三十七日目
ザク、ザク、と農業ギルドにある畑に鍬を振り下ろして土を耕す。
異世界に転生して来て、早くも二年が過ぎた頃。詩音は仕方がないとずっと諦めていたことがある。
日本と異世界とでは当然ながら何もかも違う。
人も、生活も、種族も、環境も、食糧事情も何もかもが違う為にどうしてもできないことがある。
多少は日本の知識を活かしてそれらしい物を作れることはできても、手の施しようのないものもある。
今から詩音が行うのは言ってしまえば改革だ。
この世界における食における改革。
そう、米である。
異世界では日本と違って麦はあっても米がない。
白く温かい御飯。冷めても美味しい御飯。焼いても美味しい御飯。
日本では毎朝食べていたお米を詩音は異世界だからと諦めていた。だが、今は違う。
以前に倒した植物の魔王を倒したことで得た特殊能力である『植物創造』を使えば米を作り出すことができるはず。
いや、してみせる。
米があれば食事事情も一変してよりよい食事が取れる。
米は何にでも使えて、調理法も多数存在する。
そのまま焚いて食べても良し、調理に使うのもよし。
飲んだことはないが、米で日本酒を再現させてそれを商品といて売るにもありだ。
想像するだけで笑いが止まらない。
その為にも農業ギルドにある畑を改造(もちろん許可済み)して米を能力なしでも生成できるようにしないといけない。
米を育てる環境を作る詩音の手は不意に止まる。
「待てよ、大豆も作れば………………………」
味噌も醤油もできる。
もしできたら異世界で日本食が食べられる。
やろう………………。
この世界は俺が変えてみせる。食で。
「お疲れ様~、頑張ってるね~」
「あ、トレイヤもお疲れ」
農業ギルドで働いているトレイヤは自分の分の仕事が終えたのか、詩音の傍までやってきた。
歩く度に上下に揺れるその大きい胸につい目がいってしまうのは仕方がないことだ。
だって男の子だもん。
「シオン君なら~いくらでも見ていいよ~」
「………………………………ありがと」
当然のように視線に気づくトレイヤは柔和な笑みと共に大胆にもそう言う。
実際には既に見るだけではなく、自分の思うがままにトレイヤの胸をほぼ毎日好きにしているのだが、何度しても飽きることがない。
それどころか嵌ってしまう。
爆乳という魅惑につい手を出したくなるのは男の性だ。
トレイヤの胸に顔をうずめれば幼い子供のようについ甘えたくなってしまう。
今はまだ幼いフローリィがいる為に居間などでは甘えない様に自重しているも、二人っきりになるとその分も含めて甘えてしまう。
トレイヤもそれを笑って受け入れて甘やかしてくれるから情けなく思いつつも甘えてしまう。
今更ながらもノービリス公爵がトレイヤを手に入れたくなる気持ちが分かった気がする。
もっとも強引な手段を使ったことは許すつもりはないが。
「畑は順調~?」
「まあね。とりあえずまずは環境を整えないと定期的な収穫も難しくなるし、なによりいいものが育たないから」
「そっか~」
詩音は米ができたとしてもその権利などを独占しようとは思わない。ただ米が食べればいいだけで、独り占めする気は初めからない為にそう言う権利などは農業ギルドに譲るつもりでいる。
それで農業ギルドが儲かればギルドの下で働いているお年寄り達の給料もよくなるだろうし、備品も新しくなれば仕事も捗る。
給料が良くなれば新しい人材だって入ってくるかもしれない。
皆は一人の為に、一人は皆の為に、だ。
独占は余計な妬みや恨みまで買ってしまう。
「トレイヤの方は仕事は終わったの?」
「終わったよ~。それとおばあちゃん達が早く子供の顔を見せてくれって言われたな~」
「ばあちゃん、気が早い………………………」
農業ギルドでも詩音とトレイヤやセル達の関係は広まっている。
だからそういう話で盛り上がるのも無理はないが、少なくともまだ子供を作る気はない。
トレイヤは自身のお腹を撫でながら微笑ましく言う。
「シオン君の子供なら~何人でも産むからね~」
「トレイヤの負担がかからない程度に、ね。無理は絶対にしないしさせない」
「は~い」
沢山の自分の子供達に囲まれる生活も悪くはないが、無理に身体に負担をかけさせてまでする気は一切ないし、安定した生活を送りたい。
今度、その辺をしっかりと話し合う必要性がある。
「そういえば喫茶店の方はどうしたの?」
今は詩音の家で一緒に住んではいるも、トレイヤには元から住む家があり、趣味で喫茶店を開いていた。
店の方はどうなったのかと尋ねてみると。
「時折だけど開いてるよ~。元からお客さんも少ないからね~」
「じゃ、また食べに行ってもいい?」
「もちろんいいよ~」
トレイヤの料理は家でも食べられる。だが、それとこれとではまた違う趣がある。
「それと~私も食べていいからね~」
「………………………………それは夜のベッドの上で」
誘惑してくるトレイヤにはっきりとそう返す。ここでする気もなければ店でする気もない。
でも、女性の方からそう言ってきてくれる自分は間違いなく幸せ者だろう。
詩音は再び鍬を担いで土を耕す。
トレイヤは邪魔にならない場所で仕事をする詩音の姿を微笑みながら眺めていた。




