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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第2部 海の国編 (初任務・火焔馬・海の民・ハイワーシズ)

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第268話 海の民の今後 その5 治療と生まれ変わる努力

 倒れたアクノヴァルナのもとへ駆け寄ると、僕はまず回復薬を取り出して飲ませようとする。

 しかしグッタリしたままの彼女は全く反応しない。


「あっ、くそっ、呼吸も止まってる!?」


 僕はアクノヴァルナを寝かせて気道を確保すると、索敵魔法で体内を探りながら風魔法を使って肺に空気を送り、雷糸を胸元に集めて心臓マッサージをする。


「かはっ!……はぁ……」


 倒れてからすぐに処置をしたこともあって、アクノヴァルナの呼吸も鼓動もすぐに回復した。

 そうして僕は彼女に回復薬を飲ませると、顔面蒼白だったアクノヴァルナの顔色は徐々に良くなってきた。


「ふぅ、これでひとまずは安心だね」


 意識があろうと無かろうと、たとえ相手が拒否しようとも、糸を体内に伸ばして食道でも気道でもお構いなしにこじ開けられるため、糸の力はこういう時に凄く便利だ。

 それに今回初めてやってみたけど、加減は難しくとも雷糸は蘇生に使えそうだ。


 特別な眼を持たないうえ今の僕の治癒術の腕では、外と繋がっている気管や食道程度ならどうにか出来ても、まだミリアさんのように相手の体内まで見透かすような事は出来ない。

  でも治癒術の訓練を続けていれば、いずれは糸を直接体内に入れて心臓マッサージをしたり、外からは見えない病気の治療も出来るかも知れない。


「よし……まだ僕には出来ることがある」


 属性が増えたことで、自分が授かった力の使い道の幅が広がったのが素直に嬉しい。


 まだ戦闘や治癒術、剣術に弓術、体術や魔法でも各方面のスペシャリストに僕は遠く及ばない。

 それを今回の事で強く意識したけれど、それでも自分にはまだ成長する余地が残されていることを実感できて、僕は右手を強く握り締めた。


「外傷は無いけど、無理な身体強化で筋肉がズタボロみたいだな……」


 喜んでばかりはいられないと思い、僕はアクノヴァルナの体を調べると、彼女の全身は筋肉が断裂したのか内出血で変色していた。


「これならあとは……『キュアエル!』」


 糸でアクノヴァルナの全身を包むと、僕はそこへ一気に回復魔法を流し込む。

 そうしてしばらく治療を続けていると、やがてアクノヴァルナが意識を取り戻した。


「どこか痛かったり、おかしなところはある?」


「くっ、やってくれましたね。どうして私を助けたのですか……何故あのまま死なせてくれないのですか!」


 僕が問いかけると、アクノヴァルナは泣きながらこちらを睨む。


「死なせたくないって言う人がいたから助けた。僕としてもこれ以上は人死(ひとじ)にが出てほしくないし。

 あっ、それともクリムゼリスみたいに、散々アチコチで暴れ回ってたのに、償いもしないうちから簡単に死なせるわけが無いでしょ、って言った方が良い?」


「それでもプロディサウラ様がいないのなら、もう私には生きてる意味なんて……」


「そこのおバカさん、人を勝手に死なせるものではありませんよ~」


 泣いているアクノヴァルナに対して相変わらず、こういう時になんと声をかけたら良いのかわからない僕が困っていると、いつの間にか汗だくで顔色の悪いルミアが隣にいて、アクノヴァルナを見下ろしながら言う。


「ルミアがそう言うって事は……?」


「ふふん、舐めてもらっては困りますね~。

 そりゃあ私とイリトゥエルさんが二人がかりで治療したのですから、即死やよほど滅茶苦茶な損傷でなければ死にはしませんよ~」


 顔色が悪いクセに得意気に話すルミアであった。

 僕は振り返ってプロディサウラの倒れていた方を見ると、イリトゥエルも疲労困憊(ひろうこんぱい)といった表情で回復薬を飲みながら座り込んでいたが、こちらに気付くと拳を握り、ビシッと親指を立てて微笑む。


「プロディサウラ様が、生きてる……?」


「だからそう言ってます~。ですからこれで、生きる理由には困りませんねぇ」


 ルミアの言葉を噛みしめるようにしながら、目を瞑って涙を流し続けるアクノヴァルナに、ルミアがニヤニヤしながら言う。


「それにしても、やっぱり流石だね二人とも」


「それを言うならジグさんこそですよ~。あちらは外傷ですからどうにかなっても、命を削る魔力放出をしたこちらはもう、てっきり全て燃やし尽くして手遅れだと思ってました。一体何をどうしたんですか~?」


