03-61.実験
「じゃ、ちょっと服を全部脱いでくれるかな?」
「は!?」
アミーさんはイスに腰掛けたまま足を組んでる。
真っ直ぐコッチを向いて真面目な顔。
「経過を見ておきたいんだ。
キミの体との相性をね。」
「体との相性?」
心臓がバクバクし始める。
「その腕のことだよ。
身体に適合しているか、
見なくちゃならない。」
「ここで?」
アミーさんは片手を口の横に当て、
オレのことを少し見上げながら、考えてる。
腕を組んでるんだけど、攻撃力がスゴい。
何がとは言わないけど。
「ベッドの上の方がいいかな?
その方が手間も省けるし。」
「手間ってナニ!?」
「まぁいいじゃないか。
ここには2人しか居ないんだ。
邪魔も入らない。
こんな機会はめったに無い。
隅々までじっくり観察しないと。」
"じっくり"ってところが何か違う意味で
聞こえてしまう。
ヤバいんじゃないか?
オレは何も考えず、罠にハマりに
ホイホイやってきてしまったのかもしれない。
「観察」って・・・
何かとんでもないことになりそうな予感がする。
周囲を確認する。
後ろには入ってきたドアがあり、
アミーさんは部屋の奥の位置だ。
このまま振り返って、ドアまで走れば
逃げ切れるはず。
カギが掛かってなければだけど・・・。
「扉は空いているよ。
カギは掛けていない。」
アミーさんが片眉を上げた。
選択肢は与えた。
出ていこうと思えば出ていけるだろ?ってコト?
試されているよね?コレ。
じゃあココであっしはドロンさせてもらいます
って逃げたら、なんか負けな気がする。
でも逃げずに反撃する方法なんて見つからない。
完全にアミーさんのペース。
考えろ!アータル!
何か、ちょっとこの・・・
何かイイ感じのコトを言うんだっ!
「あぁ、そうだっ!アミーさん。
さっきオレと話してた時に、
何か思いついたんじゃないですか?
それ、今、まとめておいた方がイイのでは?」
「いや。それには及ばない。
あぁ言うヒラメキは、
少し時間が経ってから見つめ直すと、
意外なアイディアが浮かぶんだ。」
まっすぐオレの眼を見ていってくる。
全然動じない。く、くそぅ。
「さ、早く。」
足を組み直して事務的に言ってくる。
「上半身だけで十分ですよね?」
腰鞄を置いて、さっさと上だけ脱ぐ!
籠手は武器屋に預けてしまったんで、
今はつけてない。
一気にまくり上げて、座ってたイスに投げた。
このまま少しずつ逃げ道を塞がれていって、
すっごいコトになるより、
自分でさっさと脱いじゃったらいい!
ほらっどうだっ!
オレは負けてないし、動じてないぞ!
大丈夫。オレは冷静、ビー クールだ。
アミーさんは、落ち着いて声で
「私としては、全部脱いでもらっても
一向に構わないんだがね。」
と、ニコっとしてくる。
さっきまでの冷たい表情は、なんだったんてばよっ!
コロコロと表情を変えやがって!コノヤロウ!
落ち着こう。
そうそう。この人は、
人をからかうのが大好きなんだ。
あの超絶シゴデキ ヘルミオネさんを
からかって遊ぶくらいに。
落ち着けぇ。他の意味なんて無い。
これは診断。経過観察だ。
フゥー
口をすぼめて息をゆっくり吐いて、
下履きをぎゅっと握る。
安心してください。履いてますよ。
そう自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着ける。
自分の体を見下ろす。
見慣れたはずの自分の身体。
実家を飛び出してきてから、
だいぶ身体は引き締まった気がする。
ただ、岩橋の街の戦いから
急いで帰ってきたせいもあって
万全!って感じでも無いが、
今のところ、大きなケガとはない。
左手首には契約の腕輪。
右手で触れる。
多少は汚れてしまっているが、
千切れそうにはない。
右手の手のひらをこちらに向けて、
握ったり開いたり。
今度は左手を右肩に当てて回す。
違和感がない。
そのまま左手で肩の周りを触る。
継ぎ目とか無いんだよな。
今まで右腕に違和感なんか感じたこともない。
たまに朝起きた時にシビれて動かなくて、
異常に冷えていている時とかはあるけど。
寝相の問題?それくらいだ。
この腕は、アミーさんにもらったものだ。
スッカリ忘れていた。
・・・恩も忘れるなんて、オレ最低だな。
「素晴らしい。
適合は進んでいるようだ。」
そう言ってアミーさんがオレの右手を取る。
「指を動かして見てくれないか。」
指を動かす。
意志通りに動かせる。
そりゃそうなんだけど、
本当は当然ではない。
右腕は完全に失われたはずだった。
突然の理不尽に奪われた。
そのはずだった。
冒険者ギルドで目覚めたあの時・・・
「肩や腕に違和感を感じないかな?
