第70話:エピローグ、そして新たなはじまり
レヴェリアは手すりに両腕をべったりと伏せ、その上に顎を乗せた状態で遠くの水平線を眺めていた。船の細かな振動が、腕を通じて頭の芯まで伝わってくる。
冬の海はどこまでも青く、驚くほど静かだ。
(ついに、おそらく自分にとって最後の『自由』となる一年が幕を開ける)
アステリアに帰ったらルシウスの婚約者候補となり、第一王子派閥や他の婚約者候補と争い、家のために勝利を捥ぎ取る戦いに身を投じることになるのだろう。
『予定調和』がどこまで効力を及ぼすのかは分からないが、少なくとも自分の未来はある程度確定しているはずだ。
帝国への留学は『私』が望んだ最後の我儘だ。
この一年、ヒロインになれなかったただの『私』に付き合ってくれたディーダ。
彼の故郷で最後の自由を過ごしたいという願いは、義理の兄や将来の夫(予定)、元悪役令嬢の友人まで着いてきてしまうというイレギュラーを孕みつつも、見事叶ったのだった。
そう言えば、とレヴェリアはふと考える。
彼から名前を呼ばれたことが一度もなかったことを。
いつも『おたく』とか……最近は『君』とか呼ばれているけれど。
彼はいつか自分のことを『レヴェリア』と呼んでくれるだろうか。
なんなら親しみを込めて『レヴィ』と呼んでほしいとも思ったが、自分は次期王妃。
家族以外の男性から気軽に愛称で呼ばれて良い人間ではない。
そんなことを思いながらぼんやり手すり身を任せながら海を眺めていると、ふと背後に人の気配を感じた。
「こんなところにいたのか」
彼女が今、一番聞きたかった声がした。
同時にコツコツとこちらに近づいてくる音。
背後でぴたりと止まった足音に、彼女はゆっくりと振り向いた。
そこで彼女が見た人物はーー。
「やっとこの姿で堂々と会える。だってもう君には避ける理由も場所もないのだから。そうだろう……レヴェリア?」
月華をまとったかのような白銀の髪に、帝国の皇族を示す金灰色の眼。
神々すら嫉妬する美貌の皇子。
レヴェリアは余りの驚きに声が出なかった。
何故今まで気が付かなかったのか。
彼の声、雰囲気、佇まい。
確かに頭のどこかで似ているとは思っていた。
しかし、星紡ぎの陣や実家に来た際は確かに、彼の隣にいたではないか。
彼女の頭でこれまでの出来事が頭を駆け巡り、思考が糸のように絡まっていく。
太陽に照らされいっそ眩いばかりの美しさで微笑む彼に、レヴェリアは口をはくはくと動かすことしか出来ないのであった。
(ううう、嘘でしょ!?ディーダが、ディーダが……ディートリッヒ殿下だったって言うの!?!?)
四方を海に囲まれた状態での特大の種明かし。
彼女のニルヴァス帝国への片道切符の船旅は今始まったばかりであるーー。
ここまでお読みいただき、心から感謝申し上げます。
これにて第一章完となります。
ひとまずここで一区切りとし、毎日更新は終了となります。
これからしばらくは他の作品に着手する予定のため、第二章の更新時期については今のところ未定です。
ブクマやご感想、反応のひとつひとつが本当に嬉しく、ここまで続ける大きな活力となりました。
いつかまた、続きをお届けする機会がありましたら、そのときはお付き合いいただけると嬉しいです。
本当にありがとうございました!




