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52 中学の文化祭は人生で三回だけ

 シュレナの声が硬くなる。

「何それ。あきらめろってことですかっ?」

 耳に当てたスマホを、ロタは横目でちらりと見て、

「そうは言ってないさ」

「言ってるよね!」

「気に障ったならごめんなさい。だけどね、これを機に、ちょっと目先を変えてみるのも……」

 と、口調を穏やかにしても、シュレナは収まらない。

「中学の文化祭は、人生で三回しかないんですよ!」

「いや、そりゃ分かりますよ……」

「今しか出来ないこと。取り返しはつかないのに!」

「確かにそうだし、それを茶化すつもりはないよ」


 なおも抗議してくるシュレナをなだめながら、足もとの買い物袋二つをロタは見下ろす。

 ベンチそばの地面に置かれたビニール袋は、晩夏の暑さのため、中身のボトルなどが水滴で貼り付いている。

(要冷蔵の物はないけど、食品だからなあ。お惣菜もパンもあるし。冷房の効いた部屋に早く移動しないと、傷んじゃうなあ)

 そんな雑念もよぎる。

 顔や背中は汗ばんできた。

(この暑い中、何やってんだろ、俺。彼女でも家族でもない、女子中学生のお悩み相談とはね)


 むなしさといら立ちで、ロタの返答も次第にささくれていく。

「いや、シュレナさんさ、社会で四十年働いた感覚で言わせてもらうと、学校の対応は、一概に非常識でもないと思うぜ」

「どこが!」

「他の生徒さんもいるわけでしょ。あなただけじゃないんだよ。みんなに目配りしてるわけ。全体のバランスも考えないと」

「私がロボットを出品したら、バランスが崩れるの?」

「たった一人の部活のために、前例なきロボット展示を認めるって、相当な特別扱いだよね。不公平だと感じてる子もいるんじゃないか?」

 電話口が静まる。

(本音を言い過ぎたか?)

 ヒヤリとするロタ。


 またも、スマホ越しの雰囲気が変わる。

 怒りではない。シュレナの口調は、むしろ落ち着いて、低く、ゆっくりになる。

「そんな、先生みたいなこと言わないで」

「先生?」

「建前や一般論が聞きたいわけじゃないの」

「えっ」

 急に冷静な態度になったシュレナに、ロタは困惑する。

「腹を割って話しましょうよ」

 腹を割るなどと、おおよそ女子中学生らしからぬ物言いに、ロタは、

「いや、誠意を持って話してるつもりだけども。私は定年退職した人間だし、単なる高齢者だぜえ。少なくとも、ケミホ中学校に対しては、俺は何の社会的影響力もないよ」

「謙遜しないでくださいよ」

「してないよ」

「私、知ってるんだから。ロタさんが未来から来たってこと。私が気付いてないとでも思った?」

「なっ……」

 絶句するロタ。

 しかし、笑ったり取り乱したりはしなかった。どうにか、その言葉はギリギリ受け止めることが出来た。

 なぜなら、七月のリモリとの電話で、その思い込みの可能性に関しては既に聞かされており、一応、ロタの想定内ではあったからだ。

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