68 親御さん、親御さん
「どうして、私がここにいるって分かったんですか?」
シュレナの質問に、ロタは困ったように顔をしかめる。よほど、言いたくない方法を用いたのだろうか。
イリカも、何やら神妙な表情で、口を硬く結び、横目でロタをうかがっている。ロタがしゃべるまで余計なことは言うまいと判断しているようだ。
(そんなに警戒しなくたって……)
シュレナは気まずくなり、取りなすように、自ら答えを述べることにした。
「愚問でしたか。もちろん、未来から見ててくれたんですよね」
普通に考えれば、それ以外あり得まい。
先のことが読めていない限り、これほどタイミング良く登場できるはずがないのだから。やはり、ロタは未来人なのだ。シュレナはそう確信した。
ロタは、口をあけて何か言いかけたが、それはため息に変わった。
適当にごまかそうとしたものの、あきらめたのだろうか。
しばしの沈黙の後、ロタは白髪の頭をかきながら、
「んー。その話は一旦保留にしようや。今は、家に帰るのが先だわさ。親御さんも心配されてるだろ」
(まーた子供扱いして!)
シュレナは、ロタをにらんで、
「二言目には親御さん、親御さんって」
ロタは苦笑いをした。
(そんな笑い方をしても、ごまかされないよ!)
一瞬はそうも思ったシュレナだったが。
すぐに考えを改めた。何と、イリカも同じ苦笑いを浮かべていたからである。
(今回ばかりは、さすがに私が不利か)
と、シュレナも悟る。騒動の原因を作ったのは自分なのだし。たった今、謝った手前もある。
シュレナが静かになったのを見計らってか、近寄りながら、再びロタが声をかけてくる。
「とりあえず、自転車、私が代わろう」
両腕を伸ばして、ロタは自転車のハンドルをつかんできた。負傷したシュレナの代わりに、押してくれるという申し出である。
シュレナは自転車から手を放し、会釈してお礼を言いつつ、脇へどいた。
だが、
「いてててて」
軽く悲鳴を上げ、よろけるシュレナ。
けがをした右膝に、重心がかかったためだ。
「大丈夫?」
ウィーンッ、ガシャッ、ガシャッと足音をたてて、イリカも寄ってきた。
路面に踏みとどまり、中腰になったシュレナは、ズボンの布地越しに右膝をさすりつつ、
「イリちゃん、出来ればでいいんだけど」
と、イリカの巨体を見上げる。
「なあに?」
「おんぶして」
シュレナの頼みに、イリカは無言でほほえんだ。
(あっ、機能的には問題ないんだな)
その顔から、即、気付いたシュレナ。
事実、自転車を体の横に立てたロタも、かすかに意外そうな反応を示したのみで、
「気を付けてな」
の一言だけ。
「どうぞ」
と、イリカは背を向け、脚からギュイーンと大きめのモーター音をたててしゃがんだ。
(うわー、やっぱりすごいなあ)
イリカの背中はとても広かった。




