第九十五話 自由と禁忌と結果
「いやぁ、やってくれたねぇ。七桜君」
僕がビンスさんの学び舎に『木漏れ日』と名付け、
家内安全のお守りをお渡ししたことによって謎の光が降り注いだ日の夜。
部屋に戻り一人になった途端、久しぶりにスマホがけたたましく鳴り響き、僕は今、神託を受けている。
どうやら即日、神託が下りるほどに僕はやらかしてしまったらしい。
「まさか、あんなことが起こるとは思わず…… すみませんでした」
初手、謝罪。
やらかした自覚はあるのでまず謝罪。
「謝ることなんてないよ。あんな合わせ技で土地に祝福を与えるなんて思わなかったから、驚いちゃった。ボクを驚かせられる存在なんてそうそういない筈なんだけど、七桜君は一味違うねぇ」
一応褒められてる……? とても楽しそうでもあるし、今回のことは問題はなかったのかな。
いや、油断はできないぞ。
王都に来てから聖剣を折ったり前の世界の技術を広めたり、色々好き勝手やった自覚がある。何が原因で皆さんにご迷惑をお掛けしてしまうかわからない。
「本当に面白かっただけだから気にしなくていいよ。七桜君は好きに生きていいんだ。そう言ったでしょ?」
「ありがとうございます。今回のことでビンスさん…… 木漏れ日に関わる人たちに不利益はないのでしょうか」
「ないよ。まぁ、恩恵もそれほどないけどね。学び舎相手に『家内安全』だからねぇ。ちょっと怪我や事故が減るくらいじゃない? 『学業成就』とか『武運長久』とかだったらもう少し面白くなりそうなのに」
よかった。変なしわ寄せみたいなのがビンスさんに行かないか心配だったんだ。
お守りを渡したはずが不幸を招く、なんてことになったら洒落にならない。
「…… いや、家内安全だからこそ起きたイベントか…… 他の文言だったら学び舎には広がらなかった筈。巧くバランスが取れてはいる。…… なるほどね」
「あの、どうかされましたか」
「…… いや、なにもないよ。あぁ、あのエルフが家族だと思ってて七桜君と直接縁がある相手にはちょっと強く影響でるかもね」
「影響?」
「加護、と言ってもいい。双子とか、孤児姉妹とか。あぁ、あの子供を欲しがっていた四人組あたりまでは強めに効くね。あの四人は七桜君のイメージする家庭と相性がいい。彼らが望むなら子供ができやすくはなるんじゃない?」
力自慢さんの優しい泣き笑いがまぶたに浮かぶ。
そっか、そうなってくれるのか。
それなら、うん。全部良かったと思える。
思わず笑みが零れる僕。
上位存在さんはなんだかとても楽し気に笑っていた。
少し空気が落ち着いたところで、いい機会だと思って気になっていたことを尋ねる。
「僕がこの世界で生きるに当たって何かタブーのようなものはあるのでしょうか」
無自覚にやっちゃいけないことをしでかしてしまわないように。
そう思って問いかけてみると、それまで楽しそうだった笑い声が、少し冷えた。
「七桜君はボクを侮っているね」
「いえ、そんなこと無いです!」
「ボクは『やっちゃいけないこと』があるなら、最初っから出来ないようにする。ペットの手の届くところに食べちゃいけない実を置いておいた癖に勝手に食べたって怒るなんて馬鹿だと思わない?」
そういう考え方なのか。
僕も正直、そもそもなんで楽園に唆してくる蛇がいたんだよ、と思ったことはある。
「でしょ。だから七桜君は出来ることならなんでもしていい。世界を亡ぼしてもいいし、信仰を集めて神になってもいい。神殺しの英雄でも、伝説のハーレム王でも、なりたいものになっていいんだ」
ハーレム王…… だと…… なにその全人類憧れの存在。
「あ、王と言えば、あの元王子様。死んだよ」
「え、そうなんですか」
「餞別に一生遊んで暮らせるだけのお金を貰って街に降りて、そのまま王族気分で散財してたら悪い奴らに目を付けられて、コロッと騙されてサクッと刺されてたね」
籠の外に出た鳥は長く生きられない。
…… そうか。
「やりすぎたと思っているかい?」
「いえ、そうならない道も選べたはずです。そうなったのは……」
「「自らの行いの結果」」
声が揃う。
それは、ほんの少しだけ、自分が上位存在さんに近づいたようで。
少し誇らしくもあり、少し恐ろしかった。
実は月曜日には出張で九州にいました。
一日ズレていたら、と思うと背筋が冷たくなる思いです。
被災地の皆様、心よりお見舞い申し上げます。
連日の厳しい暑さの中、心身共に休まらぬことと思います。どうぞご自愛下さい。




