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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第139話 閑話 相性の良い二人(アドルピスカ視点)

今回はアドルピスカ視点で、ケルガーと共に大洞窟から脱出した後や、リッツソリスに到着してからのお話です。

 私は東サスリブ山にある大洞窟で重傷を負ってから、レストミリアの応急処置を受けた後、ケルガーに付き添われて洞窟を脱出し山を下りた。


 特に洞窟を出た後は、幻惑魔法をかけた上でケルガーが背負ってくれたから、私としてはとても楽だった。

 私たち…というかケルガーは、身体強化で急ぎながら戦場を迂回し、ソリス川沿いに進んでトイスの東に広がる湿地を抜け、教会の南にある森の中を進んでリッツソリスまで私を運んでくれた。


 ケルガーにはかなりお世話になったから、近いうちにお礼をしたいと私が言うと、

「それでしたら、護聖八騎との手合わせを所望しても良いですか?滅多に無い機会ですし、アドルピスカ殿がよろしければ…」

 などと言うので、私だけじゃなくアイゼンフォートやアルテミアにも、今回の件が済んだらお願いをして、一日中鍛えて貰えるように頼もうかと思う。


 そうしてケルガーに連れられて騎士団本部に到着した私は、治癒術士によって治療を受けたのだけれど、留守を預かっていたクロエや他の主要な治癒術士たちも、任務から戻ってきたばかりのエレオノールと共にスウサの砦へ向かっていて、レストミリアの応急処置以上の治療は、あまり受けられなかった。


「…早く復帰したいからどうにかして…」


「どうにかと言われてもな…」


「ふむぅ、困ったのぅ…」


 私は顔の広い団長やアイゼンフォートに、この体を早く治すすべを考えてもらう。

 ちなみにケルガーは疲労回復のために休んでる。私を背負って結構な距離を走ったから、さすがに上級騎士でも疲れたみたい。


 悩む二人を見ながら誰かいないかと考える。

 しかし生憎(あいにく)と私は、人付き合いが苦手で知り合いが少ない。もちろん護聖八騎として要請すれば手配は出来るだろうけど、あまり立場を振りかざすのも好きじゃないし、自分の体を治療してもらうのだから、快く依頼を受けてくれる人の方が良かった。


「主立った治癒術士は出払っておるしのぅ…。

 お!でも治癒術士でなくとも、回復魔法を得意としている者はおるのう!」


「…それは誰?」


「王宮の筆頭魔導師である、賢者サイモンじゃよ」


「っ!?」


 アイゼンフォートの提案を聞いて、何故か団長は顔を引きつらせていた。

 サイモンって誰だっけ?………あっ、たしか白いモコモコしたお爺さんだ。魔法が得意なことで有名だし、たしか魔道具もたくさん作ってると聞いたことがある。


「ん…。ならそのサイモンにお願いしてみる。ありがとう…」


 私はアイゼンフォートにお礼を言うと、騎士団本部から王宮に向かう。

 部屋を出る前に団長がこっちを見ていたけど、何か言いかけたところで口をつぐんでいた。

 まぁそういう日もあるのだろうなと思うことにして、私は内城壁前で番をしている近衛兵の所まで行き、用件を伝えるとスンナリと中に通された。


 護聖八騎になってから良かったなと思うのは、こうして割と自由にあちこち行けるようになったことや、難度の高い任務を与えられることで、戦闘経験を得る機会に困らなくなったこと。

 あとは何より、私の前でおじい様の悪口を言う人間が減って、嫌な思いをしなくて済むようになったことかな。


 優しかった祖父の顔を思い出しながら、私は王宮の隣に立つ魔導師の研究棟へと向かう。

 護聖八騎として力を示し、国に貢献し続けることで、私はおじい様が失った名誉を取り戻した。

 今回は不覚を取ってしまったけれど、完全に回復すれば再び任務をこなし、私は祖父の名を敗軍の将としてではなく、護聖八騎アドルピスカの祖父ロンメルとして知らしめる事が出来る。


「…そのためにもサイモンには力を貸してもらわないと。たしかこっちだと言ってたけど、一体どこにいるのかな…」


 主に魔導師がいるこの研究棟はその外見こそ立派だったけれど、内部は魔法の発動失敗による結果なのか壁や柱があちこち破損していたし、壊れた魔道具やその部品、魔石の欠片やモンスターの素材などが雑多に置かれ、随分と散らかっているようだった。


 いくつもある部屋からは、何やらブツブツと呟くような声が聞こえているし、様々な薬品の匂いや、それらの調合に失敗したらしい悪臭も時折漂ってきた。


「…賢者サイモンに会いたいんだけど、どこ…?」


 私は廊下ですれ違った魔導師に尋ねると、魔導師はブツブツと独り言に夢中でこちらに気付いていなかった。


「……サイモンはどこ?」


「ひぃやあぁぁっっっ!?いきなり何をする!

