73 夢へ一口
ハヤミの提案に、ロタは数秒の沈黙。
が、絶句したのとは違う。気分は落ち着いていた。
どこかで、その展開を期待していたのかもしれぬ。
リモリやイリカを見やるも、誰もしゃべらない。
やはり自分が決めるべきだなと、ロタは言葉を発する。
「そうしていただけるのなら、シュレナさんにとってこの上ないことでしょうけど……」
何せ、ハヤミは人工知能にかけては国際的な科学者である。理系を志す若者にとって、尊敬と憧れの対象だ。
ロタは考えがまとまらず、フワフワした心持ちのまま、思いついたことを述べる。
「んー、ハヤミさんとシュレナさんが会うための段取りといいますか、口実みたいな物は、いかがいたしましょうか?」
ハヤミはほほえむ。ロタの困惑ぶりを、少し面白がってもいる様子だ。
「口実なら、ロタさんの知り合い、というつながりで、説明は付きそうですが」
リモリが明るく笑って、
「いいですね。ハヤミ先生の特別出張授業ってわけですね」
ハヤミはうなずくが、リモリは真顔に戻り、
「あっ、でも、ハヤミ先生は有名人ですからねー。一介の中学生といきなり御対面というのも、釣り合いというか、何だろうな、世間的にちょっとどうなんだろ」
と、今度はあごに指を当てて考え込む。
ロタは、
「誰かに目撃され、ネットに写真が拡散されたら、あの女の子は何者だ、とかなるかもな。あるいは、シュレナさん本人が有頂天になって、あのハヤミさんから褒められたと吹聴するかも」
ハヤミも少々思いとどまったらしく、
「なるほど。シュレナさんはまだ子供ですしね。しかも、精神が弱っている状態」
ずっと黙っていたイリカが、強めの口調で、
「その案の最大の問題点は何かといえば、ロタと私が未来人だというシュレちゃんの世界観を、崩してしまうこと」
ロタは、そこについて余り意識していなかったが、
「言われてみれば、そうだわな。ハヤミさんに会わせる以上、俺が十年前にイリカ製作をハヤミさんに依頼したことは、説明せざるを得ないからな」
「全てが勘違いだと分かった時、シュレちゃんは恥ずかしがるだろうし、傷つくと思う」
と、イリカは青と緑の目を細めて、つらそうな表情を作る。
一同がしばし沈黙した後、
「いっそのこと、シュレナちゃんの幻想に、私たちも一口乗るか」
妊娠でふくらんだおなかをさすりながら、リモリが笑った。
「一口乗る?」
聞き返しつつ、
(あっ、何かひらめいたな)
と悟ったロタ。
リモリの瞳には、出会った十代の頃のような、得意げな輝き。
リモリは、
「この作戦には、クミマルさんの力が不可欠だなあ」
「クミマルさん?」
お次はハヤミが問い返す。
(おっ、懐かしい名前が出たな)
イリカの外見を造った人物である。
リモリは皆を見回して宣言する。
「イリカちゃん製作チーム、再集結だよ」




