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第十四話 眠れない夜 誰のせいなの

治療の恩返しを身体で、と言い出したミリアさんを前に大慌てでなんとかそれを思い直してもらおうと説得を重ねる僕。正直とても頂いてしまいたいし頂かれてしまいたいが女性の身体はもっと大切なものだと思うし、貰い物の力をちょっと使っただけでそんな対価を得るのは屑の所業だ。だけどミリアさんは律儀な人なんだろう、恩を感じている僕に対しての恩返しを諦めてはくれない。なにか代案が必要だ。


「そうだ、それならミリアさんにお願いしたいことがあります」

「お願い? 私に出来ることならなんでもさせてもらおう。是非言ってくれ」

「えっと、僕はお伝えしたようにこの世界に来たばかりで何も知らないんです。普通の人なら当然知ってる筈の常識とかも。これからこの世界で生きていくことになったのでお金の稼ぎ方とか価値とか、社会習慣なんかも知らないではすませられないのでそう言った事を教えて頂きたいです。それで、ご迷惑をおかけしますがその間、何日かここに泊めて頂ければと思います」

「そんなことなら喜んで教えるさ。ご覧の通りの暮らしぶりだからね、大したお持てなしは出来ないけれど気が済むまで滞在してくれていい」

「ありがとうございます。色々聞きたいこともありますし、ミーナさんの治療については確かに手応えもあったんですが、怪我と違って病気はちゃんと治っているか目に見えないのでしばらくの間は様子を看たいと思っていたので助かります」


病気の治療に関しては、というかこのチート全般に関してそうなんだけどまだまだわからない事も多いからね。治療した病気が再発しないかとか快感がミリアさんとミーナさんで違ったことの理由とか。少しずつ確認はしていかなければならない。差し当たってはミーナさんの完全快復を確認するのが先決だ。


「ナオ君…… 君はそんなことまで考えてくれていたのか」

「え? なにがですか?」

「ミーナのことだよ。あんなにはしゃいでも息切れ一つしないミーナは私も初めて見た。それですっかり治ったものだと思ってしまっていたけれど、その確認にまで時間を掛けてくれるというのか」

「あ、不安にさせてしまったのならすみません。説明は難しいんですけど、治した感触というか手応えみないなものは確かにあったんです。僕があの創造神様(上位存在さん)に頂いた力も前世の僕やミーナさんみたいな人たちを癒やせる力ということですしほぼ間違いなく治せているとは思うのですが、なにしろその治療自体が初めてなものですから、万が一のことも無いようにその後の経過観察はしておきたいなと思って……」


治したヤツがほんとに治ってるか確認したい、と言い出したら不安にもなるよね。

多分、というかまず大丈夫だとは思うんだけど中途半端なことをしてしまうわけにはいかない。怪我や病気は治りかけが一番肝心だってお祖父ちゃんもよく言ってた。


「自らが望む力が神によって与えられるという与えられしもの(・・・・・・・)…… その力として他人を癒す力を望む者というのはこういう人なのだな……」


ミリアさんがなんか変な納得の仕方をしている。なんだろう? でもこの調子なら身体でお礼コースは回避できそうだな。回避はしたくなかったけど、するべきだったはずだ。そう思わないと後悔してしまいそうなので頭を切り替えていこう。


「それが恩返しとして釣り合いがとれるとはとても思えないが、ナオ君がそういうのであればそうさせてもらおう。もちろん、それ以外(・・・・)のことについても思いついたり気が変わったりすれば遠慮無く言って欲しい」


切り替えようとしているときに魅力的な誘惑をしないで欲しい。あっという間に気が変わりそうになるじゃないか。ミリアさんはもっと自分が魅力的であることを自覚して欲しい。好き。


そうこうしているとミーナさんが奥から戻ってきた。

「お母さん、晩ご飯出来たよ」

「ああ、ありがとう、ミーナ。ナオ君、ひとまず食事にしよう。私たちが普段食べているようなものだから口に合わないかも知れないが」

「いえ、突然押しかけてきた身で申し訳ないです。ご馳走になります」


ミーナさんが用意してくれた夕飯は焼き固めたパンと干し肉と野菜と香草らしきものが入ったスープだった。

朝の登校時間に痴漢冤罪で事故死して、異世界に来て、ミリアさんに出会って、ニーナさんの治療をしてと一日で色んなことが起こりすぎた日だったけど気がつけばもう日が傾いて夕食をたべるような時間になっていたようだ。

この世界の時刻が前の世界と同じかは分からないけど、感覚としてはあまり変わらない気がする。

となると、僕は朝からほぼ丸一日何も食べていないことになるけど不思議と空腹感は無い。まだ頭も身体も混乱しているのかも知れないな。せっかく用意してもらったのだからちゃんと頂くけど。


