第143話 リッツソリスの戦い その5 総崩れと避難誘導
いつも読んで下さっている方々、ブックマークや評価をして下さった方々、いつも誤字脱字報告をして下さる方々、感想をくださった方々、皆様本当にありがとうございます。
自分で読んでいても、序盤は特に説明っぽくてウンザリな感じがするのに、ここまで読んでくださって本当に感謝しております。
まだまだ未熟で間違いも多く、読みづらいとか分かりにくい箇所もあるかと思いますが、どうかこれからも宜しくお願いいたします。
活動報告では時折お礼を述べているのですが、読んでない方も多いかと思い、こちらにも書かせていただきました<(_ _)>
モルド神父と一緒にアマリアの近くで仮眠を取っていた僕は、大音量の獣の雄叫びと、その直後に鳴り響いた「ギイィィィンッッ!」という結界が軋む音によって飛び起きた。
テント内にあったロウソクの減り具合からは、眠ってから1時間程度しか経っていないようだ。
「モ、モルド神父…!?」
「うむ、これはただ事ではないな…」
僕たちは眠ったままのアマリアが無事なことを確認すると、何が起こったのかを確かめるためにテントを飛び出して辺りを見回した。
すると僕の張った結界はすでに消えていて、南からは大量の狼がこちらに迫っていた。
「ここにあれだけの数のモンスターが向かっているということは、前線が突破されたのか……ジグ、お前はアマリアの近くから離れるな」
「わかりました」
アイゼンフォートとアルテミアとレストミリアに加えて、ガラドエルも参加している味方の前線部隊が突破されたとは思いたくもなかったけれど、目の前の光景はそれを事実だと示していた。
「二人とも無事か!」
「ラジク殿、一体これはどういう状況なのだ?」
「ウルファルクの咆哮波らしい。これだけ距離が離れているのに、そのあいだにある建物やジグの結界まで、一瞬で消し飛ばしてしまった」
「奴の放ったものにしては、こちらの被害は少ないようだが…」
「見張りをしていた者によると、咆哮波がこちらに到達する前に前線付近で爆発が起こったらしいから、恐らくアイゼンフォート殿が防ぎきれなかった一部が、こちらまで届いたものと思われる」
「ウルファルクの咆哮波を防ごうとしたのなら、アイゼンフォート殿と言えども無事では済むまい。団長は何と言っている?」
「王宮魔導師と近衛の出陣を要請しに王宮へと向かった。我々にはここを死守するようにとの命令だ…」
「しかし前線の危機に我々が動かなくては、下手をすると全滅してしまうぞ」
「それについてはすでに一度、前線から狼煙が三本上がっている。上がった直後に敵の手によって消されたがな」
「そうか…ならば撤退してくる味方を支援しつつ、敵を防がねばならんな…」
モルド神父はそう言うと、迫り来る狼の群れに溶岩球を複数放つ。
「ウルファルクとルナメキラがこの後どう動くかはわからんが、狼どもの相手はもちろん引き受けよう。
退いてくる味方のうち負傷者や消耗の激しい者は、里長らのところまで誘導するということで良いのか?」
「そうだな。まだ戦えそうな者はここで踏ん張って、団長が戻るまで敵を防ぐとしよう。
戦えぬ者はジグ、お前が連れて行け。もちろんアマリア殿も一緒にな」
ラジクも周りの騎士たちに指示を出しながらそう言うと、風の刃を放つ。
「師匠、僕だって戦えますよ」
「そうではない。まだ意識のないアマリア殿がいては、モルド殿も集中できんと言うことだ。
それにお前の糸は、こういう時にこそ役に立つ。頼りにしているぞ」
「わかりました。じゃあそうします…」
僕がアマリアを背負ってテントから出ると、まだ眠そうなアドルピスカも合流していた。
「…あ、味方が退いてきたみたい。私が斬り込んで敵を抑えるから、ラジクとモルドは援護をお願い。ジグも…頑張って」
「「応!」」
「はい!皆さんご無事で!」
僕は背中のアマリアを糸で自分に縛り付けると、建物の上にあがって味方を誘導し始める。
アドルピスカはそれを見ると一気に敵へと突っ込んで、味方の撤退を助けながら血の雨を降らせた。
「戦えない人は北東の食料庫まで退いてください!まだ戦える人は味方の本陣へ!」
僕はそう叫びながら回復魔法を込めた糸を、冒険者や騎士たちに巻き付けて応急措置をしつつ誘導していると、少し先で風の奔流がモンスターを吹き飛ばしているのが見えた。
「あれは嵐穿弓…先生があそこで戦ってるのか!」
僕は避難誘導をしながらその場所へと向かうと、全身血まみれのアイゼンフォートを連れたレストミリアと、彼らを追撃する数体の上位種と戦っている、こちらも全身傷だらけのアルテミアの姿が見えた。
「…先生、後ろへ飛んでください!『金剛斬糸!』」
