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最近のあたいは、イライラが募るばかり。
それもこれも、あの子のせいだ。
マリオンがうちの事務所に来てからというもの、会社の雰囲気は確かに明るくなった。
それは認めるわ。
だけどあの子、なんなのよ?
トロくて失敗ばっかりじゃないの。
見た目にも頼りなくて、つい周りの人も構っちゃうってのは、そりゃあわからなくもないけど。
それにしたって、ズルいわ、絶対。
なにせ、おろおろしていたら、周りが勝手に助けてくれるんだから。
べつにあの子だって、それがわかっていて泣きべそをかいてるわけじゃない。
打算とか計算とかじゃなくて、きっとあの子の本質。
それはあたいにだってわかってる。
でも……やっぱり不公平だわ。
あたいが入社したときなんて、ほんとに必死になって頑張っていた。
泣くのが仕事の会社ではあるけど、泣き言を漏らすのはダメ。
自分のためじゃなく、人のために泣く。それがあたいらの仕事。
そう思ってずっと頑張っていた。
なのに、なんなのよ、あの子は!?
依頼がないときは、事務所でデスクワークなんかをすることになるのだけど。
マリオンにはまだ任せられないことも多い。
だからこそ、お茶出しとかが彼女のメインの仕事になってしまう。
そんなことをやらされるのは、正直なところ嫌だろう。もちろん、それもわかる。
それにしたって、なにもないところで転んで、派手にお茶をぶちまけて。
カップを割らなかっただけマシかもしれないけど、あうあうと涙を溜めてこぼしたお茶を拭いていると、周りのみんなが「大丈夫?」なんて声をかけて。
あの子もあの子だけど、みんなも甘やかしすぎなのよ。
そりゃあ、二年ぶりの新入社員。可愛いのもわかるけどさ……。
なんか、ムカつくのよね。
――まぁまぁ、抑えて抑えて。
デスクの精霊さんがささやいているようだったけど、それであたいの気分が落ち着くわけはなかった。
「あっ、ベティさん、おはようございます!」
と、イライラの元凶である彼女が、意気揚々と挨拶の声を響かせながら事務所へと入ってきた。
「おはよう。ねぇ、マリオン、コーヒーを淹れてくれない?」
「はい、すぐお持ちしますね!」
出社してすぐだというのに、マリオンは言われたとおりコーヒーの準備にかかる。
本当に素直な子。
そんな様子を見ていると、あたいはどうしても意地悪したくなってしまうのよね。
「コーヒー、お持ちしました!」
「……ちょっと、これミルクが入ってるじゃない。朝は眠気を覚ますためにブラックがほしいのよ」
「あっ、そうでしたか! ごめんなさい、それじゃあ、淹れ直してきます!」
あたいが意地悪で言った言葉にも、はいはいと素直に応じてカップに手をかける。
べつにブラックコーヒーが飲みたかったわけでもないのだけど。
「どうぞ、淹れ直してきました!」
「……さっきのカップはどうしたの?」
「え? あの、もったいないから、あたしが飲もうかと……」
「あれ、あたい専用のカップよ? なにあなた、あたいのカップに口をつけようってわけ?」
「はう……、でも、ちゃんと洗いますし……」
「そういう問題じゃないの!」
「うう、はい、じゃあさっきのコーヒーは捨てます……」
「もったいないでしょ? あたいが飲むから、持ってきなさい」
「えっ? ……はい……」
こんな不条理な言葉にも、納得いかないって表情には出ちゃってるけど、マリオンは反論することもなく従う。
あたいとしてはそれすらも気に食わない。
逆に反撃してくれたほうが、こっちも怒鳴ることができてスッキリするっていうのに。
どっちに転んでも気に入らない。
そっか、あたい、この子が嫌いなんだわ。
だいたい初日からしてひどかったもんね。
無理矢理お酒を飲ませたあたいも悪かったけど、いきなり唇を奪われちゃったわけだし。
……初めてだったのに。
ま、女の子同士だから、ノーカウントでいいとは思うけどさ。
ともかく、マリオンの一点の曇りもないような笑顔を見ていても、泣きべそをかいてうるうるしている瞳を見ていても、なんだか胸の辺りがムカムカするのよね。
ふと見ると、パー子さんがそっとマリオンのそばに寄り、耳もとでなにかささやいていた。
ふん。きっとまた、大丈夫? とか、優しい言葉をかけられてるんでしょ。
いいわよね、ああいう可愛らしい子は。
あたいはイライラしながらブラックコーヒーをすすり、その苦さを我慢して飲み込んだ。
☆☆☆☆☆
「うわ、ベティちゃん、ブラックで飲んでるん? いつもは砂糖たっぷりミルクたっぷりの甘ったるいのしか飲まへんのに!」
不意に声をかけてきたのは、ペロちゃんだった。
ちゃんづけで呼んではいるけど、実際にはあたいより年上だったりする。
にもかかわらず、胸以外は子供っぽい容姿で、いつも顔より大きいんじゃないかと思うほどのペロペロキャンディーを舐めている。
っていうか、朝からそんなキャンディーって……。
この人、ここが仕事場だってこと、忘れてない?
思わずマリオン以外の人にまで、イライラを飛び火させてしまう。
「べつにいいでしょ? ちょっと眠気が覚めきってないから、ブラックにしてもらったのよ」
でもペロちゃんは、明るい笑顔でそれをサラリとかわす。
「きゃははは! なるほどな、マリオンちゃんいじりの一環ってわけや!」
「ぶっ!」
今さっき事務所に入ってきたばかりのはずなのに、全部お見通しといったような発言に、あたいは思わずコーヒーを吹き出してしまった。
「もう、汚ったないなぁ! 新入社員が入ったら優しくしてあげるんだ~って言ってたはずやのに! 素直じゃないなぁ、ベティちゃんは!」
「う……うるさいわね! 昔のことなんて、忘れたわ!」
「……はいはい。ま、ほどほどにしときや」
……なによ、まったく。その、全部わかってますからね、みたいな感じの言い方は。
それもこれも、ぜ~んぶマリオンのせいだわ。
ああもう、イライラする!
そんなあたいの様子を見て、自分の席に着いたペロちゃんは呆れたように首をすくめていた。