「ん? ええと……」


 僕はアクノヴァルナに施した処置を思い出しながら、ルミアの質問に答える。

 するとルミアはウンウンと頷きながらそれを聞くと、

「ふふふ、使い方がわかってきたではありませんか」と、何やら満足げにしていた。


 そうしてプロディサウラとアクノヴァルナが一命を取り留めると、甲板に集まっていた人々には安堵の表情が浮かんでいた。



 その後は一度解散となり、今後については戦死者の弔いが行われた翌日以降に、話し合いがもたれることになった。

 海に生き海に死ぬという彼らの死者は皆、生前使っていた僅かばかりの遺品と共に海へと還り、残された者はそれを見送るのみという、非常に質素な葬儀であった。

 物資の乏しい海上の生活ゆえの習慣だと思われたが、前世の無駄に豪華な葬式を知る僕には、何だかそれこそが自然なようにも見えた。


「これまでずっと転々としてきたけど、アタシもいつかこうやって皆と一緒に、皆のいる海に還れたらいいな」


 初めて海の民の弔いを見たらしい、クリムゼリスの何気ない言葉が印象的だった。



 そうして葬儀の翌日以降、残る人々はグランドセイルの再建に向けての話し合いに移り、去ることを選んだ人々は移り住みたい国の騎士たちの元に集められて、今後の希望などを話し合い始めた。


 フルトネールとラファーガ、アルテミアとオケアマレヴはそれぞれの話し合いに参加するため、クリムゼリスの護衛には引き続き僕たちが付いて、彼女がこれから皆とどうしていくのか話し合う姿を見守った。


 まだグランドセイルの事情をよく知らない彼女を、これから仕えることになる人々はよく支え、クリムゼリス自身も理解を示していた。


 その後もグランドセイル内の補修や新たな仕事の割り当て、新体制による話し合いは順調に進んで一週間ほどが経った頃。

 ケオカマールが本国に出していた早船の使いが戻ってきて、ハイワーシズ側の移住許可が下りたことを告げた。



 ちなみにオケアマレヴや、セラーナと彼女の副官のメリルは自身の任地を長く空けるわけにもいかないので、先に国へと帰還していた。

 セラーナはもともとクリムゼリスを保護してハイワーシズ本国に連れ帰るだけが目的だったらしいので、一度戻って報告せねばならないのと、グランドセイルの状況も落ち着いてケオカマールもいるため、彼に現場を任せるらしい。


 そしてオケアマレヴについてはそもそも、どうしてあんなに早く援軍として来られたのかが謎だったのだが、実は共にフォータルキャビルを守っていて知将として知られるガイウスが、常に海の民の動向を掴んでいたらしい。


 そんななか定期報告の内容を受けて今回のイサプレア襲撃を予期したため、僕らがフォータルキャビルを出航した翌日には部隊を編成して、オケアマレヴに後を追わせたらしい。


「いやぁ、全ての準備をあっという間に済ませてしまってな。俺はただヤツの指示を聞いて港を出たら、あとは船を急がせるだけだったのだ! ぬははははっ!」


 豪快に笑うオケアマレヴから、隙あらば海の民の一部をセントリングに取り込もうとしていた人物だとも聞いたので、脳筋なオケアマレヴと正反対の人なんだろうなと僕は勝手に想像することにした。


 ……というか、あのテレサ様にオケアマレヴに加えてそんな人がいるのなら、そりゃあ半分独立したような形でフォータルキャビルの統治を任されているのも、納得できるというものだ。

 少なくとも自分なら、そんな街に手を出したいとは思えない。



 そんなわけで先にハイワーシズ側への移動が開始され、グランドセイルを離れることを決めた艦長らが数人、第一陣である半数の移住者を率いて去って行った。


「最初は大変かも知れないけどセラーナ……様やメリル……殿が先に準備をしてくれるとも言……仰っていたし、多分大丈夫だ……ですよな?」


「「「ぶふぅーっ!!」」」


 これからは海の民を率いる長になるため、イリトゥエルの指導のもとで今までの口調を少しずつ改めるようにし始めていたクリムゼリスだったが、まだまだ修行は足りないらしく、もの凄くぎこちない話し方をしていて僕らは思わず噴き出した。


