第277話 海の国 その2 上機嫌と刺客
城門をくぐるとそこには何故か、夜だというのにお付きや護衛の皆を連れ、満面の笑みを浮かべたウィルヘルム大臣が待っていた。
「アルテミア殿! よく無事に戻ってきてくれた。イサプレアやグランドセイルにおける貴女の戦いぶりは既にこの地にも轟き、騎士や貴族の皆さんだけでなくアルセイル王までもが、その見事な働きに感服しておりますぞ!」
「うっ……い、いえ、大臣御自らがお出迎えとは恐れ入ります」
芝居がかった仕草でアルテミアの両手をとり、ブンブン振りながら労をねぎらうウィルヘルム大臣の勢いには、流石のアルテミアも気圧されたのか、ジリジリと下がり顔を引きつらせている。
「それに私だけではあれほどの戦果は挙げられませんでした。今回の作戦成功は彼らの力があってこそです」
「ほぅ……そうかそうか。アルテミア殿が言うのではあればそうなのでしょうなぁ。
お前たちも良くやった。褒めてつかわすぞ」
大臣の手から逃れたアルテミアはそう言いながら僕たちの方を見ると、大臣は一瞬微妙な顔をしたものの機嫌の良さも相まって、珍しく嫌味を言わずに褒めてくれた。
イリトゥエルだけには恭しく頭を下げた辺り、僕やルミアとはしっかりと態度を区別しているけど。
……態度や言い方はアレだけど、まぁ貴族だからね。普通なら進んで声をかけたりもしないと思えば、これは大臣にとって精一杯の譲歩だろう。
そんなことを考えながら、ふとその向こうを見ればケルガーやクロエ、小隊の三人が少し疲れた顔をしながらもこちらを見て手を振り微笑んでいて、僕たちの帰りを歓迎してくれているのが見えた。
「いやぁ、初めて来たがこの街は素晴らしい。
それに此度の件に協力したことで海の民による両国への被害も無くなり、これからの交渉や関係にも必ずや良い影響を与えることでしょう!」
その後も宿泊している部屋まで歩きながら、上機嫌な大臣はアルテミアを褒めちぎり、自分たちが到着してからあったことを話す。
先に到着した大臣たちだったが、どうやら海の民の件が片付くまでは親睦を深めるための晩餐会への出席が、大臣の主な仕事であったらしい。
そのぶん水面下では、お付きの人たちとハイワーシズの文官が互いの要望や条件などの擦り合わせをしつつ、ケオカマールが到着してからの最終報告を待っている状態だったようだ。
……お付きの人と僕は呼んでたし、中には実際に大臣の世話をしている人もいるけれど、本当のところはアレだ。この人たちって半分以上が外交官僚だ。
むしろ大臣よりも、この人たちが今回の交渉においてメインの仕事をして、その代表が大臣ってだけだね。
そうして終始、とても上機嫌な大臣による出迎えと案内が終わり、僕たちは軽く食事を済ませると予想通り、夜間の護衛任務が待っていた。
僕は大臣による就寝前のリサイタル……いや、お風呂タイムを耳栓でやり過ごすと、そのまま部屋の中で守りに就く。
すると日付も変わった真夜中ごろ、部屋の窓が音も無く開けられて人影が現れた。
……が、その直後に部屋全体を眩い光が照らし出して、侵入してきた人物は部屋に足を踏み入れると同時に感電して倒れた。
「交代した初日にコレってどういうことなんだろ……」
「ジグ、何かあったのですか!?」
「あらあら、身の程知らずがいたものですね~」
「ひっ……だ、大臣はご無事ですか!?」
雷糸で仕留めた侵入者を僕が拘束していると、部屋の外で見張りに立っていた二人と、隣の部屋で控えていたお世話係の人も異変に気づいて部屋に入ってきた。
「ん~むにゃ……夜中に騒がしいぞ、一体何事でにゃぁっ!?」
「侵入者ですが、既に捕縛済みですのでご安心を。
一応、大臣には隣の部屋に移っていただいて、イリトゥエルとルミアに護衛を任せます。
それと、あなたにはアルテミア様に連絡してもらいたいのですが……」
「は、はいっ」
僕はナイトキャップを被って可愛いパジャマ姿の大臣が、出来るだけ目に入らないようにしながらそう言うと、刺客に驚いている大臣を少し嫌そうなイリトゥエルと、もっと嫌そうなルミアが隣の部屋に連れて行き、お世話係の人は急いで部屋を出て行った。
