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能島城の龍神様  作者: 木村友香里
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15.決断!龍の嫁入り


 「駄目だわ! あちらからも来ているわ!」


 義弘たちが海上で戦っている頃、能島でも黒旗の本隊の方が村上衆の手薄を狙って襲撃してきていた。


 玉が頂上にある居館の片付けが終わって帰ろうとした矢先の出来事だった。

 けたたましく敵襲の合図である法螺が響き渡り、一緒に手伝いで来ていた使用人の男と急いで表へ出てみると、島を守っていた配下たちが駆けてきたのと鉢合わせした。


 「北の船溜りから敵が押し寄せてきたんだ! 姫様は南から出て逃げてくだせえ!」


 そう言われて頷くと、


 「こっちへ!」


 新人の配下が促してきたので、使用人と二人でそちらへ走ったのだが、南の平坦地からも敵舟が上陸していて賊たちが坂を駆け上ってくるのが見えたのだった。


 「東の海岸から出ましょう! あそこなら——がっ!」


 玉へ向かって提案した使用人が突如、後ろから木の棒で殴られて地へ倒れてゆく。


 「きゃあ!」


 驚いて短く悲鳴を上げた玉へ、使用人を殴り倒した張本人である新人の配下が、地に横たわる身体の傍に立ったまま、にやりとした顔を向けた。


 「ほんと……いい女だぁな」


 その異様なまでの歪んだ表情に鈍く光る目の濁り。


 (この人、村上のひとじゃないわ!)


 ゾッと背筋を凍らせた玉は考えるよりも早く身体が動き、踵を返して走り出した。


 「まて——おわっ!」


 黒旗の間者であるこの男は捕まえようとしたが、うっかり地で横たわる身体に足をつまづかせてしまい出遅れている。


 玉は頂上の居館に戻ろうとしたのだが、


 「あっ! 女だ!」


 坂を登ってきた敵に見つかってしまってそれが叶わない。


 (青藍! 青藍!)


 追いかけられる恐怖も相まって、とにかく前へ前へ走っていく。


 景色が猛スピードで流れていく中、急にパッと横から賊が現れた。

 そして、あっとなった玉へ飛びかかろうとしたその時だった。


 ズドンと雷鳴が轟き、近くの木へ稲妻が落ちたのである。


 「ぬおあ⁉︎」


 驚いた賊がピタリと身体を硬直させた直後、激しい雨に襲われたのだった。


 目に入る水で視界が遮られてしまう賊たちとは反対に、雷雨に気がつく事なく足を止めずに玉は逃げてゆくのであった。

 

 

 

 ーー ーー 


 「能島が襲撃された⁉︎」


 しまったと義弘は奥歯を噛んだ。


 島には配下が残されてはいるが、手薄なのは確か。

 そして、玉を昨日のうちに家へ返すべきだったと心底後悔した。


 だが、そうも言ってはいられない。


 吹き荒れる暴風雨に、帆を張ったままの大船が大きく揺れており、乗っている者たちは船べりを掴んで身動きが取れなくなっているのだが、義弘だけは強靭な足腰とずば抜けたバランス感覚にてその場に何事もなく立ったままであった。


 「青藍! 俺を能島へ連れて行け!」

 『駄目だ! 間に合わない!』


 実は青藍はまた、他の神様へ人を龍にする方法の話を聞くために遠出をしていた。


 しかし、小さく感じた玉の異変に大急ぎで戻っている最中なのである。


 深海を滑るように泳ぎながら、青藍は念を飛ばす。


 『だから義弘! 願うのだ! 玉を助けろと!』


 ハッとなった義弘は、


 (そうか! 今こそあの願いを使う時——)


 胸に下がる角のカケラを片手で掴む。


 「われ——」


 ところが願いかけたこの時、ある事に気がついてしまったのだ。


 (今、助けろとだけ願えば……玉はもう龍になる事ができなくなる?)


