第273話 ハイワーシズへ その4 海中戦とジグの釣り方
海中に飛び込んだ僕は呼吸が出来るように風を纏うと、自分よりも更に下にいるであろうギガントクラーケンの姿を捜す。
するとまだ日の光が届く海の中、クラーケンは魔法を防いで損傷した脚を急速に再生させながら、大きな目でこちらを見ていた。
「ここはお前の領域だろう。まさか海の中で人間相手にビビってるのか?」
僕はそう言いながら挑発するように風の刃を放つと、いつもより断然遅いそれをクラーケンはスゥッと横方向に泳いで避けた。
しかし攻撃された事には怒ったのか、こちらを見つめて体表面の色を目まぐるしく変えると、口から墨を吐いた。
「目眩まし? いや、それ以外にも何か……」
辺りが真っ黒に染まるなか、僕は纏う風が弱まったのを見てそれが単なる墨ではなく、吸魔の力を持った闇属性の攻撃であると気づいた。
「厄介だなぁ。『ホーリーライト!』」
纏う風を解除するわけにもいかないので浄化魔法を使って相殺すると、吸魔の力を失いながらも視界を遮っていた墨の中から触手のような脚が伸びてきた。
「そうだ、こっちに来い……『自在粘糸!』」
自分の周りを囲むようにして幾重にも巻き付いてくるたくさんの脚を見ながら、僕は頭上に浮かぶ多数の船へ粘着糸を伸ばして貼りつける。
そして囲みから脱出しようと動きだしたその時だった。
獲物を逃がすまいとしたのか、多数の脚は僕の体を締め上げようとして一気に巻き付いてくる。
すると予め周りに漂わせていた雷糸に触れて辺り一帯に電撃が奔り、クラーケンの脚のあちこちを吹き飛ばした。
「逃がすか!『神縛桜糸!』」
またも脚が被害を受けたので再生する必要があると考えたのか、クラーケンが距離を取ろうとしたところを桜糸で縛り、船に繋いだ粘着糸を一気に縮める。
引っ張られるクラーケンも抗うが、体中に糸が巻き付きたくさんの船に繋がれていては、それ以上潜ることは不可能だった。
「ぷはっ……もういっちょ!『自在粘糸!』」
そうして僕は海面から飛び出すと、続けて粘着糸を周囲の船のマストへと繋げ、クラーケンに繋いだ糸へと更に魔力を注ぎ込み、一気に釣り上げる。
すると円を描くように配置された船の真ん中から、放射状に張り巡らせた糸の力によってクラーケンの巨体が浮き上がり、やがて海面から完全に姿を現した。
「ぐぎぎ……ま、まだまだぁぁっっ!」
巨体を海面から引き揚げただけでも充分かもしれなかったが、まだやれる事があるならと思った僕は更に魔力を振り絞る。
『灼爆炎糸!』
既にクラーケンの巨体には、先ほどアルテミアが砕いた殻を再生成したシルドシスーチェが纏わり付いていた。
僕はそれをクラーケンごと炎糸で縛り上げると同時に着火し、海の上には巨大な炎が巻き起こる。
「はぁ……はぁ……『ホ、ホーリーライト!』」
炎に包まれたモンスターたちを見ながら、合図代わりの閃光魔法を発動させると次の瞬間、周囲の船から一斉に魔法や矢、船に搭載された魔道具による砲撃が放たれクラーケンに直撃した。
「お見事と言いたいところだけど無茶し過ぎよ。
もしもクラーケンに深海まで引きずり込まれたら、一体どうするつもりだったの?」
糸で元いた船に戻ると、アルテミアが少し怒ったように言う。
「はぁ……はぁ…ダメージを受けて距離をとったり、再生までの時間を稼ごうとするようなモンスター相手に、のんびりと糸を垂らしても大人しく釣れるとは思えなくて。
それなら自分をエサにして、少し頭に血を上らせた方が手っ取り早いかなと。まぁ、結果は見ての通りです」
「あなたって子は……」
僕が息を整え首を竦めながら言うと、アルテミアは呆れたと言わんばかりの表情で額を押さえていた。