 サイモン様なら一番奥の研究室におられるわ!いちいちそんな…こと、を……ををををを!?閃いたぞぉぉっ!!いやっほおぉうっ!」


 無視されるのは困るから魔導師の足を軽く凍らせてみたけど、何だか向こうも喜んでるみたいだし、私も無事に場所を教えて貰えた。

 人付き合いは苦手だけど、やっぱり相手と会話をすることが大事なんだと改めて思う。


 そうして建物の中を進むと、やがて廊下には上質な魔石や素材が増えてきて、何だか置かれた魔道具も複雑になっているようだった。


「…奥の方はサイモンに近いから、魔導師の中でも上位の人たちのスペースなのかも。あ…」


 物で散らかった廊下を縫いながら歩き、私はやっと行き止まりにある大きな扉の前に到着した。

 一応の礼儀としてノックをしたけれど、中からは何も反応が無い。


「…さっきの人も気付かなかったし、やっぱりサイモンも研究に夢中で聞こえてないのかな。じゃあ仕方ない…」


 私はほんのりと魔力を溜めると、扉を開けてみる。すると部屋の内部に鎮座していたのは茶色の大きなゴーレムだった。

 私はそれを見ながら部屋の中に一歩踏み出すと、突然ゴーレムの目が緑に光って動き出し、私に向かって拳を振り下ろしてきた。


「ん、邪魔。『アイシクルランス…』」


 本当はサイモンに呼び掛けるときにと思っていたけれど、ちょうど良かったので溜めていた魔力を使い、私は氷柱を飛ばしてゴーレムを貫いた。


「…あ、少し魔力を溜めすぎてた。サイモンに使ったら危なかったかも…」


「ほぉっ!?いったい今の音はなんじゃ……ぬぅわあぁぁっ!ワシのゴーレムがぁっ!?」


 氷柱の突き刺さる音や、ガラガラと崩れるゴーレムの音を聞きつけたらしいサイモンが、部屋の奥から慌てた様子で出てくると、すでに土塊となっていたゴーレムを見て大声を上げた。


「…直接話すのは初めてだっけ?私はアドルピスカ。今日はお願いがあってきたの…」


「ぬぁぁにを言っとる小娘がぁっ!!せっかく実験の用意をしていたのに……ワシの可愛いゴーレムに、いったい何の恨みがあるんじゃあっ!」


 サイモンはとても怒っていた。でも普通はゴーレムが襲ってきたら、破壊しないとダメじゃないのかと私は思う。


「ん…。でも部屋に入ったらゴーレムが動き出して、私に襲い掛かってきたものだから…」


「ひょっ!?アレが動いたのか?ならば…ふむ、そうか!ワシの実験は成功していたのじゃな!」


 私の話を聞いたサイモンは、怒り心頭といった表情から一転、輝くような笑顔で喜び始めた。


「よぉし、では今の理論で再構築して…いや待てよ?そうなると待機命令に反し、勝手に動き出して人を襲ったのではいかんのぅ。まだ実用には時間がかかるかぁ…」


 今度は凄くしょんぼりしている。コロコロと表情の変わる人だなぁと思っていると、サイモンはようやくこちらを見た。


「して、護聖八騎のアドルピスカ殿がわざわざここまで来て、このワシに何の用じゃ?」


 ようやく本題に入れる。

 私はこれまでの経緯を説明して怪我の治療を依頼すると、サイモンは何か考えるように唸っていた。


「…もしかして忙しい?敵がまだ残っているから、こっちも急いでるんだけど。もしあなたがダメなら、他にお願いできる人を紹介して欲しい…」


「いや、治療はワシがしてやってもよい。しかし、出来ればお主にもこちらから頼みたいことがあるのじゃ」


「…なに?」


 サイモンの言う頼みとは、簡単に言うと新薬の試飲だった。

 エルフの大森林にある霊樹の葉から作られる薬は、その希少性や価値、そして他の追随を許さない絶大な効果でよく知られているけれど、サイモンはその霊樹の葉を使わずに、それと同等の効果を持つ回復薬を作る研究をしているらしい。