僕は屋根の上からそう叫ぶと同時に飛び降り、アルテミアが飛び退いたのを確認すると、複数のロックガルウルフに糸を放ってそれらを細切れにしていく。
「はぁ…はぁ…た、助かったわ。魔力もほとんど無くて、困っていたのよ…」
「敵はここで僕が抑えます。先生とミリアさんはこれを飲んで、アマリアとアイゼンフォート様を食料庫まで連れて行ってください。
ミリアさん、アマリアは意識が無いだけですから…早く行ってください!」
意識の無いらしいアイゼンフォートには回復薬を飲ませられないので、僕は二人に回復薬を渡すと、自分も疲労でフラフラなのに、それよりもアマリアの状態を見て、何か聞きたそうにしているレストミリアを先に制し、襲い来る狼の群れへと風の刃を放つ。
「ジグ、すまないね。少しの間だけ頼むよ…」
「私たちが戻るまで、絶対に無理しちゃダメよ」
「わかってますよ。今回は特に身に染みてますから…ね!」
僕は二人が意識のない二人を背負ったのを確認すると、糸で彼らをそれぞれ固定し、更に足下から竜巻を発生させて屋根の上に押し上げた。
すでに回復薬を飲んでいるから身体強化くらいは出来るようになるはずだし、これで屋根伝いに逃げられる。
上位種なら屋根まで跳んで追跡は可能かもしれないけれど、上にいれば雑魚に煩わされることはないだろう。
「それに…」
僕は風の糸を放つと、屋根に跳び上がろうとしてたロックガルウルフを空中で蜂の巣にする。
「僕がいるのに、ここを通れると思うなよ…!」
僕はその後も、アルテミアたちの後にも続いてくる人たちを助けながら、狼の群れ押し留めていた。
その間にも街の南部からは爆発音や獣の声が聞こえている。下がってきた騎士によると、ガラドエルが殿を買って出たらしく、こうしている間にも彼女とエルフたちが、懸命にウルファルクを抑えているらしい。
しかもガラドエルは、アイゼンフォートと共に咆哮波を防いで負傷している身だと言うから驚きだ。何本も霊樹の回復薬を飲んでいても間に合わないほどの、怪我や魔力の消費をしながら、ガラドエルは魔王軍四天王の二人を相手に、一歩も引かずに戦っているそうだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…こっちに来る敵は…もういないかな…」
しばらくのあいだ狼を倒しながら避難誘導をしていた僕は、フラフラしながら周りを見渡す。
するとそこへ薬の効果が出て、ある程度回復したらしいアルテミアが数人の騎士を連れてやって来た。
「無事で良かった!ジグのお陰で、味方も大勢無事に退却できたわ」
「はぁ…はぁ…それは良かったです。他の場所の戦況はわかりますか?」
「遠くから確認しただけだけど、本陣に迫っていた狼の大群も、おおよそ片付いたみたいね。
統率のとれた魔法攻撃がされていたから、恐らく王宮魔導師が出てきたのかもしれないわ。
私はこのままガラドエル殿のところへ向かうけど、ジグは一旦退いた方が良さそうね」
「先生の言いたいことはわかります。でもガラドエル様を助けるのなら、僕の糸が役立つはずです。あの方には助けられた恩がありますし、逃げてきた人たちから話を聞いて、僕も気が気では無いのです。
それにあの方にもしもの事があれば、僕はイリトゥエル様に顔向けできません。だから…」
「全くこの子は……その顔はどうせ言っても聞かないんでしょう?ならミリアから預かったコレを飲んで、さっさと回復しなさい」
「ええと先生、これはもしかして…」
「ふふふ…"あの"サイモンの薬よ。ミリアが毒味として少し飲んだけど、一応無事よ。
どうしても一緒に行きたいなら、さぁ、召し上がれ♪」
「一応って部分が凄く気になりますけど、まぁ仕方ないですね…」
小瓶の中身は例のアレだ。カーキ色でドロッとしたその液体らしいものは、普通に考えたら絶対に口に入れてはいけない色をしているけれど、たしかアドルピスカも飲んだと言っていた。
それにレストミリアも味見したなら、死ぬような事はないだろう…多分。
僕は恩を返すためだと自分に言い聞かせて、それを口に流し込むと一気に飲み込んだ。
「……?…!……っ!!……??……うわあ…果肉入りの果物ジュースに炭酸を入れたところまでは良いのに、更に得体の知れない存在Xを足して台無しにした感じだぁ……」
「だ、大丈夫なの…?」
「そんな実験結果に興味があるみたいな顔をするくらいなら、先生も今度飲んで……!?」
「ジグ!どうかしたの!?」
心配と興味の混ざったような表情のアルテミアと話をしていると、急に体が熱くなってきて心拍数が跳ね上がった。
「ま、魔力が暴走…いえ、溢れ出てくる感じです。ははっ、これは凄い…効果が出るのも早いけど、回復力も凄まじいです。
行きましょう。もたもたしていると魔力が無駄になってしまいます」
「え、えぇ。何ともないなら良いわ」