「まぁ、それでもジグのお陰であれ以上の被害も出なかったし、皆ずいぶんと楽になったわ。ありがとう」
「依頼主にご満足いただけたようで何よりです」
フッと微笑んで礼を言ったアルテミアの背後には、炎上し爆発して焼け落ちるモンスターの姿が見え、ひとまず目の前の敵が片付いて安心した僕は、恭しくお辞儀をして答える。
すると自分たちのいる場所より少し後方からも、何やら歓声があがっていた。
「何かあったんですかね?」
「ここのと同じくらいのサイズのクラーケンが、艦隊側面にも出たらしいのよ。
あちらにはケオカマール殿が向かったはずだから、恐らく彼がクラーケンを仕留めたんでしょうね」
僕は船の柱に登り視力強化で遠くを見ると、そこには巨体を丸い型でくり抜かれたような、胴体など殆ど消し飛んでいる状態のクラーケンの姿が見えた。
「うへぇ、やっぱりセラーナ様以外の四天星の方々も、かなりお強いみたいですね?」
「そうね。互いに戦闘態勢に入ってるなら、相手との距離を詰めればセラーナ殿、近付く前ならケオカマール殿が強いでしょうね」
柱から降り、即死したであろうクラーケンの姿を思い浮かべながら問うと、アルテミアは頷きながら答える。
「先生ならどうします?」
「……うーん、やってみないと分からないけれど、まずは戦わないよう努めるわ」
ちょっとした興味で聞いてみたけれど、アルテミアにしては珍しく気弱な答えが戻ってきた。
まぁ、何かあるにしても気軽には言えないだろうし、これから仲良くする国の騎士と戦うようなことは、縁起でもないから考えない方が良いのだろう。
「たしかに先生がそう言う程の相手なら、戦わない方が良さそうですね」
僕は戦闘が終了したのを確認すると糸を解除し、周りの兵士達はモンスターの素材回収に動きだした。
チラホラと聞こえてくる情報によると、クラーケンやシスーチェはなかなか美味しいらしい。
「たしかにイカやタコ、それに甲殻類だからなぁ。
……ふふ、これは夕食が楽しみだぁ」
どちらかと言えばまだ昼食の時間に近いというのに、夕食のメニューに興味が湧いてくるあたり、自分も随分と食いしん坊になったものだ。
……恐らくルミアの影響だろう、全くけしからん。
これは罰として、ルミアの夕食からおかずを一ついただくべきだろう。
そんな事を考えながら僕は後方の船へと戻ろうかと思っていると、先ほど見たのと似たような光景が目に入った。
「赤三本……? くそっ、あっちにも出たのか!
先生はここの指揮があるのでしょうから、先に行きますね!」
「えぇ! でも私やケオカマール殿が行くまで、絶対に無茶はしないようにね!」
赤い狼煙を見た僕はアルテミアの返事も聞き終わらないうちに走り出すと、後方の……自分たちの元いた船へと全速力で向かった。
海中の戦いの模様とジグの釣り方でした。
風属性に糸という、クラーケンとはかなり相性の良いジグがいたお陰で、前線は随分と楽に敵を仕留めることが出来ました。
この辺りは武器を振り回したり魔法を打つ以外の、抵抗も少なく触手のように扱える糸という手段が有るジグが強いようです。
しかしクラーケンは1体だけではなかったようで、側面に出現したものはケオカマールが出ていって仕留めました。
こちらも普通なら苦戦するはずですが、反動を許容できれば視認するだけで良く、実際、短時間で決着がついてます……が、ケオカマール殿はすぐにはちょっと動けません。
そんななか後ろから上がった狼煙にジグは血相を変えて急ぎますが、戦力的には前線や側面よりも充実してる予感。
ということで今回は戦闘でしたが、次回は戦闘のようなものの予定です(笑)