 人が神をどうこうできる巨大な力を持つなど、よほど稀なのだと言っていた。

 長い刻を生きてきたであろう青藍ですら、初めて見た力であった。


 この先、このような奇跡はもう二度と起こらないであろうとも思う。


 (いい……ではないか。玉を龍になどしたくはないのだから……しかし——)


 『——青藍のそばにいたいから』


 娘の切実な願い。


 考えてみれば、これまでにこの事以外のわがままをほとんど聞いた事がなかった。


 『義弘! 早く!』


 青藍が悲痛な声で急かしてくる。


 それでも、義弘は迷ったままでいた。


 『それであの龍神様が、玉を幸せにしてくださるのであれば……』


 妻の言葉が、


 『——子が親の幸せだと思う生き方をすれば、親は安心だし楽だろうが』


 辛辣な友の言葉が、


 『うおおおお! 俺の中に植え付けられた普通という概念を誰がぶっ壊してくれぇ!』


 自身の苦悩が、頭の中をよぎってくる。


 そして青藍の声が、


 『早く——おい! テメェら! 玉に近づくなぁ!』


 怒号となると海の波が一層に高く、雷の閃光が至る所で走った。


 『義弘ぉ!』


 その叫びに、もはや一刻の猶予がない事を知る。


 (もう、龍になど——!)


 悩み抜いた末に目を血走らせ、玉を助けろとだけ再び口を開こうとすると、


 『常識ってなんだよ! ブハハハ——』


 そんな自由すぎた若き頃の自身の言葉が頭に大きくよみがえり、ふつりと義弘の中で何かが切れた——。



 「こんっクソがぁーーーーーーーーーー‼︎」



 嵐の真っ只中で敵も味方も関係なく大騒ぎの船上に、雄叫びが走った。


 皆が顔を向けている先で、義弘が突然、狂ったように帆柱に飛びついてスルスルと登ってゆく。


 そして頂上まで登り切ると、ぐらんぐらんに揺れようが、激しく雨に打たれようが関係なく帆桁に立ち、角のカケラを片手で握り、唱え詞を放つのだった。



 「我、盟約において願う! 龍神、青藍!」



 力強いその念に、



 『おう!』



 能島付近の海域まで来た青藍もまた、雄々しく呼応した。


 ところが。


 「お前! 本当に玉が好きだな!」


 思ったのとは違う台詞が飛んできたので、青藍は困惑する。


 『は? 何を言って——』

 「絶対に泣かすな! でないと許さぬぞ!」

 『義ひ——』


  睨みつけるように能島の方角を望む義弘は大きく息を吸うと、渾身の力を込めて叫んだのだった。



 「玉を龍にしてくれ! お前の嫁だ、青藍! 永っ遠に、幸せにしろぉーーーーーーーーーー‼︎」



 その願いが届き、海底を走る青藍の持つその碧玉の瞳が……カッと鋭く光ったのであった。

 

 

 

 ーー ーー


 豪雨の中を夢中で走る玉は、いつの間にか能島の端まで来ていた。


 だが、それと同時に追いかけてきた賊たちもまた、すぐ後ろまで迫っていたのだった。


 (捕まるくらいなら、死んでもいい! 青藍の元へ——)


