第233話 閑話 桜紅共闘 (ルミア視点)
今回はジグと別れた後のお話を、ルミア視点で。
作戦があるらしいジグさんを残して、私はクリムゼリスさんの手をとり狼煙を上げて林の中を抜け出すと、林を包囲していた海の民の一部がこちらを発見して襲い掛かってくる。
「私が蹴散らしますから、クリムゼリスさんは付いて来て下さいね~!」
「トモダチだけに戦わせるなんて、んなこと出来るわけねぇだろ! アタシだって戦える!」
私が風の刃を放ってそう告げると、クリムゼリスさんは外套から右腕を出して怒鳴るように言う。
「海将ならともかく、そこらへんのザコにアタシが止められるかよっ!『バーン・アクセル!』『フレイム・フィスト!』」
そして炎を纏ったかと思うとすぐに飛び出していき、右腕の義手を開いた彼女は炎の奔流を撃ちだして敵を焼き払う。
「ゥオラァッ!」
その後も彼女は襲い来る敵を、ヒスティリスさんやモルドさんを思わせる体術で打ち倒していく。比較対象にあの二人が出る、それだけで彼女の実力はかなりのレベルであると言える。
特に強力なのは意外にも右腕の義手で、魔力を付与されたそれは普通では考えられない頑丈さと腕力を発揮するのか、敵の攻撃を防ぐだけでなく生半可な武器では掴んだ途端に破壊され、敵の体を一部でも掴まえればいとも容易く骨を砕き肉を引き千切って、さながらその姿は戦場の修羅のようだった。
「……これも過酷な運命を生きてきたために、やむを得ず身に付いたものなのでしょうかね……」
「何をボーッとしてんだルミア! 早く行くぞっ!」
私が彼女の戦い振りに見とれ、またその人生を思って少し認識を改めていると、返り血を拭いながらクリムゼリスさんが呼び掛けてくる。
「外套が返り血で凄いことになってますけど……ここまで遠慮無しとは思いませんでしたね。素晴らしいド根性です~」
「ん?……あぁ、元は同じ海の民なのにってことか?
そうだなぁ……アタシだって本当は命のやり取りなんてしたくないさ。でもあの日、家族が皆殺しにされて本来は負けるはずのない母上も、アタシを逃がすために命を捨てた。
グランドセイルを脱出した後だって、パルクラークのジジイが僅かな護衛と一緒になってアタシを育てて、鍛えて、守ってくれた。
その皆も逃げてるうちに少しずつ減っていって、最後にはジジイも追ってきた三海将相手に戦って、そんで死んじまった……」
包囲を突破して街の方へと向かいながら私が言うと、ずっと元気だったクリムゼリスさんは少しだけ寂しそうに答える。
「……皆、アタシを逃がすために命を落としたんだ。だからアタシは生き延びるためにずっと全力を尽くしてきたし、どうしても逃げられずに戦うときは敵に一切容赦しなかった。
それが例え同じ海の民でも、相手にどんな理由があってもアタシにはアタシのやるべき事がある。だからこの先も例え敵わない相手を前にして、逃げることも出来ずに戦うことになったって、勝てなくてもせめて最後まで抗ってやるんだ!」
「……」
まったく、嫌になっちまうよな……と続けて笑う彼女を見て、運命に翻弄されながらも力いっぱい生きているこの娘を、私は心の底から助けてやりたい。そう思った。
「あっ! 姫様、ようやく見つけましたよ。わざわざフルトネールさんを治療して、騎士たちの足止めをお願いした甲斐がありましたかね~」
「「!!」」
そうして炎上する建物のあいだを通りながら、セラーナさんやアルテミアさんを捜しつつ政庁を目指して進み、街にある教会に差し掛かったところで突然声が聞こえてきた。
見上げるとまだ火の手の上がっていない教会の屋根には、港の倉庫や林の中で遭遇した男たちと同じような鎧を身に着け、茶色の長髪をなびかせて微笑み、こちらを見下ろしている女性が立っていた。
「あぁ、これは厄介そうですねぇ~」
「うん、あれは『水海将』アクノヴァルナだ。多分フルトネールやラファーガよりも強い。
だいぶ歳だったけど昔は元帥も勤めたことのあるパルクラークのジジイを、三人がかりとは言え最終的に殺したのはアイツだって聞いてる……」
