-2-
イライラしてはいたけど、それを仕事にまで持ち込むわけにはいかない。
今日もショコたんから仕事を割り振られ、依頼人のもとへと向かうことになるはずだ。
そうしたら、気持ちを切り替えて一生懸命仕事をしよう。
なんて考えていたあたいではあったのだけど。
「ベティ。今日の仕事は、この依頼人の家でこなしてもらう。マリオンとふたりで行ってくれ」
ショコたんから受けた指示は、あたいのイライラを膨れ上がらせるものだった。
「わかりました。ベティさん、一緒に頑張りましょうね!」(にこっ)
……なんでこの子は、ここまで純粋な笑顔になれるのかねぇ。
あたいが意地悪なことを繰り返しているのは、トロくて鈍そうなこの子でも、さすがに気づいているだろうに。
はぁ……。
ま、仕事だから仕方がないけどさ。
この子と一緒だと、比較されてあたいの印象が悪くなってしまうのは目に見えている。
やり場のない怒りは、依頼人に見られないところで、この子自身にぶつけて晴らしてやろう。
あたいはそんなことを考えながら、マリオンとともに依頼人の家へと向かった。
☆☆☆☆☆
「あっはっはっは、やぁやぁ、よく来てくれたねぇ~!」
うわ、なんか軽い奴が来やがったよ!
最初に受けた印象は、こうだった。
もっとも、来たのはあたいらのほうなんだけど。
「ぼくはクラッカード。この屋敷のお坊ちゃまってことになるかな!」
それにしても、なんなのかしらね、この依頼人は。
自分で自分のことをお坊ちゃまって……。
お金持ちの世界ってのは、わけがわからないわ。
と、そんなことを表情には決して出さないのが、プロってもので。
「お待たせ致しました。それではさっそく、依頼内容をうかがわせていただきます」
あたいは落ち着いた声を向ける。
隣ではマリオンがいつもどおり、おどおどしていたけど。
「あっ、それならもう準備してあるんだ。こっちの部屋に衣装を用意してあるから、それに着替えてよ!」
やっぱり軽い口調のまま、依頼人はあたいらを別室へと招く。
……なにやら怪しげな予感はしたけど、もちろん表情には出さずに、あたいはマリオンを引き連れて別室へと入った。
☆☆☆☆☆
「わ~、やっぱり可愛いね~!」
手放しで喜びの声を上げるクラッカードさんに、もじもじと体をくねらせながら、
「うっ……、スカート短くて恥ずかしいです、ご主人様……」
なんて言っているマリオン。
「あっはっはっは、そんな仕草もキュートだよっ! もう最高!」
マリオンが短いスカートの裾を手で下に引っ張るようにしながら恥ずかしがる様子に、クラッカードさんのテンションも高まっているようだ。
別室に用意されていたのは、メイドの衣装だった。
当然ながら、用意されていたのは二着。
あたいもその衣装を身に着けているわけだけど。
いったいこの男は、なにをさせるんだか。
というかマリオン、恥ずかしがってはいるけど、なんだかあんたもすっごいノリノリなんじゃない?
しっかりと、ご主人様、なんて呼んでるし。
「あっはっはっは、シャーベッティさんのほうは、あまりノリ気じゃないって顔をしてるねぇ?」
不満顔のあたいに、やっぱり軽いノリで言ってくるクラッカードさん。
「ふん。ま、仕事だから仕方がないけど。だいたいメイドなら専門の派遣業者とかだってあるでしょうに」
「ちっちっち、わかってないなぁ! 慣れてないからこそ、いいんだよ!」
「そ……そんなの、わかんないわよ!」
なにを言ってやがるんだ、この男は。
あたいは怒りを押し殺してどうにか気持ちを抑える。
だいたい、あたいにメイド衣装なんて似合わないわけだし。
こんなんじゃ、あたいが来る意味なんてまったくない。
マリオンひとりで充分だったんじゃない?
それ以前に、なんだってショコたんは、こんな変な依頼を受けたりしたのよ。
どう考えても、拒否すべき依頼じゃない?
怒りをどうにか顔に出さず抑えようと躍起になっているあたいに向かって、クラッカードさんは軽い笑みを浮かべながらさらに言葉を投げかけてくる。
「あっはっはっは、そうやってつれなくする感じも、なかなかいいねぇ~!」
「ちょ……っ!? なんですか、それは!」
ああもう、嫌だ嫌だ。
これだから、男ってわけわかんない。
「まぁ、ともかく今日は一日、ふたりにはぼくのメイドさんとして、働いてもらうからね!」
クラッカードさんは笑顔をたたえたまま、そう宣言する。
ショコたんが正式な依頼として受けてここまで来た仕事なのだから、あたいに拒否権なんてないのだけど……。
「あっ、はい、不慣れでご迷惑をおかけるすかもしれませんが、よろしくお願いします!」
素直に頭を下げているマリオンの姿を見ていると、どうしてもあたいの怒りの念は静まらないのだった。




