三十一日目
キャリティアはモンスターが入ってこない様に防護壁が街全体を囲むようにある。
人が出入りする門には常に街の警備員が24時間交代制で検問を行っている。
今日もいつものように検問をしていると、警備員は外套を纏い、フードで顔を隠しているその人物に声をかけた。
「止まってください。身分を証明する物、なければ署名をお願いします」
いつも通りの問いかけをする警備員はふとその人物の足元を見て裸足だということに気付いた。
外套もよく見たらボロボロ。もしかして盗賊に捕まって逃げてきたのかもしれないと思った警備員は優しい性格を持つ人格者なのだろう。
だからこそ、反応が遅れてしまった。
「え―――」
ずぶりと、腹部に植物の幹のようなものが突き刺さっていた。
植物の幹が引き抜かれて警備員はそのまま地面に倒れてしまう。
「うふふ。さぁ、私の玩具達。待っていなさい」
フードの中から見える翡翠色の瞳は妖しい輝きと共に街中を見つめる。
詩音は今日もせっせと働いていた。
昼時はいつも忙しい『火の猫帝』。調理場で料理を作って提供していた詩音はお客が少なくなってきた時間帯を使って隣で鍋を振るっている料理長に尋ねた。
「料理長。小さい子供ってどうしたら心を開いてくれますかね?」
「そんなもんこっちから心を開いて根気強く接するしかねえだろう」
男らしい意見が当然のように返ってきた。
「子供っていうのは人の好し悪しがわかるんだよ。隠し事したって無駄さ。だったら下手に隠さず堂々と接してやればいい」
流石は子持ちの父親なだけあってその意見はとても参考になる。
「んで? 子供でもできんのか? お前とよく一緒にみかける使用人の子か?」
心なしか嬉しそうに言ってくる料理長に詩音はリゾットの事について話した。
奴隷オークションで落札したことは伏せて、女の子を拾ってとだけ教えた。
「チッ」
「なんですかその舌打ち………………………」
その話を聞いた料理長は苛立つように舌打ちして詩音の言葉を華麗に無視する。
そんなに娘であるルージュが心配ならもっと構ってやれと内心でぼやく。
「まぁ、大事にしてやれば子供はそれに応えてくれるさ」
「なら料理長はもっとルージュちゃんを大事にしたらどうですか?」
「何馬鹿言ってやがる!? これ以上にないぐらいに大事にしてんぞ!! 娘に近づく害虫をどれだけ陰で追い払った事か!?」
「あーなるほど。大事にし過ぎて駄目だったのか………………………」
ルージュが実の父親ではなく詩音に懐くのはそれが原因かもしれないと、納得してしまった。
というよりも料理長も親方も親馬鹿過ぎて困る。
度を超すのもよくないと、いい意見が聞けた詩音は作業を終わらせて着替えて裏口に回る。
「それではお疲れ様でした」
「おう、明日も頼むぞ」
「はい」
裏口から出て路地から表通りに出る詩音は街中が妙に騒がしいことに気付いた。
何かあったのか? 訝しげにそんなことを思っていると。
「旦那!! まずいことになった!!」
必死の形相でガーゼが詩音の元まで駆け付けてきた。
「何かあったのか?」
率直にそう尋ねるとガーゼは現状を詩音に告げる。
「魔王だ!! 魔王がこの街に来ちまったんだよ!!」
「はぁ!? ちょっと待って! 魔王が人格を持つまでまだ一週間以上は先の話だろう!?」
「俺だってわかんねぇよ! 情報収集していたら魔王が突然この街にいたんだよ!! さっきから人を襲って楽しんでやがる!!」
予定外の魔王襲撃。
まだ余裕があると思って油断していたのが仇になった。
「場所は!?」
「南地区だ! 騎士達が戦っちゃいるがさっきから防戦一方どころじゃねえ! あれは蹂躙だ!」
既に被害者が出ている。詩音は収納指輪から対魔王用に作った漆黒の鎧を装備し、愛刀である『夜月』を持って跳躍し、屋根伝いで移動する。
飛び散る悲鳴、破壊音が詩音の耳に届いた。
無意識に歯を噛み締めてしまう詩音は脚に力を入れて加速する。
そして南地区に到着すると、そこは地獄絵図だった。