 このままあの切り立った崖から飛び降りるべく、玉は走る足を緩めない。


 「させっかぁ!」


 その意思に気がついた賊が、あと一歩の距離で手を伸ばしてしまう。


 その指先が袖に届きかけると——、


 大きな地響きが能島を襲ったのだった。


 揺れた足元で誰もががその場に立ちすくんでいると、彼方から飛んできたあの坊主の力が光の矢となり玉の身体へ当たるようにして宿ったのだ。


 同時に、崖の前にある海が巨大な渦を巻き始めると、それに沿うように海底から影が上がってくる。


 上からその様子を見た玉には、すぐにそれが何なのかが分かったので思わず笑顔が出た。


 あっという間に影が巨大な形をとると、渦の中から龍神の神体が勢いよく飛び出してきたのであった。



 「青藍!」 



 喜びのあまり大きな声で呼びかける玉は気がついていない。角のカケラを持っていない自分が神龍を見ている事を。


 ただこの時には、不思議でかつ大きな奇跡が起きていた。


 いつもは認識する事のないこの神の姿が、他の皆にも見えているのだ。


 ゆえに、激しく戦っていた者たちは仰天して棒立ちになると


 「ぎゃああ! 化け物だぁ!」


 能島に侵攻していた黒旗衆は腰を抜かし、逃げ惑い、


 「あれが龍神なのか〜」


 義弘がたまにその存在を口にしていた事で、村上衆は呑気に柏手を打って拝んでいる。


 離れた海上でも同じようになっていた。


 海上へ飛び出た青藍は神体を眩く光らせると、人の姿をとって玉の前に降り立った。



 「玉!」

 「青藍!」



 互いに名を呼び抱き合うと、青藍はそっと玉の耳元でささやくように尋ねた。


 「玉、龍になるか?」


 一瞬、何を言われたか分からなかった玉は、少し身体を離して青藍の顔を不思議そうな表情で見る。


 そこに、碧玉の美しい瞳が微笑んでいた。


 「龍になって、私の嫁になってほしい。ずっと……、玉と一緒にいたい」


 ようやくその言葉の意味を理解した玉は、目を大きく見開いてしまう。


 「私が? 龍になれるの?」

 「ああ、義弘がそう願った」

 「父上が……? 本当に?」


 頷かれても信じられない思いだった。


 本当は、人が龍になれるなどとは夢でしかないと思っていた。

 そして、いつか浜辺でその夢を父へ語ってしまった事を心苦しくも感じていた。


 親からすれば、さぞ心配でしかないであろうと。


 それでも父は、きっと母も、自身のその儚い夢を願ってくれた——。


 嬉しくて、ありがたくて……玉の両目から涙が溢れてきた。


 それでもしっかりと青藍の瞳を見つめて、返事をしたのであった。



 「なりたい、私は龍になりたい。どうか、ずっと青藍の側に……」



 その言葉で嬉しそうに笑った青藍は、両手で柔らかく玉の頬を包むと、口移しで自身の神気をその身体へ送り込んだのだった。

 

 

 ーー ーー


 遠く能島の一角が大きく光り出したように見えた。


 依然、どれだけ足元が揺れようとも難なく帆桁に立ったままでいた義弘は、肩で息をしながらその光を凝視していると、やがて大きく大きく膨らんだその光が二つとなって天に向かって細長く伸びてゆく。


 滝でも登るかのように豪雨をものともせず、空に敷き詰められていた鈍色の雲へ入っていった。


 するとその瞬間——


 まるで青色が円状に放出されたように、そこを起点として雨雲がわっと吹き飛ばされてしまったのである。


 一瞬にしてあれだけ酷かった雨が終わり、雲ひとつない青空となってしまった事で、地上と海上の人々はただただ茫然としてしまう。


 「あれは——」


 ひとり動揺する事なく前を見つめ続ける義弘の目に、そんな晴れ渡る空の中で大きく光っているものが映った。


 それは、海のように深く澄んだ藍色の鱗と碧玉の瞳を輝かせ、悠々と能島の上を旋回して飛んでいる龍の青藍である。


 そしてその傍には——


 さざめく波のような白銀の鱗を陽の光に煌めかせ、同じく碧玉の瞳を瑞々しく揺らしているもうひと柱の龍神がいたのであった。


 「玉か……」


 義弘には、すぐに分かった。


 そしていまひとり、ひと目で理解した人がいた。


 「まあまあ、今日がお嫁入りになってしまったのね。……綺麗よ、玉」


 新居大島の海岸にて、能島の方角を望んでいた母の豊であった。

 