僕たちはガラドエルの戦っている場所へと急ぐと、途中で騎士団長が率いる部隊と合流した。
どうやら本陣にいた人たちを、根こそぎ動員しているようだ。
「おおジグ、無事だったか。なかなか戻らないから心配したのだぞ?」
「避難誘導の途中で先生達を見つけて、アマリアを連れて行ってもらう代わりに、狼の相手をしていたんですよ。モルド神父も無事で何よりです」
「そうか、それはよくやったな。しかしお前のその魔力はどうした?怒りで暴走しているような有様だぞ?」
「師匠、別に僕は怒ってませんよ。これはサイモン様の薬を飲んだ結果、こうなったんです」
こちらの返事に神父も師匠も顔が引きつったのを、僕は見逃さなかった。
「…だから大丈夫と言ってる。皆も試すといい、きっと役に立つから…」
「まぁミリアも味見してから治療をするのが楽になったみたいだし、ジグやアドルピスカ殿がそう言うのなら、飲んでみるのも悪くないかもしれないわね」
「…ん。じゃあアルテミアにもこれあげる…」
アドルピスカが小瓶を取り出すとアルテミアに渡す。続いて神父と師匠にも差し出し、二人も渋々それを受け取った。
すると団長が皆に作戦を伝え始める。
「残念ながら近衛はやはり動かなかった。しかし使いを出したので我々の他にも、里長やイリトゥエル殿がこちらに向かっているはずだ。
レストミリアは負傷者の治療、アイゼンフォートは重傷でそれぞれ動けないだろうが、これ以上被害が大きくなる前に、王宮魔導師と共に敵を排除する。
我々は敵を引きつけて街の外まで誘導するのが役目だ。その後ヤツらの動きを止めたのを合図に王宮に控えている賢者サイモンが、黒骸王の時と同様にウルファルクにトドメを刺す。
ルナメキラは厄介な相手だが、戦闘力ではウルファルクに遠く及ばん。奴はウルファルクの排除後に全員一丸となって叩き潰すぞ」
「…団長、いくら王宮の対軍魔道具でも、あのウルファルクを一撃で倒すほどの威力があるの…?」
「そこは我々の力で、どれだけ奴にダメージを与えられるかにかかっているが、しかし案ずるな。先ほど伝令が到着して、エレオノールたちもこちらに向かっていると報告が入った。
我々は敵を街の南へと押し出し、エレオノールの部隊と挟み撃ちにして削れば、サイモンがトドメを刺せると思われる。
そしてそのためには『霊樹の守護者』の力もまた借りねばならん。アドルピスカ、お前の持つサイモンの薬は、あとどれほど残っている?」
「…ん、残りはあと三本…」
「ならば霊樹の守護者とエレオノール、そしてアルテミア、お前が飲め」
「団長、私はすでに1本受け取っていますし、エレオノール殿とガラドエル殿はわかりますが、私よりも団長かアドルピスカ殿、それかエレオノール殿と共に来るはずの、キルウルク殿が飲んだ方が良いのでは?」
騎士団長の言葉を聞いたアルテミアは、少し不安そうに答える。
「いや、能力を考えると俺やキルウルク殿がルナメキラを抑えているうちに、アドルピスカとお前達の弟子とイリトゥエル殿でウルファルクの動きを封じる。
そしてモルド、ラジク、アルテミア、エレオノール、ガラドエル殿の最大攻撃でウルファルクの魔力を一気に削り、サイモンのトドメを当てやすくするつもりだ。
お前も奴らには借りがあるのだろう?こういうものは返せるときに返しておかないとな…」
団長は説明すると最後にニヤッと笑ってそう言う。
「わかりました団長、アイゼンフォート様やゼストルフ将軍、そして奴らにやられた皆の分まで、私が敵を撃ち抜いてみせます…!」
アルテミアは頷くと、強い決意を込めた目で敵のいる方角を見ていた。
少しは落ち着けるのかと思った矢先、ウルファルクの咆哮波によって戦況が一変してしまいました。
前線の部隊は総崩れとなり、辛うじて味方を守ったアイゼンフォートは意識不明の重体で、治療や戦闘で魔力を使い果たしたレストミリアたちは、ガラドエルによってどうにか逃がされました。
退いてきた前線の騎士や冒険者は、本陣にいたジグたちの働きで敵の追撃は免れたものの、これ以上戦いが長引けば勝ち目が薄いと判断したディアブラスは王宮へ向かいました。
しかし王は近衛の出陣を許さず、前線に出されたのは王宮魔導師の一部だけです。
かなり厳しい状況のなか、不幸中の幸いはサイモンの協力を得られたことと、エレオノールの部隊がスウサの砦の戦いに勝利して、こちらに向かっているという報告のみ。
対軍魔道具には魔力が溜まり切っていませんでしたが、アドルピスカがサイモンジュース?を飲んだときに魔石に込めた魔力と、気に入ったアドルピスカの助けになるならと、サイモンも無理をしてたりします。
そろそろ決戦も近付いてきましたが、次回は前線における戦いの模様か、エレオノール視点のお話になりそうです。




