第184話 初任務 その16 戦後と援軍
「くっそぉぉぉぉっっっ!!」
「うわあっ!?」
突然の大声に僕は驚いて飛び起きた。
自分はどうやら寝ていたらしく周りには騎士や衛兵がいて、傍にはイリトゥエルが座っていた。
「やはり起きてしまいましたか。でもまぁ、あの大声ですから仕方がありませんね……」
「いったい何事ですか?……というかミリアさんたちは!?」
「落ち着いてください。レストミリア様のところへは私たちと入れ替わりでルミアが向かいましたし、先ほど北の森から青の狼煙が上がったので、もう少しすれば戻ってくるはずです」
「そ、そうでしたか……」
僕はイリトゥエルの答えを聞きながら声のした方を見ると、そこには拘束された状態のソドリオと、彼の怪我を治療しているアマリアと、その後ろでアマリアの手を煩わせるソドリオを睨みながら、ラジクの治療をしているヒスティリスがいて、まだ夜になってないことからも、どうやら僕が眠っていたのは短時間らしいことが分かった。
「姉様が回復魔法をかけた途端、それまでにかけられていた幻惑魔法が解除されたらしくて、いきなり怒り狂って暴れ出したのです……」
「なるほど、幻惑魔法かぁ……」
僕とイリトゥエルは幻惑魔法には苦い思い出があるので、互いに以前のことを思い出すような遠い目をする。
使い手や魔道具次第では、岳竜やワイバーンを操ることも可能な闇魔法が使われていたなら、もしかすると盗賊団はあの金ピカの騎士に操られていたのかも知れない。
戦闘中にあれだけ多彩な闇魔法を使っていたなら、可能性としてはかなり高いだろう。
そしてそれが解けたということは自分たちの望まぬ行動を取らされたり、その結果仲間や兄弟を失ったことを自覚したということだ。
「それにしてもどうしてアマリアが回復魔法をかけたら、闇魔法を解除することになるんだろう?」
「それはアマリアちゃんの『全癒』が、その人に害をなすものを問答無用で取り除き、癒す力を持っているからみたいよ」
僕の疑問に答えたのはイリトゥエルでもアマリアでもなく、いつの間にかやって来ていた治癒術士でアマリアの友達のフレデリカだった。
「フレデリカさんがどうしてここに?」
「お久しぶりねジグ君、でも来たのは私だけじゃないわ。他にもダンク君、ラティナちゃん、オリヴィエちゃん、それにラントラ君にゲオリグ君も来てるわ。
詳しいことは部隊を率いているケルガー様から聞いて……とは言っても本隊は森の方に向かったから、ここには私とラントラ君たちしかいないのだけれど」
「わかりました。とりあえず味方が増えたならありがたいですし、あっちもそろそろ大人しくさせないと…」
僕が暴れているソドリオの方を見ると、ちょうどアマリアが沈静魔法で眠らせたところだった。
そうして合流した部隊の騎士たちが街の周囲の警戒と安全の確認をしに行き、治癒術士たちが負傷者の治療を続けていると、レストミリアやルミアが帰ってきた。
「いやぁ、今回は…いや今回も大変だったねぇ……」
「ただいまです~。ジグさんの代わりにしっかりと働いてきましたから、リッツソリスに戻ったら、お高いご飯をご馳走してくださいね~」
「二人とも無事で良かっ……わかったってば。
今度ギルド酒場の女将さんに頼んで、とびきり美味しいのを作ってもらうよっ」
「わ~いっ! オカミさんの料理っ♪ ほっぺ~がとろけるっ♪ オカミさんの腕前っ♪ 国で一番っ♪」
クタクタな様子のレストミリアに対して、まだだいぶ元気な様子のルミアは早速僕からの報酬をねだるので、ご飯を1回奢ることになった。
この程度なら安上がりだと思うかも知れないが、4%女神の胃袋は異次元に通じているらしく、気に入ったものならそれこそ僕の財布が空になるほど食べるので、案外高くつく。
「まぁ、それでもこれくらいなら安いか……」
僕はルミアが祝福の光を漏れ出させながら歌っているのを聴きつつ、周りを眺めて味方に大きな損害が出なかったことに少し安心する。
そうしてその後は、街の守りや後処理などをケルガーの部隊に任せて、応援に来た僕たちとラジクの率いていた小隊は休養をとることにした。
◇◇◇◇◇
翌朝、目が覚めるとかなりの深手だったにも拘わらず、表面上は傷が完治していて僕は起き上がると、先に起きていたらしい皆の元へと向かう。
