最たる試練
格好良く台詞を言ったものの俺がする行動は直接的に守るとは別のものだ。
俺はある方向へと槍を突き、ここまで移動してきた。
全てはここにあるバイクに乗るため。
鍵はかけたままで、二人目が乗れるような大きさのバイク。
これに乗って、車から距離を取る。
そうすれば追いかけてくると信じて。
「バイクに乗るんだ!早くッ!」
名前を知らなかったためして欲しいことだけを言ったが通じたようだ。
依頼物の女の人はバイクの後ろにの部分に座った。
「逃しはしない。お前が必ず守るという決意を持つように、俺にも必ず殺すという固い意志がある!」
バイクを蹴り倒そうとする男に俺は槍を向けた。
「こっちを見ろ。お前はどう足掻いても俺たちを捕らえることはできないんだ」
少しだけこちらを見たその男の前に槍を突く。
槍はその位置で小さな爆発を起こした。
一日の魔術の限界には到底及ばない程度の小さな規模だ。
「逃げるぞ!運び屋の支部から離れた場所へ!」
…俺が持ってきたバイクで逃げられたのか。
奴の方を見ず、一目散にバイクを蹴っていれば爆発の前にバイクを横転させられただろうが…。
…下沢の死体は爆発の攻撃を受けていた。
奴だろうな。結果として俺は復讐の相手の一人を見つけた。
北見の死体は見つけられなかったが、先に車の男二人を始末さえすれば…。
いいや、先に奴らだ。さっき奴は今、この瞬間に成長していると言った。
これ以上はもう、奴のために時間は割けない。
一番の復讐相手を間違ってでも逃すわけにはいかない。
「命を燃やしてでも、俺は奴らを始末する。そう決めたじゃあないか」
…臆病にも今まで生きてきた。
だがもう迷いも後悔もしないだろう。
ヒュプノスの背中には日笠を追うための翼が、手にはトドメを刺すための枯れ木の槍が、瞳には死のその瞬間を目に焼き付けるための炎が宿っていた。
言葉のままに、ヒュプノスは命を燃やして魔術を強制的に昇華させた。
ほんの僅かな時間で命を落とすとも知らずに魔術のリミットを破り、死神へと為った。
これは試練。日笠にとっても、ヒュプノスにとってもだ。
「土産は奴らの死だ。下沢。楽しみにしておけ」
空に放たれた死神は近くにいるありとあらゆる生物を眠りに堕とした。
寝ていない人間はただ一人。
奴こそが復讐の標的。
….来る。奴は俺たちを見つけた。
この視線は、この悪寒は、さっきまでの奴とは何かが違う。
後ろにいる、女も眠りについた。
敵の魔術も俺の魔術のように成長している。
きっとさっきまでと同じではないのだろう。
それでも、一対一なら奴には銃に頼るしかないはずだ。
有利なのはまだ俺の方だ。
―決着の時は近い。