見覚えのある鎧に嫌な予感がした私が思わずこぼすと、クリムゼリスさんはそう言って全身に炎を纏ってすぐに戦闘態勢をとる。
……ふむ、これは少し冷静じゃないですねぇ。守り役だった人を殺された恨みで頭に血が昇ってるんでしょうか……。
しかし逃げようにも相手は大人しくしてくれそうにありませんし、ここは隙を見て狼煙を上げつつ時間を稼ぐしかありませんかね……。
幸いにも林を離れてからは追っ手の数が激減しましたし、その辺りはジグさんが上手くやってくれてるみたいです。ならば私もしっかりと役目を果たさなくては。
「逃げられないなら戦うしかありませんね~。
でもクリムゼリスさんは少し頭を冷やしてからの方が良いです。それまでは私が彼女の相手をしますから、『トモダチ』を助けたいならまずは冷静になってから混ざりに来て下さいね~」
「あっ………うん。 ごめん! もう大丈夫だっ!」
私は頭を冷やすように言って飛び出すと、クリムゼリスさんはハッとして気づいたのか、すぐに手の平でバチンと顔を叩くと頭の中を切り替えて私に続く。
……ふふふ、本当に素直ですねぇ。彼女と共に過ごし育てた者たちも、こんな娘だからこそ大切に守り、可愛がり、逃がすのに命を惜しまなかったのでしょう。
「……資質は充分。あとは在るべき者を在るべき座につけ、持つべき物を持たせ、そして進むべき道を歩ませるために、この私が力を貸してあげましょうかね~」
「こんな時に何言ってんだ!?」
私は頭上のアクノヴァルナに向けて風の刃を放つと、ワケが分からないといった表情のクリムゼリスさんが、同じく隣で火球を放つ。
「『トモダチ』だから助けてあげるってことですよ~!」
「!?……おうっ!!」
私の言葉にほんの一瞬だけ固まったクリムゼリスさんは、中身を理解すると元気良く頷いて顔を輝かせニシシと笑う。
「とりあえず用があるのは姫様だけなので、お邪魔な人は排除ですね。『エル・メニア・ウォーター・カッター!』」
私たちが互いに笑っていると、こちらの攻撃を水弾で相殺したアクノヴァルナがレーザーのように細い水を幾本も放ってくる。
「ナメられたものですね……『因果応報の盾!』」
「っ!?」
私はジグさんの盾魔法を真似て攻撃を跳ね返すと、アクノヴァルナは咄嗟にジャンプしてそれを避け、教会は幾筋もの水が奔ると壁や屋根が切断され、ガラガラと音を立てて崩れ始める。
「クリムゼリスさん!」
「おうよっ! 『フレイム・ブロー!』」
「くっ…『ウォーター・シールド!』」
『ホーリー・レイ!』
私は風の盾を解除して合図するとクリムゼリスさんは、アクノヴァルナが着地する瞬間を狙って右腕を叩き込む。
アクノヴァルナは咄嗟に水の盾を張ってそれを防ぐが、今度はその逆を突いて私が背後から熱線魔法を放った。
すると魔法による迎撃や防御が間に合わないと判断したらしいアクノヴァルナは、それを体に水を纏って防ぐ。
「くっ…うぅ~、予想よりやります……ね!」
ボシュゥゥッ!と音を立てて纏った水が蒸発するなか、クリムゼリスさんを風魔法で吹き飛ばしたアクノヴァルナはそこで、先ほどまでの緩い雰囲気が一変して目つきが鋭いものへと変わる。
「うっ……」
「あらまぁ、これは少しマズいですかね~」
ピリッとした空気を感じ取ったクリムゼリスさんが息を呑み、私も背中に嫌な汗を感じる。
「いくらフルトネールさんや暗部に足止めをお願いしたとは言え、四天星や護聖八騎がウロウロしている中で、これ以上は私も時間をかけていられないんですよ……」
そう言ったアクノヴァルナの体からは水の球が無数に生み出されていく。
「クリムゼリスさんは何か奥の手とかあります?」
「……あぁ。一回だけなら二つあるうちの両方とも使えるぞ。どちらかでも当たれば、アクノヴァルナ相手でもかなりのダメージを与えられるはずだ」
「なら私が押さえている間にそれを全力で叩き込んでください。私も余裕があるならその後に攻撃しますから」
私はそう告げると返事を待たずに光の属性身体強化で突進していく。あの娘なら状況が動き始めれば、否応なしでもこちらに合わせてくるはずだ。
「素晴らしい動き……ですが相手が悪かったですね!
