第二十九部
「ところで、シンガータの王はどうなんだ」
ひそひそと、ライトリークはフレイアに問いかけた。
シンガータ国は決してレイフォント大国と仲が悪いわけではない。
それに、レイフォント大国は経済的に力のある国であるため、シンガータ国が今、ライトリークのいった事をレイフォント大国に告げ口すれば、大きな貸しが出来ることになる。
今の話をレイフォント大国に告げ口され、レイフォント大国がそれを阻止するために動き出すというのは、非常にまずいことになる。
「つい勢いで、シンガータの王がいる場所でこんなの言ったけど、大丈夫なのか?」
フレイアは状況説明をすることを止めなかったし、仲間に再会した喜びで浮ついていたため、ここまで頭の回らなかったライトリークは今更ながら不安になった。
「あぁ……大丈夫なんじゃないか。私が数日前にいった事を忘れたのか? 今の私たちの目的はリネイラントを仲間に戻すことと、なんだった?」
数日前、ソレイン村を出たあの日。フレイアの言葉……。
――――そろそろ、国程度の勢力が欲しいなぁ、と思っている。
「国か!?」
「そうだ。現在のこの国は、私たちが強力する価値のある国であり、私たちの強力が欲しいとも思っている国だ。あと静かにしろ」
「あ、すまない。ってか、どういう意味だ?」
意味のわからない事を言い出したフレイア。
この会話は、いくら近い場所にいるとはいえ、他の者には聞こえない程小さな囁き声で行なわれた。
「この国というか、王だな。彼に存在意義がある。そして、現在この国は戦争真っ只中だ。少しでも多くの戦力、それも有能なお前みたいな奴が必要なんだよ」
「つ、つまり……?」
「阿呆。私たちは王を利用し、王は私たちを利用するという、私たちにもあちら側にも損より得の多い交換条件を突きつけられるというわけだ」
「な、なる……ほど?」
おそらくライトリークは半分も意味を理解してないだろう。
フレイアは言うだけ無駄だと悟り、小さく嘆息した。
フレイアは即座に今すべきことに行動を移す。
「と、言うわけなんだが、どう思われたかな。シンガータ王」
不敵な笑みを浮かべ、優しげに微笑むシンガータ国王に問いかける。
こちらに話題を振られるのを予想してたのか、少々だるそうに、
「あ~、やっぱ僕に話しをふっちゃう? もう存在忘れられてるかと思ったのに、ねぇ、リンちゃん?」
「ふぇ!? しょ……そうなんですか?」
「うんうん。リンちゃんは一生そのままでいて欲しいね。数少ない癒しだ」
リネイラントを見て微笑むフィルセシル。
言ってることは普通なのかもしれないが、遠まわしに変態発言しているようにも聞こえる。
「まぁ、面白い話なんじゃないかな?」
フレイアの問に、そう答えたフィルセシル。
「それは、干渉はしないということだろうか」
「どうだろうね……。残念ながらこちらは戦争中だ。しかもいつ相手が同時に襲ってくるかさえわからない。そんな中でレイフォント大国まで敵にまわしたくないという気持ちもあるのは事実だよ」
「ほぅ。我々がレイフォント大国の人間だといつ知った? そんなこと、一言も言っていないのだが?」
いつからフレイアはレイフォント大国の人間になったんだ。
そんなライトリークの疑問は、誰に知られることもなかった。
フレイアの意味ありげな微笑みは、シンガータ王であるフィルセシルと言葉を交わせばかわすほど深くなっていく。
その何もかもを見通すような蒼い瞳は曲線を描く。
同時に、フィルセシルの間の抜けたような笑顔が引きつっていく。
意味深長な空気がただよう。
「それで、聡明たるシンガータ国王陛下は、我々の情報をレイフォント大国に伝えるのだろうか?」
「肩書きで呼ばず、僕のことは気軽にフィルセシルと呼んでよ。
――――結論として、君たちの情報をレイフォント大国に流すつもりもない」
「へいか? それはつまり?」
フィルセシルの回答に、リネイラントが疑問を重ねた。
「確かに君等の情報をレイフォント大国に伝えれば、僕等シンガータ国はレイフォントに多かれ少なかれ借りを作ることができる。
でも、今はレイフォントへの借り作りよりも、確実な勝利が欲しい」
フィルセシルは答える。
しかしこの発言にある矛盾点を、フレイアは見逃しはしなかった。
「レイフォントへ借りが作れれば、レイフォントは借りを返そうとするだろう。そこにつけこんで応援の要請を出し、それをレイフォントが受諾したら勝率は何倍にもあがる。レイフォントはそれほど強大な国だ。レイフォントに借りを作ることほど、勝率が伸びるものはないのではないのか?」
遅くなって申し訳ありませんでした。微妙な始まり方ではありますが、宜しくお願いします。
谷口ユウキさんから挿絵をいただきました! 最初の絵の部に張っておくので、どうぞご覧下さい。藤堂要は随時募集しております!