「あああああああああああああああああああああ俺の、俺の息子がぁああああああああああああッッ!!」
「やめろやめろやめてくれぇぇえええええええええええええええええええええ!!」
「無いものがあってあるものがないって嫌だぁぁああああああああああ!!」
「返せ、返してくれぇぇええええええええええええ!!」
「女になるのは嫌だぁぁあああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
「あっははははははははははははッッ!! さぁ、人間の雄達、私好みの可愛い雌にしてあげるわ!!」
阿鼻叫喚を上げる勇ましい、いや、勇ましかった騎士達や魔王を討伐しとうとやってきた冒険者の男性達は高笑いする魔王と思われる女性の植物のような幹を受けて何かを流し込まれると、骨格も声帯も性別も女性に強制的に変えられている光景だった。
魔王は植物系の魔王なのか、人型ではあるも全身が植物のように緑色で頭には薔薇のような花が咲いていた。そして、魔王は男性を執拗に狙って自身の一部と思われる植物の幹を男性に突き刺して性転換させた。
それに男性達は悲鳴を上げ、武器を捨てて逃げようとするも捕まり、性転換されている。
女性冒険者や騎士達は剣などを振るって植物を切ろうとするも切り傷一つ付けられていない。
「なにこれ?」
詩音は思わずそうぼやいた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおなんじゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
「あああああああああああああああああ親父がお袋になっちまったぁぁあああああああああっっ!!」
「あ、親方にアベルナ」
よく見れば知り合いがいた。
あの厳ついドワーフの親方も勇敢にも戦おうとして植物の幹に刺されたのだろう。親方が女将になっていて娘であるアベルナは悲鳴を上げていた。
「えっと、鑑定能力」
とりあえず相手の情報を知ろうと鑑定能力を発動させて魔王を視る。
名前:カオスローゼ。
Lv:70
体力:7554
筋力:7075
耐久:7112
敏捷:7210
器用:7890
魔力:7948
魔防:7954
魔法
水魔法(初級Lv9・中級Lv7・上級Lv4)
土魔法(初級LvMAX・中級Lv5・上級Lv3)
光魔法(初級Lv9・中級Lv6・上級Lv5)
生命魔法(初級LvMAX・中級Lv8・上級Lv6)
能力
魔王(LvMAX)
植物操作(LvMAX)
植物創造(LvMAX)
自然再生(LvMAX)
混沌妖種(LvMAX)
百合(LvMAX)
「………………………………なんだよ、能力が魔王って、百合って………………………」
魔王はまだいい。百歩譲ってまだ納得できる。だけど、百合ってなに? 植物の方の百合だよね? と詩音は強引にそう言い聞かせて納得しようとする。
「じゅるり、さぁ、私の可愛い玩具達には私の可愛い子を孕ませてあげうわ。大丈夫、痛いのは最初だけだから」
頭が痛くなってきた。
うねうねと動く植物を片手から出しながら戦意喪失した元男性騎士が鎧を剥がされて全裸にされ、植物によって吊るされている。
よく見たらそれ以外の女性(元男性)も植物によって身体を拘束されて吊るされていた。
もしかしたら本当の女性もいるかもしれないが、見分けがつかないのが現状だ。
正直相手にしたくない。他の誰かに討伐をお願いしたい。
自分まで女にされたくない。
男として失ってはいけないものまで失ってしまいそうだ。
「でもまぁ、行くしかないよな………………………」
自分の愛する人達を守る為に詩音はカオスローゼの前に姿を現す。
「あら、私の玩具になりにきたの?」
余裕たっぷりのその言動。しかし、詩音はその言葉を無言で返して愛刀を鞘から解き放つ。
「乱れ裂けろ、裂空」
「え?」
刹那、植物によって拘束していた騎士達や冒険者達が植物が切断されたことによって解放される。
