第226話 大海を越えて その7 炎上する街と夜髪の騎士
イサプラ島に上陸した僕たちはすぐに身体強化で駆け出すと、人気の無い道や林を突っ切って首都イサプレアに急ぐ。
街に到着するとそこには、城壁の向こうの炎がこちらの方まで照らすほど燃え盛る建物や、逃げ惑う人々。
そして軽装の敵を迎え撃っている騎士や、傭兵と思われる者たちの姿が見えた。
「まずは敵を排除しつつ政庁に向かうわ。海の民は基本的に私たちやイサプラ、ハイワーシズの民よりも日に焼けてるのと、海洋生物やモンスターの皮を防具に加工してるから、その辺りの違いで見分けてね」
「はいっ!」
「わかりました~」
僕たちはアルテミアの指示に従って後をついていくと、街の燃え方が異常なことに気がついた。
そしてその原因は敵との交戦ですぐに明らかになった。
「……ルミア、あれってパチンコだよね?」
「ですね~。もちろん普通のパチンコではありませんけど、魔力による威力の強化と飛ばしているのは……中に油が入ってるようですね~。しかも凄く燃えやすいもののようです~」
僕とルミアは海の民の全員が持っていて、ピンポン玉程度の大きさの球体を次々と発射するY字型のそれを見て話していると、着弾した所からは次々と炎が上がっていた。
「本当に遠慮無しに火を放ってくれるわね……。
『エル・エリア・アクア・レイン!』」
次々に燃料が追加されるため一向に衰えない炎を見ていたアルテミアは、僕たちに敵の相手を任せて魔力を溜めると広範囲に水魔法で雨を降らせた。
「『メニア・ウインド・カッター!』 あ、これで少しは被害が減りそうだね」
「それはそうですけど、これだけ燃えてるなら氷持ちのイリトゥエルさんや、水持ちのラティナさんとオリヴィエさんも連れてきた方が良かったかもしれませんね~」
僕たちは賊を倒して降り注ぐ雨に打たれながらそんな話をしていると、アルテミアがやって来た。
「それにしても先生、略奪が目的ならここまで大々的に燃やすより、サッサと欲しい物や奪えるものだけ手に入れて撤退した方がリスクも少なそうなのに、何だか執拗に火を放ってましたね?」
「やっぱりジグもそう思う? 制圧するにしても海の民が陸地を欲しがるとは思えないし、他に何か狙いがあったのかしら……」
「火を放っていたのが陽動なら、ここにそれをするだけの価値のモノが存在するということですよね~?」
僕たちは「う~ん」と頭を捻るが、情報が不足しすぎているので分かるわけもなく、ひとまずは当初の予定通りに敵を退けつつ発見した負傷者を癒し、アルテミアが火を消していく。
すると街の中央広場に差し掛かったところで騎士の一団を発見した。
「私はセントリング王国所属の騎士で、護聖八騎のアルテミアと申します。こちらが襲撃されているようでしたので、配下の者を連れて救援に参りました」
「護聖八騎のアルテミア……? あ、あの『嵐穿弓』ですの?
