64 イリカ号発進
三次高。正式名は「三次元高速道路」。
要は、スカイカー、空飛ぶ自動車専用の空中道路である。
近年、飛行機能を備えた車は急速に発展。実用化が待たれていた。
二年前から、主要先進各国と足並みをそろえ、我が国も実証実験をスタート。三次高は、まさしく官民を挙げた壮大なプロジェクトであった。
昨年度、都心の数箇所に限定し、試験的に導入が始まっている。まだ、定められた二地点を、一方通行しか出来ない。
「飛ぶのは三回目だが、やっぱ怖いなあ。海は初めてだし」
「大丈夫だよ、ロタ。私も見ているから」
助手席のイリカが励ます。
ロタは、飛行用のアクセルを更に踏み込んで、慎重に高度を上げていく。
飛行機能付き特別仕様車「イリカ号」は、四つのタイヤをゆっくりと内側へたたみながら、夜の高層ビルの狭間を飛ぶ。
このエリアは三次高として使われているため、ビルとビルとの間は広めにあけられており、しかもきれいに直線状だ。ここは湾岸の都市。このまま海の上空へと抜けられる。
「前方に一台飛んでるよ。車間距離、気を付けて」
「了解」
イリカの警告に、ロタが返事をする。
海面には、十メートルおきに装置が二個ずつ浮かべられ、レーザー光を夜空へ照射していた。細く、左右に二本ずつ。「この内側を飛べ、はみ出すな」という目印である。
右の窓越しに外をちらりと振り向けば、眼下に港と貨物船の明かり。
次に、スピードメーターに目をやると、既に時速九十キロを突破。飛行の動力は、車体上部のプロペラと、後部の小型ジェットである。
「行き先と三次高が、偶然一致してよかったよ。本来なら、陸地の道路をぐるりと回らなきゃならないのに、こうして、真ん中の海を突っ切れたんだから」
しみじみと語るロタに、
「すごい近道だよね」
イリカも同意した。ロタは、
「イリカのおかげだよ」
これで、所要時間は大幅に短縮。
このワゴン車「イリカ号」は、一年半前、イリカ納品と同時期に受け取った物。
イリカのメカ動力部を造ったマノウが、ハヤミたちと協力し、ついでに製作してくれたのだ。
飛行機能も付けてくれたので、せっかくだからと、ロタは教習所で「特認免許証」を取得。これで三次高を利用できるようになったわけである。
なお、現在はまだ、この免許を持つ者は少ない。制度が試行されたばかりで、皆、様子見をしているようだ。
左右のガラス窓を、外のレーザーの光が何本もパパパパパッと高速で後ろへ流れていく。例えるなら、地下鉄から見るトンネルの壁の明かりのように。
やがて、湾の向こう側の陸地が、前方に見えてきた。
海沿いのコンビナートの照明や煙突、その向こうには堤防と街明かり。
(西アラタバシ四丁目は、真っ正面に見えてる街だよな。シュレナさん、今行くぞ。無事でいてくれ!)
ロタは着陸態勢に入った。




