第9話 小さな魔法使いは、王都で再会する
王都・クロスフェリア。
その中心にそびえる白亜の塔――特別魔法士団本部。
エルフィーナ・ノクターンがここを訪れるのは、もちろん初めてだった。
重厚な石造りの街並みに、見上げるほどの塔。警備も厳重で、入り口でブレスレットを見せなければ入ることもできない。
ノワールは今、彼女の影に同化するように姿を消している。獣魔契約を交わしたことで、ある程度の擬態が可能になったのだ。
(ふう……緊張する)
エルは小さく息を吐いて、塔の中へと足を踏み入れた。
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案内されたのは、塔の上層――作戦会議室。
部屋に入ると、先に待っていたゼルネとリーネが立ち上がった。
「エルフィーナ!」
「よく来てくれたね。無事でよかった」
二人とも、どこか安心した表情を浮かべている。エルも自然と微笑みを返した。
「お久しぶりです、ゼルネさん、リーネさん」
「元気そうで何よりだ。それに……少し雰囲気が変わったな?」
「えっ、そ、そうですか?」
(……ノワールのせい、かな)
エルは曖昧に笑ってごまかす。獣魔契約のことは、今のところ秘匿しておいた方がいいだろうと判断していた。
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「じゃあ、話を聞かせてもらえるか?」
ゼルネが真剣な眼差しで言う。
エルは頷き、改めて椅子に座った。そして――
「例の光の魔法、“セラフィック・ランス”についてです。あれは、やはりヴァルグレイア帝国のものだと判明しました」
部屋の空気がピンと張り詰めた。
「確証はあるのか?」
「はい。……信頼できる“魔導の知識を持つ者”から直接、確認を取りました」
(ノワールのことは伏せる。けど、情報の信憑性は落とさないように)
「その術式は、王国では禁止されている“魔力構造破壊型”魔法。……クロス王国の術式体系とは明らかに異なるものでした」
「まさか……」
リーネが眉を寄せる。
「その魔法は、アンナさんを助けるためではなく――あの黒髪の女を“消すため”に放たれた可能性が高いです」
「口封じ……ということか?」
ゼルネが低く唸った。
「……はい。あの女、帝国からの使者だったのかもしれません。おそらく、私の存在に気づかれたと判断され、“証拠隠滅”として排除されたのでしょう」
「……王国の内部まで、すでに手を伸ばしていたというわけか」
エルの分析に、ゼルネとリーネの顔から表情が消えた。
「事態は、我々が想像していたよりも深刻かもしれないな」
「……今すぐ、団長に報告する必要があるわ」
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会議室の扉が開かれたのは、まさにその時だった。
背筋が伸びるような気配。
入ってきたのは――長い銀の髪を持つエルフの女性。
その姿は気品に満ち、目に映るだけで背筋が伸びるような存在感があった。
静かな青の瞳が、エルを見据える。
「貴女が――エルフィーナ・ノクターンか」
「……はい。あなたは?」
「王国魔法士団・団長、セレスティア・ヴェイルだ。よろしく頼む」
エルは驚きを隠せなかった。まさか、団長本人が出てくるとは。
「私も話は聞いている。帝国の魔法が、王国の村で発動した。これは由々しき事態だ」
セレスティアはゆっくりと椅子に座り、真っ直ぐエルを見る。
「エルフィーナ。貴女の見解を詳しく聞かせてほしい」
「……わかりました」
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再び、エルは事件の流れを整理しながら語った。
黒髪の女との遭遇、アンナの救出、そして空から降ってきた光の魔法。
「……あの魔法の性質、発動のタイミング、そして攻撃の対象。すべてを合わせると、やはり……狙いは私ではなく、黒髪の女だったとしか思えません」
「帝国が……自らの手駒を始末した、ということか」
セレスティアの声に、確かな怒りが込められていた。
「彼女が何者だったのか、詳しくは分かりません。でも、帝国が王国内で何らかの“工作”を進めているのは、ほぼ間違いないと思います」
エルの言葉に、ゼルネも頷いた。
「情報操作、隠蔽、暗殺……奴らが使う手口だ。王国に手を出してきたとなれば、いよいよ厄介だぞ」
「すぐに情報局とも連携を取る。エルフィーナ、君には今後、帝国の魔法動向に関する特別任務をお願いしたい」
「……え?」
エルの目が見開かれる。
「もちろん、無理には頼まない。だが、君の知識と観察力は、我々にとって貴重な力になるはずだ」
エルはしばし沈黙し――ゆっくりと、頷いた。
「……わかりました。やれることがあるなら、協力させていただきます」
そう言った彼女の声は、静かで――けれど、確かな強さを秘めていた。
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こうして、エルフィーナ・ノクターン(小さき大賢者)は正式に、
「帝国の魔法動向に関する特別監視役」として任命されることになった。
世界はまだ、静かに揺れている。
けれど、その中心にいる少女は、自らの意志で進むことを決めたのだった。




