46 さまざまに、大人は見ていてくれて
お別れ直前のあの一言。ロタの態度は毅然としており、異論を認めない怖い顔であった。
恐らくだが、今夜はこのセリフだけは必ず告げる予定だったに違いない。だからこそ、デリケートな質問にも答えてくれたのであろう。言うなれば、最後のサービスとして。
「そりゃあ、私だってさ……」
と、シュレナは出だしだけ声にして、あとは心の中で、
(見知らぬおじいさんたちと密かに会ってるなんて、親にも友達にも言えないけどさ。学校にバレたらヤバいし。それぐらい分かるんだけど)
理屈としては納得しているだけに、シュレナも言い返せず、二人を黙って見送らざるを得なかった。
こっそり二人の後をつければ、未来へタイムワープする瞬間を目撃できるかもしれないと思いかけたが、やめておいた。
もし本当に二人が未来人なら、たやすく見破られるおそれがあったためだ。また、心情的にも、そういうアンフェアなことはやりたくなかった。
(もっと、イリちゃんと話したいのに。科学のこと、未来のこと、聞きたいのに)
腰かけていた岩から、シュレナは立ち上がると、浴衣のお尻をわざと豪快にパンパンとたたき、
「まあ、私のこと、嫌ってはいないよね。もう絶対会えないとまで断言はされなかったし、希望はあるっしょ!」
すると、大きめの独り言が少し耳に入ったらしく、
「どうした、お嬢ちゃん。待ち人、来たらずかい?」
近くの屋台から、年配男性の気のいいだみ声が飛んできた。
振り返った瞬間、ソースと魚介類の焼ける香ばしさが、シュレナの鼻をくすぐる。
(この匂い、焼きそばだっ!)
思った通り、すぐ近くに焼きそばを売る屋台があり、大きな鉄板の向こうから、スキンヘッドの男性がにこにことこちらを見ていた。中年で、体格は太めだ。
「ううん。来たけど、帰っちゃったんです、予想よりも早く!」
シュレナは声を張り上げ、真面目に答えた。今の、当たらずといえども遠からずの質問が、妙にうれしかったからである。自分のことをよく見てくれている気がした。
スキンヘッドの焼きそば屋さんは、だみ声で続ける。
「そいつは残念だったねえ。せっかく、かわいい浴衣なのに」
「ありがとー」
「どうだい、そんな時こそ、出来たての焼きそば」
シュレナは噴き出して、
「うん、いただきます」
慣れない浴衣での足取りで、とてとてと屋台へ近寄る。
手前には、大きさ別に四角い透明容器が置かれ、値札が貼られていた。サイズの目安だ。財布を出しながら、指を差すシュレナ。
「じゃあ、この、一番でかいやつ」
男性は意表を突かれたように、
「食えるかい?」
「今、たくさん食べたい気分なんです」
おじさんは強くうなずいてくれた。
「よしきた。マヨネーズは?」
「たっぷり!」
「ほいきた」
四人前特大焼きそばマヨネーズがけが、シュレナの晩ご飯となった。