 寂しげに笑うその隣では、


 「あれが……ねねさまなの? と〜ってもキレイだね!」


 手を繋いでいるお竹が、無邪気に手を振っているのであった。


 二柱の龍神は離れたり近づいたり、まるで舞っているかのように、そして嬉しそうに空を遊んでいる。


 地上や海上の人々は、その神々しい姿をぼんやりとして見つめていた。


 この時、ふいに白銀の龍の頭から伸びて枝分かれしている角の先が淡く光った。


 そしてそれが弾かれたように飛んでいくと、帆桁の上の義弘へ一直線に飛んでいったのである。


 それが身体にぶつかる前に胸の前にて片手でパッと受け止めた義弘は、その拳を開いてみて見る。


 するとそこには、乳白色に透き通った角のカケラが淡く光っていたのだった。


 『……父上……ありがとう……』


 聞こえてきたその声に義弘はパッと顔を上げると、グッと角のカケラを握りしめて無意識に聞いていた。


 「玉、嬉しいか?」

 『うん! とっても嬉しい! 幸せよ!』


 その喜びに満ち溢れている声で、知らず知らずにフッと笑んでいる。


 「……幸せでいてくれ、ずっと」

 『はい! 父上、母上、大好きよ——』


 角のカケラから光が止んだ。


 すると、遠く空の二柱が並んでゆったりと海へおりてゆく。


 海面に大きな大きな渦を作りながら、仲良く頭から海底へ沈んでいった。


 最後に尾が消えたその後には……ただただ、いつもの穏やかな海が広がっているのであった。


 しばし夢うつつを彷徨うようにぼんやりしていた人々が、我にかえり始めた。


 さすがの賊たちも戦意を失い、そそくさと能島を後にし、海上の武士たちも同じように去っていった。


 緩やかな潮風を受けて膨らんだ帆の上で、義弘はまだぼんやりしている。


 自身のこの判断が良かったのかどうかは……今でも分からなかった。


 能島を見つめるその目からは、ひと粒だけ涙がこぼれ落ちているのであった。




ーー ーー


 その玉が青藍へ嫁入りした日から、一年ほどが過ぎた雲一つないよく晴れたある日。


 能島城の居館の門から、八歳になったお竹が勢いよく飛び出してきた。

 そしてその後を、義弘と妻の豊がゆっくりと歩いてついて行く。


 嬉しそうに走るお竹の胸には、菱形に切られている木枠にはめ込まれた、二つある龍の角のカケラが揺れていた。


 鯛崎島へ繋がる板橋に差し掛かった時だった。


 突如、横になった海から大渦が巻く。


 すると、水底から影が上がってきて海面から白銀の龍が姿を現し、その隣からも藍色の龍が出てきたのである。


 「あっ! ねねさま〜!」


 そう笑って横を向いたまま板橋を走り渡るお竹には、白銀の龍だけが認識できる。

 同じ血が通っているからだろうか、豊もまた玉である龍だけが見えるのであった。


 しかし義弘だけは、これまでと同じように青藍まで見えていた。


 尾までを海から出した龍たちは、神体を黄金色に光らせるとそれぞれに人の形をとっている。


 そして先に鯛崎島へ降りたのは、天衣姿である白銀の髪と碧色の瞳となっていた玉であった。


 「お竹」


 走った勢いのままに飛びついてきたその可愛い笑顔を、玉は柔らかく受け止めてしっかりと抱きしめている。


 すると、


 「元気そうね」 


 追いついた豊もまた、歩いてきたそのままにお竹も巻き込んで玉を抱きしめたのである。


 その後ろからは、合図を送って見張り台の配下を下がらせた義弘が、嬉しそうに再会を喜び合う三人に目を細めていた。


 島先へ降りた青藍もまた、その様子に微笑みを見せてから、ゆったりとした装束の姿を進ませて義弘の方へ向かっていった。


 「おい、酒をくれ」

 「お前はそればっかだな」


 呆れながら義弘は、手に持つ白磁の瓶子を投げて寄越してやった。


 受け取って大きく笑った青藍は、そのまま瓶子を傾けて『龍泣かせ』を一気に飲み干している。


 この龍は、玉を嫁にしてからよく笑うようになったなと、そんな事を思いながら義弘は両手を腰に当て、フッと小さく笑い、皆を見ているのである。


 その奥では、まばゆい太陽の光を美しく返しながら、緑の映える島々の影とそれを包み込むような穏やかな海が、広がっているのであった。


 

