77 ソフトロボット
「未来の私」は首をかしげて数秒考え、
「遠い昔のことだからね。正確なところは覚えてない。だけど、中学生の頃に、あのレベルの物は造れなかった気がする。そもそも、私の時間軸では、未来のロタさんにも出会ってないし」
「あっ、そうか」
シュレナは納得し、
(あの出会いが、最初の枝分かれ、パラドックスだったのかも)
などと考察する。
そこへ、「未来の私」は口を開き、
「ただ、今の私なら、あのホタルロボット、もう少し柔らかく造るかもね」
「柔らかく?」
「ソフトロボットって知ってる?」
「何となくは。人と触れ合うために、メカの手先を柔らかい素材で造ってあったり」
二回、「未来の私」はうなずいて、
「そう、そう。あとは、制御する頭脳の部分と、実際に動く体の部分の境目があいまいなの」
シュレナは素直に、
「それは知らなかったな。あいまいだと、どうなるの?」
「例えば虫型のロボットなら、歩く地面のでこぼこに合わせて、脚の形や角度を変化させるの」
「その場で?」
「その場で。それで、変化させながら、くせや勢いを素材自体が記憶して、その先の形、角度も予測するわけ」
「形状記憶みたいに?」
首肯した「未来の私」は、
「発想は同じかな。例えば、災害救助で狭いがれきの下を撮影する際に、臨機応変に潜り込むためには、いちいち人工知能から命令を出すより早いんだよね」
「故障も少なそう……」
「まさに。ロボットの一部が欠損しても、部品自体が別々に考えることが出来るから、機能は停止しないしね」
「うーん、そう考えると、私のホタルロボットは、ガチガチに人工知能で制御してあるからなー」
と、シュレナは、自作したロボットを思い出す。「未来の私」は、
「中身を調べさせてもらったけど、まさにそうだったよね。プログラミングは正確だったよ。それ自体はすごい。でも、融通が利かないかも」
「決められた動作しか出来ない……」
「ということだね」
シュレナは、テーブルのホットコーヒーを一口飲んで、
「けどさ、仮にそのソフトロボットを究めて、リアルできめ細かな動作が出来るようになったとしても、それは、本来の人間からは遠ざかってるよね?」
「どうして?」
「だって、人間は、まず脳があって、脳の決定に従って体を動かしてるわけだから」
だが、意外にも「未来の私」は疑問を挟む。
「本当にそうかな。手足には意志は含まれない?」
「と思うけど。まあ、臓器移植では、ドナーの記憶が引き継がれるみたいな話も聞くけど」
「だよね」
(この話、どこに向かってるんだろう?)
いまいち、それが見えてこないシュレナは、
「一人の人間を小さく小さく細分化しても、体内の隅っこに自我は残ってるのか、みたいな話?」
「そのこととも関連はするけれど、より的確には、順番の話かな」
真顔になって、「未来の私」が答えた。




