67 再会、ねぎらいと謝罪
「よかった、シュレちゃんからそんなふうに言ってもらえて」
答えながら、今回初めて、イリカも笑顔を見せる。
ロタの話によれば、イリカには感情も自我もないという。
すなわち、「笑ってもいい程度には、事態が好転した」と人工知能のプログラムが判断したということなのだろう。
実際、その通りではあった。
イリカが、外を一人で出歩いているとは思えないからだ。恐らく、今、近くにロタも来ているはずである。大人の知人がそばにいるのなら、シュレナにとっては一安心だと言えた。
そのことを尋ねてみる。
「ロタさんは?」
と、シュレナは辺りを見回す。
イリカは即答する。
「うん、いるよ。さっきまで一緒だったんだけど、この辺りは道が入り組んでるから、二手に分かれて探してたんだよ」
「やっぱり、わざわざ私を探しに来てくれたんだ?」
「もちろんだよう。たまたま、こんな所で会うわけないわさ」
突然、男の太い声が割り込んできた。知っている声。
「ロタ!」
イリカが振り返り、シュレナもそちらを見やる。
塀と街路樹の陰から、長身の老人がのそりと姿を現す。ブラウス状の上着を羽織り、長ズボンの軽装だ。ロタである。顔は笑ってはおらぬが、穏やかだ。シュレナを見付けて安堵しているのだろう。
「話す声が聞こえたからね。ああ、発見したんだなと。よかったよ無事で」
と、ロタはこちらへ歩いてくるが、
「おや、そうでもないか?」
心配そうにシュレナの脚の方を見てくる。ロタは続けて、
「大丈夫かい?」
右膝を曲げて自転車の横に立っているシュレナを、不自然な姿勢だと思ったらしい。
「えっ、けがをしているの?」
ここで初めて、イリカも視線を下げ、シュレナの膝辺りを眺める仕草をした。人工知能では、そこまでは見抜けなかったようだ。
(ふーん。こういう微妙な判断力や観察力は、まだ人間の方が上か)
などと分析しつつ、
「自転車でコケちゃって、膝打ったの。歩く分には平気」
と、シュレナ。
イリカ、ロタの順に話しかけてくる。
「痛い?」
「痛い。当分、治んないかも」
「車、乗ったらいい。すぐ近くに停めてある。ワゴン車だし、自転車も積めるはずだから」
「本当ですか。うわー、ありがとうございます!」
シュレナはそれぞれに答えた。
さらに、
「御迷惑をかけて、済みませんでした」
シュレナは、自転車を両手で支えたまま、深く頭を下げて二人へ謝罪する。
ロタは、フーッと長めに息を吐いて、三秒ほどシュレナと目を合わせた後、
「心配しましたよ。でも、俺たち、今まで色々なことがあり過ぎて、もはや、誰がどこまで悪かったのか、分からん感じもしますけどね」
言い終わってから、ロタは疲れた顔で苦笑いをした。
(あっ、今の言い方は、私を責めないように気遣ってくれたんだな)
シュレナはそう察した。




