第181話 初任務 その13 追撃と伏兵
僕たちは身体強化でソドリオを追い、敵軍を迂回して街の北に広がるカンディバースの森へと入った。
「これ以上は敵にも余力があるとは思いたくないが、注意して進めよ?」
「あぁ、任せとけ」
「はいっ」
僕たちは現在、鬱蒼とした森の中をラジク、メラリオ、僕の順で縦に並んで進んでいる。戦闘中に負傷したらしいソドリオは出血しているらしく、通った道筋には血の跡が点々と残っていた。
それを追ってしばらく追跡していると、やがて森の中の拓けた場所に出て、出血した腕を押さえて座っているソドリオを発見した。
「もう逃げられんぞ。大人しく捕まってもらおうか」
「はぁ…はぁ……俺が大人しくしたとして、その後はどうなる?」
「知っていることを全て話せば、苦しまずに逝かせてやる。情報の中身次第では極刑を免除して牢に入れるかもしれんが、いずれにせよ二度と出られんだろうな。
さすがにお前たちの盗賊団は各地で暴れすぎた」
たしかに戦力的にも、今まで見てきた中では盗賊団として一番強大だったし、幹部の実力からしてどれほどの被害が出ていたか想像もつかない。
そしてこちらに協力しても死罪か終身刑なら、素直に捕まってくれるとは思えない。
それを包み隠さず正直に話すのもどうかと思うが、それこそが師匠らしいと僕は思った。
「もう一つ聞きたい。ソドルブの兄者については知っているが、ソドグルの兄者と弟のソドロトはどうなった?」
「どちらも我々が討ち取った。兄弟の生き残りはもう、お前だけだ」
「……そうか。皆、先に逝ってしまったか。
では俺もそれに恥じない戦いをしなくてはならないな……『キュアエル!』」
ソドリオはそう言うと体にグッと力を入れて立ち上がり、傷の治療をして剣を抜く。
「3対1ではお前に勝ち目は無い、命を無駄にせず大人しく投降しろ。従うのなら中級騎士ラジクの名において、命だけは助けてやれる」
「くくく……それは無理というものだ。何故ならお前たちはここで死ぬのだからな!」
ソドリオはそう言って手を挙げると、索敵魔法には反応が無かったはずなのに、周囲から一斉に武装した集団が現れた。
「敵は罠にかかった! まずはコイツらを討ち取り、その後は我々を撃退して油断している街の連中にも、奇襲を仕掛けてやるのだ!」
「おおぉっ!」
相手は五十人以上いるだろうか。
そのどれもこれもが先程までの盗賊とは違う、質の良い装備を身に着けている。
「くっ…隠蔽魔法を使ったのだろうが、これほどの人数にかけるとなると、それなりに魔法を使える者がいるはずだ。注意してかかれよ!」
「はいっ!」
「『ファイア・ウォール!』
おいジグ、お前は俺たちの中で唯一回復魔法が使えるんだから、奴らの相手は俺とオッサンに任せて、お前は糸でも何でも使って支援に回ってろ!」
「ひどっ!」
メラリオは僕らの周りを炎で囲むと、こちらを向いてそう言う。
その意見に賛成だったらしいラジクも「それもそうだな」などと言って同意したので、僕は仕方なく言われた通り支援に徹することにした。
『メニア・アクア・ボール!』
『ウインド・カッター!』
炎に阻まれていた敵は次々と魔法を唱えると、メラリオの炎の壁を破り、こちらへと襲い掛かってくる。
それを二人は迎え撃ち、僕もエルフの弓を構えて支援する。
「はぁっ! ん? コイツら……さっきまでと同じ盗賊とは思えんな。
気を付けろ! 奴らは戦闘訓練を積んだ傭兵か何かだ!」
「ちぃっ! んなこたぁ斬り結んだ時点で気付いてるってんだ!」
敵は想像以上に強いらしく、それは僕が放った矢を受けても、纏った魔力でダメージを軽減していたことからも分かった。
しかし、さすがに剣の腕は騎士の中でも随一と言われる師匠は、敵が更に強く、数が増えてもそれほど関係ないらしく、風之太刀をふるっては一刀のもとに斬り伏せ、辺り一帯に血飛沫を飛び散らせていた。
「このオッサンも大概バケモンだよなぁっ!