自分の一部ではない感じとか?
実体験ではないから表現しづらいな。」
アミーさんの声が現実に引き戻してくれる。
もう一度肩を回す。
ヒジを手前に持ってきて伸ばす。
生まれ変わる前は、こんなに滑らかに動いたっけ?
学生時代とか?体育の授業くらいだったかな。
四十とか五十とかになったら、
腕が痛くて上がらなくなるとか言うけど、
もう既にあの時点で
上がらなくなってたかもしれない。
「ほうほう。いいね。」
温かい手が肩に乗る。
ボキッと腕が外れる・・・こともなく、
オレの腕をあっちこっちに曲げる。
常識の範囲内。
筋肉が動いてるのが分かる。
ストレッチみたいな感じだ。
「ふむ。良好だな。」
アミーさんはオレの後ろに立っているのだが、
スゴい。
何がスゴいって、存在感がスゴい。
オレの腕を持って色んな方向に回すもんだから、
色々当たってスゴい。
何も考えられなくって、
そのままアミーさんにされるがままになる。
やわらk・・・
「さてと。」
そう言ってアミーさんは
オレの前にイスを持って来て座る。
アミーさんの吐く息が手のひらに当たる。
ちょっと居心地が悪い。
「これから、ちょっとしたことを試そうと思う。
アータル。しっかり立っててくれ。
そうだなぁ。その壁の模様でも数えていてくれ。
すぐ終わるから。」
アミーさんはオレの右手を両手で掴むと、
何かをし始めた。
手のひらは下を向いているので、
体勢的にも無理は無い。
じっと見てるのも悪いよな・・・。
オレは言われた通り、黙って壁の方を見た。
改めて考えてみると、こんなの破格だよな。
ケガを治す魔法は、見たことがある。
白梟の中にも使える人が居た。
ソムも回復魔法が使えたが、
限度があると言ってた。
キズを塞ぐくらいはできるが、
骨折とかは、すぐには治せない。
だから無理し過ぎるなと。
病気もダメ。
そういった危険から身を守るために
知識を得るのです。とも言っていた。
欠損は治せない。
これはこの世界の常識だ。
死者は生き返らないと同じくらいの。
だけど、オレの右腕はある。
一度はなくなったはずなのに。
「.....。」
アミーさんが何かを唱えている。
たぶん魔法の詠唱だと思う。
だから立たせたままだったのか。
座ると詠唱の中身が聞こえてしまうから。
「.....。」
何か言っているのは聞こえるのだけど、
単語も聞き取れない。
抑揚のない音楽みたいな感じ。
アミーさん身体から熱を感じる。
そして温かい何かが、少しずつ腕を伝わってくる。
アミーさんを見下ろす。
ピンク色の髪。つむじが見える。
思わず触りたくなるけど我慢して
左手は下履きをギュッと掴む。
身体が少しずつダルくなると言うか、
身体を巡っている血を感じる。熱い。
立ってるのがキツくなる。
手に当たるアミーさんの息も熱い。
後ろでドアが勢い良く開く音がした気がする。
「ウッ」
自分の口から変な音が出る。
・・・オレは気を失った。
気を失う寸前。
オレは誰かに殴られた気がした。
用語説明∶
・白梟
とある街の冒険者チーム。
そこそこまともなチームではあるが、敵対しているチームに難癖をつけられているため、地元での人気は高くない。敵対チームからは、シロフクロウと呼ばれる。
・四十肩・五十肩
肩関節周囲炎のこと。加齢、運動不足などが原因と考えられる。肩の可動域が狭まり、腕が上がらなくなる。また上げようとすると痛みを伴う。現在の年齢が40代なら四十肩、50代なら五十肩と呼ばれる。
アータル「あのままだったらヤバかったかも」
???「いや。もう手遅れでした。」
・ソル
アータルが白梟時代に入っていたパーティの僧侶。
筋肉質の男性。
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