55 シュレナ対、教頭先生
「昨日、こちらのサミヤ先生から聞いたと思うんだが、今年の文化祭に、理学研究部からのロボット出展は、残念だが、不許可とすることにした。
理由は、これも聞いただろうけども、安全上の配慮だ。近頃はネットも発達して、学校も説明責任を求められる時代だ」
椅子に座った教頭は、机の上で両手を軽く組んで、上目で話してきた。
威圧的ではなく、口調は静かであったが、異論は受け付けぬという意志も感じさせた。
不許可を改めて告げられると、やはり胸がチクリと痛む。
教頭の横で、いかにも申し訳なさそうにうつむくサミヤを見て、
(わざとらしい態度だよなあ)
とも感じた。上司の手前、仕方ないのだろうとは察しつつ。
(まあ、だからって、サミヤ先生が変に私の味方になって、ドラマみたいにかばってくれても、それはそれで困るしなー)
と、一方でそう考える冷徹さも、今のシュレナには備わっていたが。
見回せば、職員室の席も、既に半分は埋まっている。
教師たちは皆、授業の準備や雑談中だが、教頭の席の近くに立つシュレナとサミヤの様子は気にしており、聞き耳を立てている。
(今ここで大声でけんかしても、理学研究部の評判が悪くなるだけ。淡々と反論あるのみ!)
シュレナは、ズボンの横で右拳を握り、
「言うの遅過ぎませんか。文化祭は十月ですよ。あと一か月しかないのに」
「それについては、我々にも反省すべき点はあると思う」
予想に反し、教頭が落ち度を肯定してきたので、出ばなをくじかれたシュレナは、
「あれっ、そこは認めるんですね?」
不覚にも、少し笑ってしまった。
教頭の口もともかすかにほころび、
「あなたが、意外と冷静だからだよ」
「どういう意味でしょう?」
「私はね、今日、あなたに怒鳴り込まれる覚悟でいたんだよ。ところが、内心は穏やかじゃないのに、グッと抑えてる。
そういう姿勢の生徒に敬意を表し、我々教育者が一歩下がらないのは、誠実ではないだろう」
(こいつはガキじゃない、話せば分かると思われたってことか)
シュレナは自己分析する。
大人からそう言われれば、子供として多少は自尊心をくすぐられもする。
が、扱いやすい奴だと丸め込まれてはたまらない。シュレナは教頭をにらみつけ、
「では聞きますけど、なぜこんなギリギリに?」
「対応が後手後手に回ったことは、率直に認めたい。
教師は、日々、少ない人員で業務をこなしていて、一つ一つの作業が雑になることもある。あとは、優先順位なのだよ」
「まあ確かに、私を最優先にしろというのは、わがままですよね。けどさ、うちの部活を雑に扱うなら、ロボット展示ごとき、説明責任とかすっ飛ばして、サクッと認めちゃえばいいのでは?」
中学生にしては、痛烈な切り返し。
こんな皮肉をとっさに思いつけたのも、ロタとの昨日の口げんかの成果かもしれない。