ほどなくしてアルテミアがやって来ると、一緒にケルガーとケオカマール配下の騎士もいた。
「早速お手柄ね。この者の尋問はそちらに任せますが、その場には彼を立ち会わせたいと思います。よろしいですね?」
客人に刺客の接近を許してしまったこともあり、王城を守る騎士団や近衛の面目は丸潰れだ。
しかし向こうはこれ以上メンツを潰すわけにもいかず、かと言って犯人の特定は他国の人間に任せられないだろうということなのか、アルテミアは相手に主導権を委ねつつ情報は手に入れられるよう、ケルガーを派遣することを決めたようだ。
「そう……ですね。狙われたのがウィルヘルム大臣なら致し方ありますまい」
「そういうことなのでケルガー殿、頼むわね」
「はっ」
ケルガーと騎士が拘束された刺客を連れて行くと、アルテミアは大臣と少し話をした後、部屋から出てきた。
「恐らくこれまでは騎士たちが中心になって大臣を守っていたから、敵も警戒して手を出せなかったのね。
でも今夜の護衛は全員が見た目にも若い冒険者だったから、作戦を決行したってところかしら……ふふふ」
「先生は何だか楽しそうですね。もしかして何か知ってましたか?」
イタズラが成功した子供のような表情をしているので、訝しんだ僕はアルテミアに尋ねる。
「ん~、そうね。ケルガー殿からは到着した後ですぐに、滞在中にはたびたび視線を感じてたと言われてたから、大臣が狙われているとは予想してたのよ。
でもここまでの間に襲われてないって事は、彼らがよく守っていたのもあるでしょうけど、やっぱり騎士を相手にするのはリスクが高いと判断してると思ったのよね~」
「あぁ、だから先生は護衛に参加せず、僕らに任せてたんですね」
「そういうこと。でもお陰で交渉カードがまた増えたわ。ありがとう、さすが私の弟子ね♪」
アルテミアは満足そうに微笑むと、僕の頭をガシガシと撫でる。
「でも刺客が強かったり、僕らが失敗したらどうするつもりだったんですか?」
「……は?」
僕が尋ねると、アルテミアはポカンと口を開けて数秒のあいだ固まった。
「あっははは、あなた自分で気づいてないのね。
この部屋みたいな狭い空間もそうだし、森の中みたいな構造物の多い場所なら、あなたがチョチョイと糸を張り巡らせるだけで大抵の敵は身動きできないでしょう?
護衛や拠点防御におけるジグの存在って味方なら頼もしいけど、敵に回すと厄介極まりないのよ?」
吹き出して笑うアルテミアはそう言って笑い、「辺り一帯を吹き飛ばすような敵ならまだしも、少しは自信を持ちなさい」と告げると、引き続き護衛を僕たちに任せて部屋を出て行った。
それから僕はイリトゥエルやルミアと交代して護衛を続け、その後は何事も無く朝を迎えた。
目が覚めた大臣からはダンクたちとの交代前に若干渋々な雰囲気はあったが、刺客の撃退によるお褒めの言葉と特別報酬をいただいたので、僕たちは早速街の屋台に行ってハイワーシズのグルメを楽しんでから、与えられた部屋に戻ってゆっくり休んだ。
本当はすぐにでも本来の目的である外交交渉に入る予定だったが、襲撃を受けてそちらの解決が先になったため、予定は更に延期となった。
ハイワーシズ王城に到着した夜のお話でした。
ウィルヘルムが作者の中で、少しずつではありますが愛すべきキャラになりつつあります。
もしかすると彼の歌のせいで、精神に異常をきたしているのかも知れません……。
ジグに対する評価は本人が思ってるほど低くはなく、逆に条件さえ揃えばアルテミアでも厄介極まりないと言うほど。
しかしムラッ気があるのも確かで、まだまだ未熟でもありますので今後に期待ですね。
外交の場や会議にはアルテミアやケルガーが同行することになるため、その辺りはアッサリとしながら前後に焦点を当てて話を書いていきたいところ。
いえ、別に作者が小難しい話を嫌ってるわけではありませんよ?……ありませんったら!(´;ω;`)(タブン)