「荒ぶれ、轟炎」
「ちょ!?」
夜月から放たれた炎を植物によって防御するも防御した植物は灰になり、完全に防ぐことができなかったカオスローゼはその身が炎で焼かれる。
「あああああああああああああああああああこ、この――――」
能力自然再生によって傷を再生し、自分に手傷を負わせた詩音に攻撃しようと植物を操作しようとするも―――
「炎中級魔法【バーストプロクス】」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
その前に炎中級魔法をその身に受けるカオスローゼに詩音は夜月を鞘に収めて構える。
「一刀幻叉――――虚空」
抜刀術。鞘から解き放たれるその一閃は全てを切り裂く鋭い刃となって放たれる。
飛ぶ斬撃。斬撃はカオスローゼを両断する。
愛刀を振るって再度鞘に収める。すると、カオスローゼの身体は半分に裂けて地に伏せる。
その中央にある一つの黒い宝玉―――魔王核を手にしたら
『―――――――――――――――――――ッッ!!』
歓喜の声が、迸った。
戦いを見守っていたこの街の住民が興奮を爆発させて次々に歓声を上げる。
誰もが『黒騎士』と詩音の鎧姿を見てそう称えて、喝采する。
いてもたってもいられない詩音は逃げるようにその場から離れた。
魔王の襲撃を受けた被害は幸いなことに死者はゼロ。女性となった男性はカオスローゼが倒されて元の姿に戻ったそうだ。そして、契約通りに詩音はガーゼに魔王核を渡して自宅に帰ってガーゼが話していた特殊能力の事が気になってステイタスを見てみた。
名前:シオン
Lv:MAX
体力:20000
筋力:20000
耐久:20000
敏捷:20000
器用:20000
魔力:20000
魔防:20000
魔法
風魔法(初級Lv5・中級Lv3)
炎魔法(初級Lv6・中級Lv4)
水魔法(初級Lv7・中級Lv2)
土魔法(初級Lv9・中級Lv5)
雷魔法(初級Lv4・中級Lv3)
光魔法(初級Lv5・中級Lv1)
闇魔法(初級Lv2・中級Lv1)
生命魔法(初級Lv9・中級Lv6・上級Lv1)
付与魔法(初級LvMAX・中級Lv8・上級Lv5)
空間魔法(初級Lv7)
能力
全魔法適性(Lv限界突破)
能力向上(LvMAX)
剣術(刀Lv2+5)
鑑定(LvMAX)
性技(Lv限界突破)
魅了(Lv限界突破)
魅了耐性(Lv限界突破)
固有能力
作製(鍛冶Lv限界突破・調合Lv限界突破・裁縫Lv限界突破・作農Lv限界突破・建築Lv限界突破・調理Lv限界突破・道具Lv限界突破・魔道具Lv限界突破)
淫魔紋(Lv限界突破)
特殊能力
植物操作(Lv限界突破)
植物創造(Lv限界突破)
自然再生(Lv限界突破)
混沌妖種(Lv限界突破)
新しくステイタスに刻まれた特殊能力。
そこに『魔王』と『百合』がないことに安堵する。もしかしたらあれは魔王にしか持てない能力なのかもしれない。
アレを除けば中々いい能力と思った詩音は最後にある『混沌妖種』という能力に首を傾げた。
どういう能力だと思ってステイタスに刻まれたその能力に意識を集中させるとその能力の詳細がステイタスに浮かび上がる。
『混沌妖種』
種を生物に植え付けることで身体を改造する。ただし、ステイタスに変動はない。
それを知って詩音は理解した。
あの魔王が男性を女性に性転換させたのはこの能力のおかげだ。
つまり詩音はこの能力を使えば男性を女性に、女性を男性に性転換させることもできるだけでなく、その身体も自分好みに改造することが可能となる。
例えるなら小さい胸に悩む女性の悩みを一発で解決できる能力だ。
更には男性を女性に性転換させて魅了してしまえば男だろうが女だろうが関係なく詩音の虜にできてしまう。それも自分好みに。
「俺は魔王か………………………」
夜のが前につく魔王になりそうな詩音はこの能力は使わない様にしようと決めた。