『バーン・アクセル!』『エル・ファイアー!』」
そしてメラリオも火属性の加速魔法で敵のあいだを動き回り、隙を突いては剣や魔法で討ち取っていく。
僕はそんな二人の背後から襲おうとする敵に目がけて、矢を放ったり魔法で牽制していると、ソドリオが部下を率いてこちらに向かってきた。
「邪魔な奴だな! お前が余計なことをしなければ、数で押し包んで倒せたものを!」
「くっ……『因果応報の盾!』『金剛斬糸!』」
僕は一斉に襲い掛かってきた3人を盾で弾き飛ばすと、倒れている二人を切り刻んだ。
ソドリオにも糸を放っていたが、弾き飛ばされても上手く着地して回避していた。
「奇妙な魔法を使う奴だな…『ホーリー・レイ!』」
「はぁっ!!」
ソドリオの放つ熱線魔法は貫通力が高いため、僕は風の盾に魔力を注ぎ込む。
そして弾かれた魔法を回避したソドリオが体勢を崩しているところへ、一気に突進してドロップキックを叩き込む。
「だぁっ!!」
「が…はぁっ……」
『無明雷糸!』
「ぐぅっ…『トルネード!』」
蹴りをまともに受けて吹っ飛ぶソドリオに向けて、着地した僕は雷糸を放つ。
しかしソドリオは空中で竜巻を発生させると、それを使って高く舞い上がり糸をかわす。
「逃がすかぁっ!『自在粘糸!』」
『エル・メニア・ウインド・カッター!』
竜巻に触れた雷糸が辺り一帯に雷を撒き散らすなか、僕は空中にいるソドリオに向けて粘着糸を放つと、向こうは風の刃を降り注がせてくる。
粘着糸は風の刃に絡まって威力を打ち消したが、そのぶんソドリオを捕らえることは出来なかった。
「ちっ、ならば…『エル・トルネード・ランス!』」
「はあぁっ!『エル・ウインド・ドリル!』」
着地したソドリオが渦を巻く風を放つと、こちらも同様の形の魔法を放つ。そして風で出来た2つの竜巻がぶつかり合い火花が散る。
「ぬぅ、詠唱は違うが同系統の魔法か…!」
「くっ…うぅぅっ!」
互いに魔力を振り絞っていくと、やがてそれは二人の間で爆発し、周囲にも爆風が広がって僕とソドリオだけでなく、近くで戦っていたラジクやメラリオも周りの敵ごと吹き飛ばした。
「うわぁっ! …じ、『自在粘糸!』」
僕は吹き飛ばされながらも粘着糸を放ち、ラジクとメラリオを捕らえて引き寄せ、自分も近くの木に糸を巻き付けて飛ばされないようにする。
「ジグ! いったい何をどうしたらこんなことになるのだ!?」
「そ、そんなこと言われても師匠、襲われたんだから仕方ないじゃないですかぁっ!」
「まぁまぁそう言うなよ。とりあえず糸で支援しろってのは守ってるんだし、敵はあの通り木に叩きつけられて大変な目に遭ってるぜ!」
僕たちは爆風に揺られながら互いにそう叫んでいると、やがて風は収まり糸を解除して着地した僕たちの周りには、荒れ狂う風で吹き飛ばされ、地面や木々に叩きつけられた敵が倒れたり、怪我を負っていた。
「ジグ、今のうちに…」
「わかってますよ。『無明雷糸!』」
僕はそれらを全員感電・気絶させて拘束したが、ソドリオの姿だけが見えない。
「あのどさくさに紛れて逃げたか?」
「いや……向こうだ、行くぞ!」
メラリオが周囲を見回していると、索敵魔法を大幅に広げたらしいラジクが西の方向を見て駆け出す。
「いたぞ! しかしあの状態でよくもまぁ、ここまで移動してきたものだな。ジグ…」
「はい…『無明雷糸!』」
「ぐあぁっ!」
少し進むと僕たちの視線の先には、全身傷だらけで足を引きずっているソドリオの姿があった。
それを僕は雷糸で気絶させて拘束し、もし気がついても自害できないよう、口にも猿轡のように糸を巻き付ける。
「ふぅ……これでようやく任務完了ですかね」
「うむ。ひとまずこれで一段落だな。あとはコイツを連れ帰り、後から衛兵にも手伝ってもらって、先程の奴らも街に運ぶとしよう」
「コイツ一人を運ぶなら手間はねぇが、街の奴らが来るまで森で倒れてる奴らを放置しておくわけにもいかねえから、見張りは必要じゃねえか?」
「それもそうだな。まぁ目が覚めるとも思えないが、一応一人は残った方が良いか」
「それなら僕が残りましょうか? 拘束を解かれても僕ならまた捕まえられますし」
「バーカ、お前は消耗してるのにあれだけ戦ってたんだから、何かあったら捕まえなおすどころじゃねぇだろ。
ここは俺が残って、気が付いて逃げようとか暴れる奴がいたら、片っ端から小突いて大人しくさせてやるよ」
「うむ、たしかにジグは顔色も良くないしな。
見張りはメラリオに任せるとしよう。何かあればすぐに狼煙を上げて知らせるようにな」
「あぁ、わかってる」
「まぁ、二人がそう言うなら構いませんよ」
「よし。では二人とも、一応回復薬を飲んでおけよ。それとメラリオ、こっちは予備に持っておけ」
「心配性なこった。だがまぁ、ありがたくいただくぜ」
そうして僕と師匠は回復薬を飲んでから、メラリオに見張りを任せ、ソドリオを連れてカンディバースの街へと戻ることにした。
逃亡したソドリオでしたが、カンディバースの森には盗賊とはまた少し違った伏兵がいました。
そこそこ苦戦しながらも、思わぬかたちで勝負がつき敵の拘束に成功しましたが、手が足りないため見張りを残して一旦街へと戻ることにしたジグ達です。
今日はもう1話書けそうな気がするので、頑張ります(=゜ω゜)v