「皆さん、おはようございます」
「お? ようやくお寝坊さんのお目覚めだね。体調はどうだい?」
「傷は塞がってますし痛みもあまり感じませんね。ミリアさんも顔色が良いですし師匠は……アレだけの怪我だったのに、もう起きられるんですか。相変わらずバケモノですね……」
「今回ばかりはそんなことないぞ。こうして座っていても全身がアチコチ痛むし、食事を終えたらまた休むようにとアマリア殿からも言われてるからな」
「いえ、ラジク様。私は食事はベッドで摂るようにと、お願いしたはずなのですが……」
「アマリアはこう言ってますけど、師匠はなんでそんな無理してるんですか…?」
アマリアが呆れたような顔をしているが、ラジクが意味も無く治癒術士の指示を破るとは思えない。
……少なくとも戦いは終わってるから、ラジクが特に無理をする必要も無いはずなのだが…。
「ラジク殿はソドリオと早く話をつけたいのさ。ケルガー殿は騎士の中でも話の通じる方だけれど、少し考えが堅いところがあるからね。
あまりにもソドリオの言動が酷い場合は、心証が著しく悪くなる。その結果ディアブラスに悪い報告が行けば、今後が少し面倒というか困ったことになるからねぇ……」
ディアブラスって誰だっけ…あっ、騎士団長か。
どうやら師匠は他の人に任せずに、自らソドリオと話をしたいらしい。
「そういうことなのでアマリア殿、もし良ければ『全癒』でもう少し治療をしてもらえんか?」
「この力はあまり使うと消耗が激しいので、他の方々の治療が出来なくなるのですが……」
たくさんの怪我人を治療したいアマリアは、ラジクの提案を受けて良いものか迷っていると、食事に夢中になっていたルミアが手を挙げた。
「そひぇなりゃ わらひとイヒトゥヘルひゃんが やりまひゅかりゃ、アミャリヤひゃんは ひにしなひゅてみょ らいびょうびゅでひゅよ?」
「……あー、姉様。私とルミアで代わりを務めますから、姉様は気になさらずラジク様を治療して差し上げてください」
「わ、わかったわ。二人とも、ありがとう」
凄い! 僕には1ミリも理解できなかったルミア語を、イリトゥエルはすでにマスターしているらしい。
見事に通訳して伝えると、アマリアは紅金の魔力を手の平に集めてラジクの治療を始めた。
やがて元気を取り戻したラジクがお礼を言ってソドリオの元へ向かうと、疲れた顔をしたアマリアは回復薬を飲んで休憩に入った。
ここ1年の修行の成果によって大規模な広範囲魔法から、使い勝手の良いサイズにまで使い分けが可能になった全癒魔法だったが、それでも負担は大きいようだ。
アマリア曰く、最初に発動したときには声の聞こえた三人が力を貸してくれていたそうで、訓練によって魔力量が大幅に増えた今でも、最初の規模で全癒を使うと魔力切れを起こして確実に倒れるらしい。
そんなわけで休憩しているアマリアの代わりに、イリトゥエルとルミアが負傷者の元へと治療に行き、ヒスティリスは本来の任務であるアマリアの護衛と、そのついでにレストミリアに押し付けられたという、今回の任務の報告書作りを始める。
そして僕はと言うとやることが無いのと、万が一の時に拘束が必要かもよ?というレストミリアの意見を聞いて、ソドリオの尋問に向かったラジクの元へと行くことにした。
仕事を貰えてありがたいと感じた僕は、自分やヒスティリスに仕事を振っておきながら、一人だけヒマそうにしているであろうミリアさんにもお返しをすべく、途中で会ったケルガーに言って、森で捕らえた多数の捕虜の治療をさせるよう勧めておいた。
そうしてカンディバースの街にある地下牢へ行くと、その奥からは嘆き、怒り、悲しみ、罵る声が聞こえてきた。
ケルガーたちが援軍としてやって来ましたが、いち早く察知した敵はすでに撤退した後です。
戦いの後にはこういうのが書きたくなるもので、蛇足かなと思いつつも現在の状況やアマリアの魔法、ルミアの食欲やラジクの状態と考えなど、他では挟みにくい説明なども交えて1話に仕上げてみました。
そして今回は戦闘の最後にも気絶しなかったと思いきや、アマリアによって強制的に気絶させられていたジグですが、本人は意識を刈り取られたのではなく寝ていたと思っているようです(笑)
(まぁ既にその前の沼地の時点で気絶してますが…)
次回は尋問の様子になるかと思います。