「ナオさんにポカポカしてもらってからすっごく元気がでてくるの! お腹もペコペコになっちゃった!」

「ミーナがそんなに美味しそうにご飯を食べられる日が来るなんて……」


ニコニコと元気にご飯を食べるミーナさんとその様子を優しく見つめるミリアさん。

家族っていいな。

……父さん ……叔父さん ……


「ナオ君?」

「ナオさん?」


ふと気づくと二人が僕の方を心配そうにみていた。いかんいかん、少し感傷的になってしまった。

残してきた父さんたちのこと、切り替えられるほど頭の整理はついていないけど、お二人に余計な心配をかけるのは違うよね。


「なんでもないです。それにしてもミーナさんはまだ小さいのにちゃんと自分のお仕事ができていて凄いですね。僕がミーナさんぐらいの年頃の時は遊んでばかりだった気がします」

「ミーナぐらいの頃って言っても、ナオさんもミーナとそんなに変わらないですよね?」

「ミーナ、ナオ君はこう見えて15歳らしいぞ」

「えぇー!? ミーナ、ナオさんは二つ上くらいだと思ってたよ!?」


あ、やっぱりミーナさんにも10歳くらいだと思われていたらしい。


そこからは食事を頂きながらお二人と色んな話をした。

世間話に交えながらこの世界の常識を僕に説明してくれるミリアさんとそんなことも知らないの? というような不思議そうな顔をしながらもニコニコと笑いながら楽しそうにしてくれているミーナさん。

この世界にきていきなり巨大狼に遭遇した時はどうなることかと思ったけど、あんな形で命を失ってしまった僕には眩しすぎるほど穏やかで幸せな景色だ。

この景色を見られただけでも異世界で二度目の人生を送ることになっただけの価値はあったのかも知れない。


そんな夕飯の時間が終わるとすぐに就寝の時間となる。

ミリアさんたちは基本的に朝日が昇ると起きて日が沈めば眠る生活サイクルらしい。夜は灯りの魔道具もあるけど、コストもかかるしそれほど光量もないので真っ暗になってしまうから寝る以外出来ることもないということだ。

ここで問題になったのが、今まで親娘二人で仲良く暮らしていた家に紛れ込んだ異物、つまり僕の寝床だ。

寝台はミリアさんが使っている大人一人用のものとミーナさんが使っている大人用よりちょっと小さめのものの二つ。ここに異物が紛れ込んだものだからその配分が問題だ。

僕は床の上で横になれるだけで充分だと言い張ったのだけど、僕を自分たち二人の命の恩人認定しているミリアさんがそれを認めない。

僕に触れるとポカポカする(本人談)ことに改めて気づいたミーナさんが一緒に寝ようと誘ってくる。僕を抱き枕のようにして眠ってみたいらしい。きっと凄く気持ちいい(本人談)らしい。天使かな。

自慢では無いが僕の女性耐性は限りなく0に近い。いくら8歳児とはいえ女の子に抱き枕にされて眠れるとは思えない。いや、男の子でも抱き枕にされるのは割と普通に嫌だな。窮屈そう。

そこにミリアさんが「ナオ君はミーナに抱きつかれるより私に抱きつく方が良いよね」とからかってくる。子供の前でなんて冗談を言うんだ、この人は。小悪魔か。

僕も負けじと「僕に抱きつかれたらきっとミリアさんは大変なことになるでしょうね」とからかい返す。僕に触れられた時のことを思い出したのか真っ赤になって恥ずかしがるミリアさん。可愛すぎかよ、抱きしめるぞ。

こんな冗談を言い合えるくらいにお二人との仲が縮んだのだと思うと嬉しくもある。


すったもんだの末に結局僕が一人でミリアさんの寝台に、ミリアさんとミーナさん親娘がミーナさんの小さい寝台で寝ることになった。一人の僕が小さい方を使うのが正しいと思うんだけど、ミリアさん的には命の恩人相手にそこは譲れないラインらしくてお言葉に甘えることに。


そうして僕は高校の入学式の日であり、上条七桜が電車に轢ねられて死んだ日であり、自称上位存在さんに出会い衝撃の事実を聞かされた日であり、ミリアさんミーナさん親娘に出会った日である異世界最初の夜を凜とした美人で笑顔が可愛らしく、母としての優しい顔も持った素敵な女性であるミリアさんが普段使っている寝台に一人横たわって過ごすことになったのだ。とても良い匂いがします。

眠れるわけ無いだろ、ふざけんな。

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