「まだ慣れないんだから仕方ないだろ、そんなに笑うなよっ!」


「あはははっ! ご、ごめん、でも…ぷっくくっ!」


 噴き出してもその後はどうにか堪えているイリトゥエルとルミアと違って、腹を抱えて笑う僕にクリムゼリスが抗議する。


「さ、さすがに笑いすぎだろ! 二人からも何か言って……おいフルトネール、ラファーガ、まさかお前たちもか!?」


 傍にいた二人にクリムゼリスが助けを求めるが、彼らは主が自分たちの方を見ると目を逸らし、プルプルしながら笑いを堪えていた。


「だあぁっ! やっぱりイリトゥエルみたいに上品にするなんてアタシらしくねぇっ! イリトゥエルにはイリトゥエルの、アタシにはアタシの個性ってモンがあるんだ!」


「しかし姫様。今後、(おおやけ)の場でそのような話し方をしては相手への礼を欠きます。

 必要最低限の礼儀作法や話し方は身に付けていただかなくては……」


「おいラファーガ、テメェその足をつねってる右手を放して、もう一回言ってみろ!」


「すみません、そ、そればかりはご容赦をっ」


 笑いを堪えるため、ギリギリと音をたてながら足をつねっていたラファーガは、咎めるような主からの視線に耐えかねて下がると、先輩海将であるフルトネールが助け船を出す。


「とは言えラファーガの言う通り、イリトゥエル殿がいるうちに出来る限りのことを身に付けておかなくては、その後の長老たちの指導でも恥をかきます」


「それはそうかも知れないけど……ってフルトネール、テメェその雷は何だ!? 全身を感電させて無理やり真顔を保ってんじゃねぇよっ!」


 バチバチと爆ぜる雷を隠し切れなかったフルトネールは図星を突かれると、クリムゼリスの前に跪く。


「ハイワーシズへの移動は既に開始され、セントリングからの使いが来るまでも時間がありません。

 力を貸してくださる彼らから学ぶべきは学んでこれからに役立て、恩を返し、海の民が過ちを償うためにもここは我慢を……」


 急に真面目な話をしたフルトネールだが、その考えはクリムゼリスにキチンと伝わったらしい。


「そうだな。せっかく海の民が生まれ変わるなら、アタシも頑張らないといけ……わたくしも頑張らなくてはいけねぇんですものね?」


 バリバリバリッッ!! ……ドサッ。

 不意討ちを喰らったフルトネールは跪いたまま笑いを堪えるために雷を迸らせ、しかし逆に雷に耐えきれずその場に倒れた。

 一方でラファーガはもう顔を真っ赤にして、太腿の肉を千切らんばかりにつねっていたがダメだった。


 そして僕たちも釣られて一斉に噴き出すと、笑いながらクリムゼリスが怒るのを宥めたが、そんな彼女も自分の言葉を思い出すと噴き出して、僕たちと共にしばらくのあいだ笑い続けていた。

騒ぎは収まり、プロディサウラやアクノヴァルナもどうにか命拾いして、海の民のその後もいよいよ終盤ですね。


ジグは新しい属性を得てからずっと、戦闘以外でも何か出来ることは無いかなと試行錯誤を重ねてましたが、心臓マッサージは前世の記憶があるからこその発想ですね。


この世界には基本的に蘇生魔法がないので、恩恵等の特殊な場合を除いて使える者はほぼ存在せず、そんな中でもジグは魔法というより物理的に蘇生する手段を得たわけですが、魔法ではないので制限は多いです。


それと海の民の葬儀が出たのでついでに補足すると、この世界の埋葬は基本的に人口の多い都市部では火葬、農村などでは土葬が多いです。

地位の高い貴族や王族になると何日もかけて盛大に弔いますが、それは本当にごく一部。基本は割と簡単に済ませます。


オケアマレヴの到着の早さの謎も書けましたし、話し合いも進んで一気に時間を加速して、両国の受け入れ態勢も整えられ始めましたが、そのぶん別れの時もせまっております。

作者的にはちょっと寂しいせいか、そのぶん終盤はふざけすぎてしまったかなと少し反省してますが、こういうのもアリかなと(笑)


そんなわけで次回でそろそろ纏めに入れそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジグ君がどんどんと新たなスキルに目覚めていっていますねぇ。 彼の努力が着実に実を結んでいるのを、成長を見届けられるのも読者としては見ていて楽しく、嬉しいものです。 と、まじめな感想はこ…
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