第十二話 どうも想定とは違うけど、問題はなさそうだ
善は急げ、ということで早速ミーナさんに来てもらうことにした。
病気が治るかもしれない、ということはまだ伝えていない。ぬか喜びはさせたいくないからね。
ミリアさんが上手いこと説明してくれるそうなのでお任せする。8歳児であろうと初対面の女の子と上手に喋るスキルは僕にはない。
「ナオさんと手をつなげばいいの?」
「うん、お願いできるかな?」
なぜそんなことをするのかわからず不思議そうな顔をしているけど、お母さんであるミリアさんに言われたことなので特に逆らうこともなく僕に小さな手を差し出してくれるミーナさん。
この手に触れると性的快感が…… こんな小さな女の子相手に…… 罪悪感が半端なく押し寄せてくる。
でも仕方ないことなんだ。ごめんね、ミーナさん。その代わり病気は絶対に治してみせるから。
「んっ……」
差し出された小さな手にそっと触れ、手をつなぐとミーナさんが小さな声を漏らす。本当にごめんなさい。
「うわぁ、すごい。ナオさんの手ってなんだかすごく気持ちいいね」
屈託のない笑顔でミーナさんがいう。可愛い。天使のスマイルだ。テイクアウトできないかな。
「気持ちいいのかい? ミーナ」
「うん、なんだかすごくあったかくてポカポカする」
「ポカポカ……?」
あれ、なんかちょっと思ってた反応と違うぞ。
ミリアさんも同じ疑問を持ったらしく小声で僕に耳打ちしてくる。
「どうも私の時とは様子が違う気もするがどうだろう、診断はできているだろうか」
「手ごたえはあります。詳しく診るにはさっきミリアさんにやったように力を流し込む必要がありそうです」
「やってみてもらえるだろうか、少なくとも悪いようにはならなさそうだ」
「わかりました」
自分と手をつないだまま母親と内緒話をはじめた不審な男にミーナさんが不快感を持つ前に終わらせてしまおう。あとはやくしないと耳打ちされたときに耳に当たるミリアさんの吐息がとてもゾクゾクするので変な扉が開きそうだ。
「うわぁ……」
力を流し込みスキャンするとミーナさんがまた声を上げた。
「すごい、すごい。あったかくてポカポカしてすごくいい気持ち。不思議」
「あったかくてポカポカ、か。気持ち悪かったり、変な感じとかはしないかミーナ」
「全然変じゃないよ。すっごく気持ちいいの。日向ぼっこしてるときみたいな感じだけどそれよりもっとポカポカするしふわぁってなる。ナオさんってすごいね、お母さん」
想定していたのとちょっと違う感じはするが、日向ぼっこみたいな気持ちよさならむしろ歓迎すべきことだ。気にはなるけど一旦置いておいて今はミーナさんの診断と治療に専念しよう。
「……なるほど」
診断はできた。僕には医学的な知識なんてないからざっくりとしたイメージとしてしかわからないけど、どうやら肺が小さく固まってしまっている感じだ。だからうまく酸素やら必要なものを身体に循環させられなくなっているんだろう。そして成長して身体が大きくなればその分いきわたらない部分が増え、負担も大きくなり最終的には…… ということなんだろう。
「わかりました。なんとかなりそうです」
「本当か!?」
「はい。ミーナさん、悪いけど上の服を脱いでもらえるかな」
「え、服を脱ぐの?」
「うん、ごめんね」
繋いでいた手を放し、ミーナさんにお願いする。初対面の女の子に服を脱ぐように迫る男、と言葉にするとかなりヤバいな。でもこれは必要な医療行為だと思って受け入れてもらおう。
僕の治癒はちょっとした切り傷、例えば右手の指を包丁で切っちゃったくらいなら左手を繋いでる状態からでも治せそうだけど、大きな怪我や内臓疾患とか大きな病気なんかを癒すなら出来るだけ患部に近い場所に直接触れて、力の流れを目視でイメージしながら治すのが多分一番確実だ。この能力に関して『なんとなくそう感じる』という感覚はおそらく間違っていない。本能的にわかるってやつかな。
僕がそんなことを考えている間にミーナさんは少し恥ずかしそうではあったけど、ミリアさんに説得されておずおずと服を脱いでくれた。
画像以外で女性の裸をみるのはこれが初めてだけど、流石に8歳の女の子に興奮するほど人の道を踏み外してはいない。そんなことよりアバラの浮いた痩せぎすな身体に少し哀しくなる。
僕はその痩せぎすな小さな身体を両手で包み込むようにそっと触れる。
問題がある場所は肺、一番力を通しやすそうなのは脇腹よりちょっと上の両サイドからだな。
そっと手を当てて治癒の力を流し込む。うん、手ごたえがあった。治せるぞ、これ。
というか、治ったぞ、か。触れて治したいと思うだけでもう治ってる。チートだな。
治したい そんな言葉は使う必要ねーんだ。なぜなら俺はその言葉を頭の中に思い浮かべた時には!
実際に治しちまってもうすでにおわってるからだ!
頭の中でギャングの兄貴が暴れる。
あとは少し栄養失調気味っぽいから必要なエネルギーを足して、体力を恢復させて、と。
「よし、終わりました。ミーナさんもう服を着ていいよ」
「ナオ君、終わった、というのは……?」
「ミーナさんの身体は治りました。もう心配ありませんよ」
「本当か!? ミーナ、身体の調子はどうだ、なにか変わったことはないか」
「お母さん、なんだか身体がすごく軽くなったみたい。フワフワして軽くて、今なら空だって飛べそうなくらい! こんなの生まれて初めて!」
恐らくだけどミーナさんのアレは生まれつきの症状だ。生まれつき動いていなかった臓器が動き出して、体調は神様チートで万全に整えた。生まれて初めてというのは比喩誇張なく、事実だろうな。
今までは大人しくて年齢にそぐわないくらいしっかりした挨拶をしてくれたミーナさんが元気に子供らしくはしゃぎだした。可愛い。
そんなミーナさんをミリアさんがとてもやさしい眼で見守っている。
お母さんってこういう顔で子供を見るんだなぁ。前世では父さんや叔父さん、お爺ちゃんがいたからお母さんがいないことを寂しく思ったことはなかったけど、少し羨ましく思えてしまう僕は浅ましいな。
それにしても本当に綺麗だな、この人。優しく穏やかな顔をしたミリアさんに思わず見惚れてしまう。
美人なだけでもヤバいのに可愛い顔で笑ったり、こんなに優しく穏やかな微笑みを受かべられたりしたら、上位存在公認で女性免疫のない僕はコロっといってしまう。




