっ、それは何処の部屋だ?」
「ひいいっ!」
突然声を掛けられた女中は驚き、どしんと尻餅を付く。
だが廊下の角から現れたのは小さな子供と少女だった。
「あんたらっ!こんな所に入っちゃいけないよ!特にお嬢ちゃん、殺されるから!」
だが男の子は動じることなく女中に道案内を命令する。
「やっやだよ、わたしゃあそこには1秒でも居たくないのさ、行きたいならアンタ一人で行きな、そこを真っすぐ言って2番目の廊下を左だよ!」
キィキィキィ
体重が軽い子供が歩いただけでも廊下は容易に軋み音を立てる。
言われた通り暗い廊下を進むと扉の前に女性が二人立っていた。
手には薙刀、上着はこの地方独特の幅広襟に青い短ズボンからはスラリと白い脚が伸びて居る。
「なんだ?ここは男子禁制か?それにしても脛が丸出しでは到底実践向きとは言えんな。」
「何奴!」
「ファーマ、黙らせろ。」
「はい、チップルプルンテー。」
ファーマが両手を突き出すと、女性兵士達は崩れる様にその場に倒れ込んだ。
「ん? 何だ今の魔法は? 知らんぞ?」
「大気の組成を弄って息が出来ない様にして眠らせただけ、悪用するといけませんのでルナーダ様は知らなくてもいいです。」
「よし分かった、今度サエに掛けてみよう!」
眉間に皺を寄せたファーマがそっと扉を開けると、目に飛び込んできたのは一列に並ばされた若い女性達の白い肢体の数々であった。
即座に扉を閉めると、ドアの前に立ちふさがる。
「いっ!いけません、サエちゃんはは私一人で助けて参りますので、ルナーダ様はここでお待ちを!」
「何だよ、けち臭いな、俺にも見せろよ?」
「ちっ..チップルプルンテー!」
脱力した主の小さな肢体の脚をずるずると引っ張り、廊下の端に運んだルナーダに息が有る事を確認するとファーマは一人潜入した。
室内は窓も無く壁一面に蝋燭が立てられている。
薄暗い明かりの中で若い女性たちは何故か一様にボンヤリとし、手かせも無いのに逃げ出そうともしない。
一人、また一人と管の様な物を付けられて、暫くすると倒れては運ばれて行く。
その列の中にサエの姿があった。
ファーマは13歳で成長を止めた自分の胸元を上下に摩りながら心の中で呟く。
(むむむ...周りの女生と比べても一際大きいですね..一体本当に同じ人類なのでしょうか?)
部屋の中央にはひょうたん型の窪みが有り、そこから長い黒髪の後頭部がひとつ見えている。
「ほほほほほ、若返る、若返るわ~。」
「奥様、お湯はお足りですか?」
入り口に居た従女達に比べて一際幅広な濃紺の制服を着た壮年女性が笑い声の主に尋ねた。
「まだよ、もっと頂戴!」
そう言って上げた両手は蝋燭の火に照らされてどす黒く染る。
これが明るい場所なら真っ赤に見えたと思うとファーマは気分が悪くなった。
(でもこれで全てがはっきりしましたね。)
呼吸を整えるとゆっくり、そして優雅な足取りで人々の前に歩み出た。




