第八十七話 分かつ線
すっかり元の面影が無くなった元王子様。
前は目つきが鋭いカッコイイ系のイケメンだったけど、今は目元がクリッとした可愛い系のイケメンになっている。
今は大声で騒いで喚いて涙でクシャクシャになっているからイケメンの見る影はないけど。
「…… 我が只の馬に存在を書き換えられるようなものか。なるほど、『受け継がれぬ死』より重い苦しみというものが我にも理解できそうだ」
ユニコーンさんがしきりに感心してるけど、別に感心されるようなことはしていない筈だけどなぁ。
ちゃんと王子様じゃなくしたし、ちゃんと酷い目にも遭ってもらった。
言ったとおりにしただけじゃない?
さて、そろそろいいかな?
「あの~、ちょっとお話いいですか?」
まだ喚いている王子様を取り囲んでワイワイと騒いでいる王様たちに声をかける。
「ヒィッ!?」
「お、お助けを!!」
だいぶ怖がられてるな…… ちょっと凹むけど、抑止力にするならこれぐらいは必要だと思うから気にしないようにしよう。
「なんでございましょうか、ナオ様」
「あの、さっき王様、この人の王位継承権とか廃嫡とか仰ってましたけど、この人に対する罰は『王子様じゃなくなること』なので、これ以上は別に何もなくていいですよ?」
罰は僕が与えてるのに王様からも罰せられるのはちょっと可哀そうだと思わなくもない。少しだけね。
「それは、つまりタギネスにまだ機会を与えていただける、と?」
王様が恐る恐る聞いてくる。元王子様が緊張した面持ちでゴクリと唾を呑むのが見えた。
「はい、こう言ってはなんですが、王様を誰がやってようと、僕正直あんまり興味無いですし」
王様なんて只の庶民には雲の上過ぎて直接関係ないもんね。今回はちょっとお願い事があってご挨拶に来ただけで。
「あ、個人的にその人のことはあんまり好きじゃないのも確かなので、その人が関わるところには近寄らないようにもしますので安心してくださいね」
僕がそういうと王様たちの顔が引きつってしまった。半面、元王子様はちょっと嬉しそうだ。うん、これ以上、僕に関わるのは怖いよね、気持ちはわかるよ。
「その関わらないというのは、具体的には?」
猫獣人の軍務卿さんがとても真剣な声色で聞いてきた。
「え、さっき言った通りですよ。王様になったのならその国、領主様になったのならその領地、あと、その人の個人的なお友達にも近寄りません。そのかわり、そちらも僕の友人や大切な人には近寄らないでくださいね」
もう元王子様と僕はお互い関わらないことにして次が無いようにしましょうよ。
そういうと王様も王妃様も軍務卿たちもなんだか難しい顔をして考え込んでしまった。元王子様だけちょっと助かった、みたいな顔してる。王様を止めてあげた僕に感謝してもいいよ?
「陛下、お判りいただけたでしょう。ナオ様はこういう方なのです。だからこそ取り返しのつかないことになる前に陛下のご助力を願ったのです。殿下には申し訳ないことになりましたが」
「いや、ビンス殿。貴殿のお陰で助かった。確かにこのお方に心置きなく旅をして頂くには相応の準備が必要であろう。今日、ここで起きたことを多くのものが知った今、そのことに反論するものはおるまい」
お、ビンスさんが王様と話し合いを始めてくれた。
よし、あとはお任せしておけば良きに計らってくれる筈だ。
僕の得意技、必殺・丸投げである。
「ねぇ、ナオ。美の奇跡はいつやってくれる?」
ややこしそうな話はビンスさんに丸投げしてぼんやりしてたら王女様に話しかけられた。
そういえば女性陣を磨くって話が途中だったね。
「姫様! いけません!!」
「なんで? 悪いことしなかったら大丈夫だよ。兄上は気が短いし偉そうだから駄目だったけど」
お付きの侍女さん達が慌てて止めようとするけど王女様は気にする素振りもない。僕も怖がられたいわけじゃないので、普通に接してくれると助かるなぁ。
なんとなく王女様とは仲良くなれそうな気がするぞ。
「最近、ピーちゃんが元気ないの。それも治せる?」
「ピーちゃん?」
「綺麗な空の色した小鳥。お友達なの」
「それは心配ですね。なぜ元気がないのか、一度診せてもらいますね」
「ありがと」
小さい生き物だと寿命の可能性もあるから、診もせずに元気にするって約束はできないけど、治してあげられるといいなぁ。
「…… 確かに、首を斬られても眼を突かれても怒った様子はなかったな」
「あの力は素晴らしい。逆鱗に触れさえしなければ、普通に接してさえいればあの癒しを得られるというのであれば、無為にするのはあまりに惜しい」
「だが、王子の件のときも怒ってはいなかった。平常通りであの所業だというのもまた恐ろしいぞ」
「ナオは兄上がナオのお友達に悪いことしようとしたから怒った?」
「そうですね。僕のことで皆さんにご迷惑をお掛けするわけにはいきませんから」
「どんなことで怒るのかわからないのは怖いと思う。だから怒る前に一回は『それしちゃだめだよ』って教えることにしよ」
「あぁ、それはいいですね。お互いに価値観とか違うと思いますから、失礼な事をしてしまっても一度は注意して改めるように説明してもらえるなら凄く助かりますね」
つまり、庶民の僕が王女様たちに失礼なことしても一回は注意で納めてくれるってことだよね。かなり助かる、そのルール。
「兄上は一回で駄目だったけど」
「最初の一人は容赦しないって決めてたんで。あの人は運が悪かったですね」
痛いとこついてくるなぁ、王女様。
でも、王族くらい偉い人でも関係ないって示せたのは僕にとっては良かったのかも。
「あ、それじゃ王女様、早速僕からも一ついいですか?」
「ッ!? …… なに?」
「あの人、もう王子様じゃないので、『王女様の兄上』ではないと思うんですよね。それとも『あの人の妹さん』ですか?」
「…… ごめん、間違えた。あの人は兄上だった人だった」
「そうなんですね。それならいいんです」
「マジで容赦ねぇな、ナオ。俺様ちょっと感動、流石だわ」
ん? 素が出てるけどどうかした? ユニコーンさん。
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