わ、私はハイワーシズ王国騎士団しょずょく、四天星の一人、よ、『夜帳』のセラーナですわ」
アルテミアが僕たちを含めて軽く自己紹介すると、騎士たちの代表らしい黒い瞳にウェーブのかかった長い黒髪の女騎士も、自己紹介をしてそれに応じた。
……盛大に噛んだけど、そこは触れてやらないのが情けというものだ。
噛んだのが恥ずかしいのか赤面している彼女は、どうやらセントリングにおける護聖八騎の位置づけにある、四天星と呼ばれる優れた騎士のうちの一人で、僕たち……というよりはウィルヘルム大臣のハイワーシズ訪問を受けて、護衛のためイサプラ島に来たところ、ちょうど襲撃が起こってしまったらしい。
それにしても国内屈指の騎士だというのに、随分と気弱そうな女性だ。
声も小さくて覇気が無く、歳はアルテミアとそう変わらないように見えるのに、何とも対照的な2人である。
「ハイワーシズの守護たる四天星、その一人にお目にかかれて光栄です。それで、ここの現状はどうなっていますか?」
「わ、私たちをはじめとした両国の騎士が既に反撃に出ていますが、傭兵や冒険者を含めても数は敵の……う、海の民の方が圧倒的に多く苦戦してますわ……」
「私たちもここまでに多少は交戦してきましたが、敵の狙いがイマイチ掴めません。セラーナ殿には何か心当たりはありますか?」
「それは、ええと……」
何だかオドオしているセラーナを、堂々と話すアルテミアが威圧しているように見えるのは気のせいだろうか。
……いや、少し違うか。セラーナは何か隠しているのか、アルテミアの視線を浴び続けていると次第に目が泳いできた。
「……?」
「うぅぅ……メリルぅ、ど、どうしたら良いの?」
何で黙ってるんだろうと言いたげなアルテミアが訝しげにセラーナを見ていると、とうとう視線に耐えられなくなった彼女は後ろの女性騎士に泣きついた。
……本当にこの人って凄い騎士なの!?
「セラーナ様! いくら友好国とは言え他国の……それも護聖八騎の方の前で四天星たる貴女がそんな弱腰では、ハイワーシズの沽券に関わります! もっと堂々となさってください!」
メリルと呼ばれた緑の瞳に橙色のおさげ髪の騎士は、そんな風に上司を諌めると何やら小声で耳打ちして、セラーナはそれに大きく頷いていた。
……この二人には、そういうやり取りは見えないところでやった方が良いですよと教えてあげたいね。
「コホン……し、失礼いたしました。この地には現在、海の民から私たちの元に戻りたいという内通者が潜伏しておりまして、敵の狙いはその人物を捕らえることと思われますわ。
無闇に建物を焼いたのも、燻り出すのと陽動も含めての行動ということですわね」
アルテミアに答えたセラーナは「ちゃんと言えたわ!」と言いたげな表情でメリルの方を見ると、メリルも「よくやりました!」と言わんばかりの笑顔で頷いていた。
「う~ん……敵がここまでの事をするとなると、その人物が寝返ると海の民には余程の不都合があるようですね?」
「それはそうですわ。彼らにとって彼女はもう、たった一人だけ残された長の直系ですし、彼女の持つ鍵か魔力が無くてはいくらグランドセイルを制圧してても、制御下には置けませ…………」
アルテミアの質問に対して得意気に答えていたセラーナは、そこまで言うと言葉を止めて固まった。
そして「ギギギ…」と音がしそうな動きで横を見ると、そこにいたメリルも、それどころか他の騎士たちも呆然として固まっていた。
「ご、ごめんなひゃい……」
その場にいた皆が押し黙り、少し離れたところから響く戦闘の音だけが聞こえるなか、セラーナの掠れた謝罪の声が僅かに聞こえた。
少し短いですが新たな土地に加えて、初登場の人物や情報が多いためここまでにします。
パチンコ型の魔道具は海の民が得意とする武器で、油を使った小型の火炎瓶のようなもの以外にも、各属性の魔力を込めて対象を切り裂いたり凍らせたりも出来ます。
弓より連射が利くのも特徴の一つですね。
そして新たに登場したハイワーシズの四天星。
これは本編でも説明した通りセントリングの護聖八騎と同じ立ち位置ですが、四人からなる四天星の上には極天星と呼ばれる更に上の騎士が一人いたりします。
なので作中ではあんな感じですが、セラーナはハイワーシズ国内では五指に入る騎士ということですね。
最近は新たな土地に来ていることもあって、フォータルキャビル以降は特に色々な新情報が出てきてますが、大丈夫でしょうか?
もし不足があったり説明が欲しいなと感じられましたら、気兼ねなく言ってくださいませ。




