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変装探偵 柳沢凛   作者: 神楽屋
トラジックな家族
11/16

今回の事件は、推理というより、人間ドラマに近いかも知れません。おそらく、こんな犯罪もあるのではないのでしょうか。今回は、凛の推理ともう一つのスキルが活躍します。

「うーん、平和な毎日よねぇ。」

「平和すぎて、何もしてませんよね。今日依頼が来なかったら、依頼が来ない記録更新ですよ。」


あの事件から2ヶ月、僕らは大したこともない平穏な日々を過ごしていた。殺人事件は起きているが、別に不可解でもないため、凛さんが出る必要がなかったのだ。


そして、普通の探偵としての依頼もない。まさかの、仕事がない日はこれで、二週間を更新している。二週間前の浮気調査が最後だった。あの事件とは比にならない愛情だな……。


「まぁ、いいじゃない。株の儲けは続いてるし、それに、あなたの大学も終わったし。」

「周りからの視線はかなりキツいですよ。しかも、何か、ホモと変態という謎の噂が流れましたし。」


僕は嘆息して言った。おそらく、他にも凛さんの試験を受けた人がいたのだろう。そいつらが、合格した僕を妬んで言った、ぐらいしか思い付かない。


ちなみに、僕は完全に助手というより家政婦的な立場になっている。主夫というのは多分こんな感じなんだろうなというのは分かった。


それと、凛さんの家事スキルのなさは恐ろしかった。どうやら、凛さんは探偵、刑事、カウンセラー以外にも様々な顔を持っているようだが、何故か、部屋はぐちゃぐちゃで料理も出来ないという有り様だったのだ。


天は二分を与えないというのは、まさしくこのことであろう。


「まぁまぁ、私的には、こんな日が続いてほしいんだよなぁ。だって、殺人事件解決するのは金は入るけど面倒だし。」

「……まぁ、その点は分かりますけど。」


凛さんが殺人事件を解決すると、かなり多額のお金が入る。まぁ、意味は分かるけど。だが、こちらの負担も恐ろしい。前回の一件なんて、かなりいい例である。おそらく、警察が思い込みでは動けない代わりにこちらが動いているのだろう。


僕も、何となくこんなのも悪くはないと思っている。仕送りも出来るし。


しかし、この平和は、一人の男の登場で、一気にひっくり返された。


「邪魔するぞ。」


ドアを荒々しく開けて入ってきた、一人の強面の男。堅気じゃないような出で立ちで、声もかなり低い。


「あら、八神さんじゃない。どうしたの?」

「八神さんって、海崎さんの上司の……。」

「あぁ、君は初めてだったな。私が、海崎と藤原の上司、八神竜也やがみりゅうやだ。よろしく。」

「よろしくお願いします……。」


あの海崎さんと藤原さんとは違い、かなり重厚な威圧感のある人だ。確かに、こんな人なら、海崎さんも大人しく従うのかも知れない。


「で、用件は?」

「俺がここに来る、ということは、何が来たかは覚悟しているだろう?」


そう言って、八神さんは凛さんに一枚の手紙を差し出した。それを見た凛さんは、一気に顔をひきつらせる。


「そんな!? また、これが……」

「どうしたんですか?」


僕が手紙を見ると、そこには、パソコンでこう打たれていた。


『ケイコク キョウ シンジュクノ ミンカデ テトロドトキシンガ アラワレル デショウ。 ドクシシンシ』


「これは……殺害予告ですか?」

「見れば解るでしょ!? まさか、こいつ、また動くなんて……」

「こんなの嘘じゃないんですか?」

「今まで、これが三件あって、全て起きたわ。」

「……この、ドクシシンシっていうのは、何なんですか?」

「正確には“毒使紳士”よ。毒殺をこよなく愛するとかいう変態ね。前回はすとり……何だっけ。で、今回は何なの?」


凛さんが、苛立だしそうに叫んだ。多分、ストリキニーネだな。凛さんは、毒のことについては知らないのだろうか。他のことについては、あれほどにまで、博識なのに。


「そういえば、君は何故か毒については詳しくなかったな。」

「人間の死因とか精神状態とかは分かるけど、これだけは覚えれないの。何でかしら。」


……よくよく考えてみれば、この人、家事スキル最悪だったな。毒キノコとかフグとかの少し料理に関係しているというのが関連してるからかもしれない。無茶苦茶な話だけど。


「ふむ、テトロドトキシンとは……」

「テトロドトキシン。別名タリカトキシン、スフィロイジン、テトロドキシン、テトロドントキシン。ビブリオ属やシュードモナス属の一部の真正細菌によって生成されるアルカロイドです。まぁ、簡単に言ってしまえばフグの毒ですよ。たまに、鎮痛剤として使われることがあるみたいです。毒性としては恐ろしく強力で、一から二㎎で致死量となります。正確には、神経毒の一種ですね。大抵は経口摂取で中毒となる場合が多いみたいです。」

「……。」

「……。」


事務所に何とも言えない空気が広がる。そんなにまずいことを言ったのだろうか。


「どうしました?」

「……何で、そんなことを知ってるんだ?」

「まさか、毒使紳士?」

「え、違いますよ!!」


そんな、生活のための知恵だったのに、ヤバイ殺人犯に間違えられても困る。まぁ、結構理由は多かったけど。


「僕は野草を取るのにそういう毒草や毒キノコの知識を得る必要があったので、その段階でついでに覚えたのです。それに、中々面白かったので、時間があったら調べてたんですよ。」

「へぇ……。あなた、経済学部だったわよね?」

「とは言いましても、経済学部は就職に強いからと理由だったのですけどね。本当は、化学が好きだったんです。」


僕のちょっとしたカミングアウトに、二人は黙り込んだ。まぁ、確かに、僕の毒に関する知識は相当なもの、と自分でも言えるだろう。まぁ、このご時世だったら、調べれば済む話だけど。


「……まぁ、それはいい。とりあえず、今日、この毒で殺害が起きるらしい。」

「色んな種類の使って面倒な……。青酸カリでいいじゃないの。」

「いや、そういう問題ではないと思うが……」


テトロドトキシンというのは、強力な癖に容易に得ることが出来てしまう毒だ。フグ以外にも持っている生物はいる。


おそらく、これが事実であるのならば、もう事件は起きているだろう。だが、これはフグなどを使っていない食事の場合、食中毒に間違えられるだろう。果たして、事件として取りあげられるのか……。


結局、この日には何も起きることはなかった。


しかし、翌日には、謎の中毒死が柳沢探偵事務所に持ち込まれていた……。

 

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