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第百七話 情報の暴風

ベイガさんの村を出てからも、僕らの旅は続いた。

いくつかの村にお邪魔し、何度かの野営も経て、

少しずつ風の匂いが変わり、大きな河が僕らの横を流れていく。

王都を発った頃とは、景色もずいぶん違ってきた。


いよいよ、明日には目的地であるオソレの港町に到着する予定だ。

ミリアさんの里帰りという、小さな大冒険もまもなく一区切りとなるのだ。

ほんの少しの寂しさを感じながら、僕は僕専用馬車に一人揺られている。


いつもならロロさんやミーナさん達と一緒に景色を眺めながらお喋りを楽しんでいるのだが、今日は、なんていうか……

そう、予感がするのだ。

その予感に従い、皆さんには少しの間、一人にしてほしいとお伝えしたのである。




♪~


来た! 僕のスマホが聞きなれた電子音を鳴らす。


「はい」

「やぁ、七桜君。こうして話をするのは久しぶりだね」


いつもの軽い口調、いつもの明るい声。

先日のアレのことはどう思っておられるのだろうか。

あの日以降、何度もお祈りはしていたけど、反応は何もなかった。



「先日はお名前を利用するようなことをしてしまって申し訳ありませんでした」

「あぁ、気にしなくていいよ。あのぐらいで『利用』とか言い出して目くじら立ててたら宗教家の類の99%は消さなきゃいけなくなる」


気にされてはいなかったようだけど、直接謝罪することが出来、そのお返事も頂けたことで少し胸のつかえが下りた気分。


「あれはただのお祝いだよ」

「お祝い?」

「七桜君に友達が出来たお祝い」


そっか。

この方から見ても、僕とベイガさんはそう見えるんだ。

そっか。


「ユニコーンに面白そうなことさせてたから便乗してみたんだよ。なかなか見応えあったでしょ?」


軽いノリで宇宙規模の奇跡を起こさないで欲しい。滅茶苦茶綺麗だったけども!

あ! そうだ!


「あの、ユニコーンさんが是非ご挨拶したいって……」

「いらない。一々取り合ってたらキリがないし、興味もない」

「わかりました」


断られるとは思ってたけど、やっぱりそうだよね。

一応、お願いはしたから大人しく諦めてもらおう。


「あの、一つだけ教えて下さい。ベイガさんの村に普通は出ない筈のオークキングが出たのとかって……」

「ボクは何もしていない。いいタイミングで力に気づいたなぁとは思ったけど、偶然だよ。この辺り、もともと七桜君と同じように力を与えたものがそこそこ多い地域だからね。お城にあった剣とか」

「あ、あの剣。折ってしまってすいませんでした」

「いいよ、別に。ボクが創ったわけじゃないし」

「え!?」


どういうこと? あの剣は『与えられしもの』じゃなかったの?


「大昔、七桜君と近い世界から引っ張ってきた子が打った剣だね。その子にはそういう剣とか魔法の道具を作り出せる系の力を与えてたんだ」


なるほど。だからなんかあの剣、気配が薄いって感じたのかも。


「あ、じゃあ他の12星座モチーフの何かもあるんですか?」

「いやぁその子、あの剣作って調子に乗ってたところを盗賊に寝込みを襲われてすぐ死んじゃったんだよね。他のも作る気はあったみたいだけど、結局作れたのはあの一本だけさ。ちなみにそのとき剣を盗んだ盗賊がこの国を建国した初代国王様だよ」


待って待って、情報が多い!


「そもそもボクが創った剣だったら流石に七桜君も死んでたよ。条件が同じだとしたら、刃物と丈夫な人間、どっちが勝つのかなんてわかり切ってるでしょ」


た、確かに! いかん、調子に乗ってた。剣の製作者さんも簡単にやられちゃったみたいだし、僕も気を付けないと。


「今の七桜君なら、危ないものは視ればわかるよ。あの剣も全然危ないと思わなかったでしょ」

「それは、確かにそうでしたけど。でもやっぱり気を付けます。せっかく頂いた機会を無駄にはしたくありませんから」



「うん、まぁ七桜君がそう思うならそれでいいよ。で、本題なんだけどさ」

「はい」


さっきまでの情報の嵐みたいなお話はただの雑談だったのか……

一体何を言われるんだろう…… ゴクリ。


「七桜君、最近ボクにチョコレートくれないよね?」

「え?」

「『美味しい』ことが権能として現れている贄なんて他にないんだよ? 自分たちだけで楽しんでないでボクにもおすそ分けしてよ」


いや、確かに最近はミーナさんたちとチョコを食べてるときにお供えはしてなかったけど。


「あの、光に包まれて消えるアレを見るとエルフの方たちが祈り出してしまうので……」


そう、ビンスさんほどではないとはいえ、流石に種族として信仰している存在が直接ものを受け取るのを見せるとランスさんとリンスさんもめちゃめちゃ祈り出してしまうので避けていたのだ。

ハンナさんは言うまでもない。


「いいよ、そんなの。祈らせとけばいいじゃん。毎回じゃなくてもいいけど、たまにはお願いね」

「わ、わかりました」

「あ、それからあのベイガって子だけどさ」

「ベイガさんが何か?」


まさか、何か悪いことが起きたりするんじゃ……

雑談と本題の情報格差が酷すぎて何を言われるのか見当もつけられない。


「反応してる時に『戦おう』と思うと無敵になるんだよね、彼」

「そうですね。凄い条件だなぁと思いました」

「よくさ、夜にベッドの上で異性と仲良くすることを『一戦交える』なんて表現したりするよね」

「え?」

「ま、そういうこと。じゃ、チョコ頼んだよ」


ツー…… ツー……


切れちゃった……

チョコについては元々あの方に頂いたものだからお供えするのは全く問題ないんだけど。



ハァ…… 確かに思ってはいたんだよなぁ。


あのベイガさんの能力、『女の子にモテモテになりたい』って部分が本筋の筈なのに、そこがあんまり叶ってないんじゃないかなって。

あと『異性を落とすための無敵』って言い回しもちょっと引っかかってはいた。


いや、ベイガさんならきっと大丈夫。なんだかんだ言っててもあの人はアルトさんに一途なはず…… きっと、多分。

…… お二人の健闘を祈ります!

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