『無限水刃!』」
アクノヴァルナが魔法を発動させると、彼女の周りに漂っていた水球からは次々と水の刃が撃ち出され、それは一瞬でこちらの視界を埋め尽くすほどの数になった。
『因果応報の盾!』
私は出来る限り近付いたところで風の盾を展開すると、そのあまりの手数に攻撃を跳ね返すことができず盾は水飛沫を飛び散らせ、私の魔力はみるみるうちに減っていく。
しかしアクノヴァルナの方も盾による先ほどのような反撃を警戒しているのか、私の方に集中していてクリムゼリスさんが回り込むのに気づくのが遅れた。
「もらったぁぁぁっ!」
「くっ……!」
右腕を振りかぶったクリムゼリスさんの義手からは赤い光が溢れ、その拳には紅蓮の炎が燃えている。
そしてそれはアクノヴァルナの左脇腹にめり込むかと思われた瞬間、アクノヴァルナの全身からボコボコと水が溢れ出す。
「このタイミングでも反応できるなんて…!」
アクノヴァルナが防御に魔力を回したことにより、襲い来る水刃が途切れると私は風の盾を解除して飛び出す。
するとズパアァァァンッッッ!という音がして、アクノヴァルナの体表面で爆発した右拳はその水を完全に吹き飛ばしたが、同時にクリムゼリスさんの細身の体は爆風を受けて仰け反る。
一方でアクノヴァルナも、体を覆っていた水も魔力も吹き飛ばされて同じく仰け反っていたが、その手には再び魔力が集められ始めていてクリムゼリスさんを狙っていた。
「クリムゼリスさんっ!」
「くおおおおぉぉぉっっっ!」
私が身体強化で駆けよるあいだにも、どうにか足を踏ん張って態勢を立て直したクリムゼリスさんは腕を真っ直ぐに伸ばすと、拳と肘の辺りから炎が溢れて次の瞬間、アクノヴァルナの方に向かって義手がもの凄い勢いで飛んでいく。
『無限水槍!』
それと同時にアクノヴァルナも先ほどのように水球を生み出すと、今度は水の槍が無数に撃ち出される。
しかし炎を纏って飛んでいく義手はそれをかいくぐってアクノヴァルナの腹に突き刺さると、そのまま教会の瓦礫に向けて一気に吹っ飛んでいく。
しかしアクノヴァルナの攻撃もまた、無防備になったクリムゼリスさんへと殺到していく。
「ふふっ…『トモダチ』のためなら仕方がありませんね…!」
「ルミア!? この…バッカヤロー!!」
私は風を纏うと、おびただしい数の水槍とトモダチの間に立ち、驚いた表情をしてこちらに左手を伸ばす彼女を風の盾で包み込んだ。
少し半端ですが、ここまでとします。
ジグとラファーガの戦闘中に別の場所で行われていた二人の戦いの模様でした。
この時点でセラーナによる暗殺部隊の殲滅は済んでおり、アルテミアも狼煙を確認してそちらに向かっています。
しかしその前に既にアクノヴァルナがフルトネールを治療したうえ、復活したフルトネールが街にいる部隊の半数近くをまとめ、セラーナおよびアルテミアの足止めをしているため、すぐに救援は駆けつけられません。
この辺りも戦力を揃えて事に望んだ海の民が先手を取り、ハイワーシズやセントリング側は後手に回ってますね。
さて本編ですが、どうやらクリムゼリスはルミアのお眼鏡にかなうどころか、かなり気に入られた様子です。
ですがやはりスンナリとはいかず、アクノヴァルナに見つかり二人がかりでも苦戦。
しかしアクノヴァルナとしてもアルテミアとの戦いやフルトネールの治療で消耗してるので、何気に大苦戦。どうやらラファーガには強がりを言っていたようですね。
しかしここまでにルミアも消耗しているのと、最後にはクリムゼリスを守るためにかなり無茶をしました。
果たしてここからどう繋がるのか、次回をお楽しみにです。




