第193話 サスリブ村の討伐依頼 その4 岩喰いと天高く響く嘶き
「よし、これで依頼は達成かな?」
「そうですね。早く村に戻りましょう。私はお腹が空きました~」
僕はそう言って白剣を鞘に収めつつ、索敵魔法で洞窟内を探る。
ルミアは仔馬を撫でながら、空腹のせいかお腹を鳴らしていた。
「じゃあお前もお帰り。もうゴブリンはいないし、子供も助けられただろう?」
僕がそう告げるとフレアギャロップは仔馬の元へと歩いていき、互いの無事を確かめるように顔を近づけていた。
すると突然、周囲からバキバキと岩が割れるような音が聞こえて地面が揺れ、その直後に洞窟の壁や天井、地面を突き破って無数のモンスターが現れた。
「うわぁっ、いきなりなんだぁっ!?」
「あれはロックイーターですね~。ゴブリンの焼ける匂いにでも釣られて出てきたんでしょうか?」
「理由はどうでも良いよっ! あんな数をここで相手には出来ないから、早く逃げるよ!」
僕は目の無いヤツメウナギみたいな体や口をして、外皮は岩石のように硬そうなロックイーターがゴブリンの死骸に群がっているのを見ながらそう言うと、いち早く移動を開始したフレアギャロップの親子に続いて、ルミアの手を引っ張って入り口に向かって駆け出す。
するとこちらの動きに反応したロックイーターが、一斉にこちらを向いて追いかけてきた。
「うわうわ気持ち悪いよあの口! っていうかさっき岩を噛み砕いて出てきたよね!? あんなのに食いつかれたらひとたまりも無いよっ」
「まぁ人間の体なんて、彼らにとっては水をタップリ含んだ麩菓子みたいなものでしょうね~」
「うひぃっ、しかも速い! このままじゃ追いつかれ……そうだ!『ホーリー・ライト!』」
「……ジグさん……?」
僕は走りながら閃光魔法を使ってロックイーターの動きを止めようとするが、眩い光が洞窟内を照らしても全く影響なく、ロックイーターは僕らの後を追い掛けてくる。そしてよく見るとその頭部には目が無かった。
「ひ、光は通用しないのかぁっ!?」
「いえ、厳密には彼らにも小さな眼はあるのですよ。ただ、地中で生活するのにほとんど不要なので退化しているのと、眼に頼らなくても匂いや振動で獲物を感知するので、目潰しが効かないんですね~」
「親切な解説をありがとうっ!
『ウインド・カッター!』『ホーリー・レイ!』」
僕は落ち着いた様子で隣を走るルミアにそう言うと、今度は攻撃魔法を放って牽制するが、固い岩盤をも食い破るその口や外皮は非常に頑丈で、こちらの攻撃を受けつけない。
「くそっ、このままじゃ追いつかれて全滅だ! ここは僕が抑えるからルミアは先に……」
僕は足止めをするべく魔力を高めながらそう言うと、前方を駆けていたフレアギャロップが速度を落として僕たちと並走し、ルミアに噛みつくと放り投げて自分の背中に乗せ、続いてこちらに寄ってくると乗れと言わんばかりに僕を見た。
「……た、助けてくれるの?
うはー! やっぱりお利口さんだぁっ!」
もう格好よすぎてイケメンに見えてきたフレアギャロップの、そのしなやかな背中に僕が興奮して飛び乗ると、速度と体力の限界が近そうに見えた仔馬を口に咥え、フレアギャロップは足に炎を纏わせて更に速度を上げ、洞窟内を一気に駆けていく。
周囲の壁を突き破って次々とロックイーターが現れる中をかいくぐり、飛び出すようにして洞窟を脱出した僕たちが太陽の下へと躍り出ると、陽光なのか外気なのかは分からないが、とにかくロックイーターは何かを苦手としているらしく、地上に出るのを嫌がってそれ以上は追跡してこなかった。
「はあぁぁぁっ……た、助かったぁ……」
「間一髪でしたね~」
危機を脱した僕たちが安堵しながら背中を下りると、フレアギャロップはその場にドゥッと倒れ込んだ。
「!? ……お、お前、その傷は……ルミア!」
僕が振り返るとそこには、下半身にロックイーターの千切れた頭部が幾つも食い込み、腹を食い破られているフレアギャロップの姿があった。
僕は慌てて駆け寄るとルミアと共に治療するが、ルミア曰く内臓が修復不能なほど食われていて、たとえアマリアの全癒でもこれは治せないと言って首を振った。
「ごめん、ごめんよ……、僕たちにはお前を助けてやれない。お前は僕たちの命を救ってくれたのに……本当にごめん……!」
荒い息づかいでこちらを見るフレアギャロップに、僕は申し訳なくて謝りながら、それでも回復魔法をかけ続ける。
すると仔馬が親の鼻先に顔を近づけ、額と額を合わせ、甘えるような仕草を見せた。
僕にはそれが自分の無事を伝え、親を心配しているように見えた。
「気持ちは分かりますけどジグさん、せめてこれ以上苦しまないように……」
なおも回復魔法をかけ続ける僕にルミアがそう言う。
「言いたいことは分かってる。でもこの子の前で親を殺せというのは……」