 

 

 ーー ーー


 その日から、長い長い歳月が過ぎ去っていた。


 「——と、婆さんから聞いたのはこんな話だったな『能島城の龍神様』というのは」


 そう言ってあの顕長の子孫である男は、鯛崎島の頂上にある小さな祠の前へ、持ってきた白磁の瓶子をとんと置いて、隣の青年へ話を締めくくっている。


 ちなみに、北畠顕長はその後、本当にお竹を妻に迎えており、いろいろあって村上吉豊として三家に別れた村上家のひとつ、因島村上の祖となったそうである。


 「ほう、かの義弘公にそんな逸話があったとはな。それでそこに供える酒は、あの老ぼれジジイのところと決まっているのか」


 「そこかよ。まあ、『龍泣かせ』は美味いけどな。それにしても珍しいな、お前がそんな龍だの神様の話を聞きたがるとは。そういったものに興味はなかっただろう」


 「まあな」


 「はは、俺も龍神なんて信じていないけど。しかし、その日からだそうだ。この辺りの潮の流れがこんなにも荒いのは。昔はもっと緩かったらしい」


 「ふーん、そうなんだろうよ」


 「え? 信じるのか?」


 意外そうな顔で男に言われた青年は、最後には曖昧に返して空を見上げている。


 その胸元には、菱形に切られている木枠にはめ込まれた、二つある龍の角のカケラが揺れていた。


 確かに、この青年は子供の頃からずっと神仏などに興味はなかった。


 それでも、この龍の角を受け継いだ直後から、嫌でも目を向ける事となったのである。


 なぜならば、青年が見つめているその青い空には、今まさに白銀の鱗を煌めかせて漂っている龍がおり、それが見えるようになったのだ。


 そして、その姿は自身以外の人には認識できていないものだとも、気づいたものでもあったのだった。


 「さあ行こう」


 男に促されて空から目を離した青年は、その背を追って能島へ向かう板橋に向かってゆく。


 その時ふと、後ろに妙な気配を感じて振り返った。


 すると、さっきの祠の前にゆったりとした装束姿の美しい若者が立っているのを見た。


 この辺りで、そのような格好の者などいない。

 加えて、その深い藍色の髪の若者が人ではないのだと直感する。


 つい足を止めてじっと見ていると、若者は備えてある瓶子を持ってあろう事か一気に中の酒を飲み干した。


 ありえないと思いながらもなお、見ていると、若者は瓶子を元の場所に置いて空を見上げている。


 すると、その身体が金色に光り出し、みるみるうちに大きく長くなってゆくと、碧玉の瞳の龍へと変わったのだ。


 そして、そのまま天へのぼると、先ほどの白龍と空で一緒になって、海の方へ降りてきたのである。


 「めちゃくちゃ仲がいいな……」


 思わず青年が呟いていると、その二柱の龍神は海面に大きな渦を作りながら、ゆったりと沈んでゆく。


 やがて完全にその姿が海の中へ消えてしまうと、あとは何事もなかったかのように海は穏やかな風景となるのであった。


 「今でも、幸せそうだな」


 またぼんやりとそのように呟いていると、


 「どうした? タケ」


 橋の中ほどから声が飛んできたので、顔を戻した青年は何でもないと返すと、穏やかに吹いてきた潮風を心地よく感じながら再び歩き出したのであった。

 

 

 芸予諸島に浮かぶ滴のように小さな島。

 かつてそこに築かれた城は、激しい潮流に守られた難攻不落の海城であったと言う。


 そして今でもこの能島には、仲良し夫婦の龍神が住んでいるのかも、しれない——。


長いお話を最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。


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