72 有望な若者へ立ち直り策
先日、ロタがハヤミに、シュレナの件をメールで説明した時、「そのホタル型ロボット、是非とも見てみたい」とハヤミが興味を示したのだ。そこで、イリカの同意を取り、ロタは郵送して、貸し出したのである。本日の会合に先んじる形で。
ハヤミの感想は、今聞かされた通り、まさに絶賛であった。
「そんなにすごいんですね、これ」
リモリが丸テーブルを見つめる。上に置かれた黒い小型ロボット。六本脚。金属の光沢。
イリカもうなずいて、
「動作も安定してるしね」
リモリはロタを見て、
「もったいないじゃん、そんな才能が、ここで埋もれて、つぶされちゃったら」
こうして、話は本題へ入る。
今日、ここに集まった一番の目的は、シュレナを立ち直らせる方法を探ることであった。
ハヤミが尋ねる。
「文化祭以降、ロタさんとシュレナさんは何か交流はしてるんですか?」
「主にメールで。一日おきぐらいに届くので、まあ当たり障りのない返信をしてる感じで」
今度はリモリが、
「向こうの親は知らないのかな?」
「ああ、それは間違いないようだ」
「友達も?」
重ねてのリモリの問いに、イリカも口を開き、
「話してないと思う。シュレちゃんとロタと私、三人だけの秘密、共謀者みたいな雰囲気かな」
「俺たちを未来人だと思い込んでるわけだしな。下手に秘密が漏れたら、タイムパラドックスになるかもと、そこは慎重なんですよ」
ロタの補足に、
「そういうことね。なるほど」
リモリも納得顔。
ハヤミは、
「直接会ったのは?」
ロタはスーッと息を吸い、
「文化祭の後は二回ですね。何回も頼まれて、断り切れずに。シュレナさんは中学生ですから、もう会わない方がいいとは思うのですけどね」
シュレナの挫折には、成り行きとはいえ、ロタにも遠因があるため、そう邪険にも出来ないのだ。
「イリカちゃんと三人で?」
ロタはリモリに答えて、
「もちろん。喫茶店で会ってる。精神的に疲れ切ってるシュレナさんも、イリカと会って雑談をすると、多少は元気も出るみたいで」
「根本的な解決には程遠いけれど」
イリカの指摘に、リモリは、
「どういうこと?」
イリカはリモリと視線を交わし、
「世間話の後、ロタと私が励まそうとすると、すぐ、シュレちゃんは未来へ連れて行って、一回でいいからタイムマシンに乗せて、そればかり言うの」
「あちゃー、病んじゃってる感じなんだね」
と、顔をしかめるリモリに、
「俺もイリカも、下手なこと言えなくてさ。俺が未来人だという幻想にすがって、何とか正気を保ってるのなら、否定しちゃまずいのかもしれんし」
ロタはゆっくり答えた。
「私が間に入りましょうか?」
と、今度はハヤミが声を上げて、
「私がシュレナさんに会って、あなたの才能や発想がどれほど優れているか、本人に伝えるというのはどうでしょう?」