僕がそう言うと、フレアギャロップは小さく嘶いて鼻先で押し、仔馬を僕の方へと押しやった。
……そして僕と我が子を交互に見る。
「この子をジグさんに任せたいと言ってるようですね……」
「……神様にはそんなことまで分かるのかい?」
「言葉が話せなくとも、ジグさんにだってそれぐらいは分かっているでしょう?」
目の前に横たわりながらも、いまだ強い意志を宿すフレアギャロップの眼差しを真っ正面から受け止めているのだから、それくらいは僕にも理解できる。
「……わかったよ、命の恩人の頼みだからね。僕がお前の分までこの子を守ろう」
僕がそう告げると、フレアギャロップは我が子を見ながら辺り一帯に響き渡るほど大きく嘶き、そして僕に首をさらけ出す。
「助けてくれてありがとう。約束は必ず守るよ……!」
僕は白剣を抜いてそう言うと、フレアギャロップは安心したようにゆっくりと眼を閉じ、僕は剣を振り下ろした。
◇◇◇◇◇
「あっ! 2人ともお帰りなさ……いっ!?」
「ただいまイリトゥエ………ちょっ、違うから!その手を下ろして!」
僕たちがサスリブ村に戻ると、村人たちと共に門の修理をしていたイリトゥエルは、フレアギャロップの仔馬を見て戦闘態勢をとった。
それを僕が互いのあいだに入って慌てて止めると、ルミアがこれまでにあったことを皆に説明してくれた。
「ほ、本当に大丈夫なのですか? 大人しいとは言ってもモンスターですよね?」
「そうですね~、私から見てもこのフレアギャロップの親子は他の同種と比べても、かなり頭が良い方だと思いますし、こちらから攻撃しない限りは無害だと思いますよ~。
ほら、親を失ったばかりで、しかもトドメを刺したのがジグさんなのに、すっごく大人しいでしょう?
恐らく起きた事についてキチンと自分で理解して、更に自分の境遇も、ジグさんが新しい親代わりなのも分かってるんですよ」
「……言われてみればそうかも知れませんね。
た、たしかにこう大人しいと、馬と大差ないのかも……」
イリトゥエルがそう言って近付き、おずおずと手を伸ばすと仔馬はガブッとその手を噛んだ。
「い、痛いじゃないですかっ……というか噛むじゃないですか! どこが大人しいんですか!?」
「あれれ、おかしいですね? 私が撫でても大人しくしてるのに~」
イリトゥエルが驚いて下がると、ルミアが仔馬の顔を覗き込みながら頭を撫でるが、今度は気持ち良さそうに身を委ねている。
「ほら、こんなに大人しくて良い子ですよ?
イリトゥエルさんはまだ会ったばかりですし、いきなり頭からではなく、もう少しそっと近づいて下からアゴを撫でてあげれば良いのでは~?」
「そ、そうですね。初対面でいきなり距離を詰めすぎまし……いたぁっ!」
ルミアの言う通りにしたイリトゥエルがゆっくり手を伸ばすと、仔馬は再びその手をガブリとやった。
「どどどどうして私には懐かないんですか!?」
「うーん、もう少し慣れれば変わるのかも知れないけど、今は謎だね……」
僕は顔を近づけてくる仔馬の額を撫でながら理由を考えるが、こればかりは直接聞き出すことも出来ないのでお手上げだ。
「まぁ、とりあえずゴブリンは片付きましたし、門や柵の修理を済ませたら一休みして、私たちも負傷者の治療をし……いえ、その前に食事ですね」
「あー、そうだね。僕もお腹が空いたかも。
とりあえず村長にはこの子の事を伝えないと、皆が怖がっても困るから僕は先に話してこようかな」
「ではジグさんは依頼の報告がてら村長にお話をお願いします。ほら、イリトゥエルさんも行きますよ~」
「むむむ……絶対街に帰るまでには撫でられるようになってみせます……!」
何だか噛み合わない事を言う2人を見ながら、僕はひとまず仔馬を連れて村長の元へと向かうことにした。
ゴブリンの討伐は無事に終えましたが、戦闘の音や血の臭いに惹かれてロックイーターが集まってきてしまいました。
ロックイーターは巡回の旅のグレイジーナ戦の時に出てきた、サンドイーターの亜種ですがこちらの方が強いです。
場所的にも相手に分がある環境なので、ここはジグたちも逃げるしかありません。
今回は洞窟でもかなり広い空間か地上の平地なら、三人いれば全滅させるのも可能かも……というくらいの群れの規模と強さでした。
フレアギャロップの傷については流石のルミアも手の施しようが無く、2人に出来るのは命を救われた事への恩返しと、苦しまないように介錯することだけでした。
回復魔法については綺麗に切断されていれば修復もしやすいのですが、ロックイーターのつける傷は対象を削り取ってグチャグチャにするので、多数のロックイーターにやられた場合は治療が非常に困難です。
とりあえずは依頼を達成して新しい仲間?も増えたので、次回は街に戻ると思います(予定)




