75 特別ゲスト、頑張ったあなたへ
目の前に立つ女性。グレーのパンツスーツ。
背格好は同じくらい。年齢は、四十代か。自分の母親と同世代であろう。
髪型はショートボブ。丸眼鏡。シュレナと同じだ。
いや、同じなのはそれだけではない。
(間違いないっ、この人……!)
確信したシュレナは、
「あのね、私、今日はロタさんに頼まれて……」
という、この女性のあいさつをさえぎり、
「未来の私でしょ。そうだよね!」
大声を上げていた。
女性はほほえむと、右手の人差し指を口もとに当てて、シーッと静かにさせる仕草をした。
(うっ、確かにヤバい。これは極秘事項だっ)
シュレナは反省し、口を押さえるポーズ。
が、胸から脳天へ大興奮が突き抜け、頭がどうにかなってしまいそうだ。
とりあえず、テーブルに向かい合って座る。
注文したコーヒーが出てくるまでは、社会人よろしく、シュレナも無難な天気や服装の話しかしなかった。
お互い、コーヒーカップにズズッと一回、口を付けたら、それが合図のように、話の本題が始まった。
「何て呼べばいいですか?」
シュレナの問いかけに、相手の中年女性はにっこりと歯を見せて、
「そうだね。同じ名前だものね。シュレナとシュレナじゃ格好つかないね」
「未来の私さん、でいい?」
「それいいね!」
相手は強くうなずいた。
実際、そうとしか呼びようがない気がした。
相手の顔は、自分にそっくりだったからである。右まゆ毛付近のほくろも一緒だ。
いや、正確には、今のシュレナを二、三十歳ほど年を取らせたら、まさにこういう顔になるはずであった。
目もとや口もと、ひたいや首には、老いによるしわがある。
一方で、全体の雰囲気としては、鏡を見ている気分もする。
味わったことのない、不思議な感覚である。
声が似ているかどうかまでは、よく分からなかった。
(まあ、自分の声って、録音したら変なふうに聞こえるし。大人になると、しゃべり方も老けるだろうしなー)
とは思った。
中年の女性は、
「じゃあ、私はこのまま、あなたをシュレナさんと呼ぶね」
「はい」
うなずきながら、未来の自分に会えた奇跡に、シュレナの心臓は痛いほどドキドキしている。
それでも動揺はしておらず、普通に話せるのは、この件に関しては既にじっくりと考察してきたからかもしれない。
シュレナは、
「あなたは何年後から来たんですか?」
「およそ三十年後。ただし、時間は連続しているわけではないよ」
と、「未来の私」が答えた。
「どういうこと?」
「分かりやすく言えば、シュレナさんが仮に今命を落としたとしても、この私は消えないの。隣の別次元から来たというか」
「パラレルワールド?」
「に近いかもね。だから、お互いの境遇や記憶にも異なる点が多いの」
そう答えつつ、「未来の私」は少々困ったような微笑。