「つい先日完成したばかりなのじゃが、此度の戦に持っていけと言っても、誰も受け取ってくれんのじゃよ…。

 まぁたしかに、出来上がったばかりでこの見た目じゃから、皆が飲みたがらない気持ちも理解は出来るんじゃ。

 でもワシはこれの効果に自信を持っておる。そしてこの薬が広まれば最高級の薬の原料を、今のようにエルフに頼り切りにならずに済むし、より多くの騎士や兵士たちの命を救うことが出来ると信じておる」


 私には少し寂しそうに言うサイモンが、おじい様の姿と被って見えた。

 いや、サイモンはヒョロ長くてヨボヨボで、おじい様は筋肉質でかなり体格が良かったから、見た目は全然違うのだけれど。

 私が冗談で冷たくすると、おじい様もこんな風にしょんぼりしていたっけ…。

 私はとても懐かしい気持ちになって、サイモンの方に手を伸ばす。


「…わかった。じゃあ飲んでみるから1本ちょうだい」


「ふおぉ…飲んでくれるのか?本当に良いのか?」


「…うん、大丈夫」


 私はサイモンから薬を受け取ると小瓶を傾ける。

 カーキ色の液体…?はドロドロとした感じでゆっくりと流れてくる。しかしその見た目に反して匂いは悪くない。若干酸味のありそうな匂いを放つそれを、私は口に流し込む。


「…?……!?……っ、……!!…ぷはっ」


 匂い的には酸味の強い果物を想像していたけれど、口に含んだ瞬間には甘みがあって、ドロドロしたそれも複数の果物を細かくして混ぜたような舌触りで、それほど不快ではなかった。

 しかしその後に、何故か甘さが消えて苦味が口の中に溢れ、それに驚いたのも束の間、今度は舌に刺激を感じ、それが辛さだと分かるまで若干のタイムラグがあった。

 そして最後には、口の中でパチパチと何かが弾けるような感覚が生まれ、それは飲み込むと胃の中でもパチパチと弱く弾けているようだった。


「ど、どうじゃ……?」


「……んー、飲めなくはない…けど最初は驚くかも。後味は悪くないというか、少しスッキリする感じ」


「ほぅほぅ…」


 私の感想を聞きながら、サイモンは何かを書いている。


「他には何かあるかの?体が熱くなったり、気持ち悪くなってきたりはせんか?」


「……特に異常は無いみた……」


 私が質問に答えているといきなり、体の中からドクンと魔力が生み出されるような感覚があった。

 そして体が急激に熱くなり、体内で魔力が暴れ始める。


「だ、大丈夫か?!」


「…こ、これは…」


 この感覚には覚えがある。怒りに我を忘れて魔力が暴走し、大量の魔力を一気に使っている時と似ている。

 このままでは辺りを吹き飛ばしてしまいそうで、私は慌てて近くの机の上にあった、質の良さそうな魔石を握ると、溢れ出しそうな魔力を片っ端から注いでいく。


 やがて幾つかの魔石が私の魔力で満たされると、薬の効果はある程度収まってきて、近くの椅子に腰掛けた私はようやく一息ついた。

 すると同時に、これまで鈍く痛んでいたはずの腹部から、痛みがだいぶ消えている事に気付いた。


「……あれ、だいぶ治ってるかも?」


 私が体のあちこちを触りながら確認していると、その近くではサイモンが先ほどよりも、更に一心不乱な様子で何かを書いていた。



「…この薬は案外、本当に凄いのかもしれないね」


 しばらくして落ち着いてから、私はサイモンによる治癒術を受けている。

 薬によってかなり改善したものの、細かな部分はやはり実際に確認しながら治す方が良いと、サイモンが提案してくれたから私もそれに同意した。


「ふぉっふぉっふぉっ、そうじゃろう?そうじゃろうて。ワシが長年研究してきたなかでも、これはかなりの時間を費やしたからのぅ!」


「…うん。でもこれを使うなら、人と場合を選ばないと大変かも。

 薬の効果が強すぎて魔力量が少ない人だと、本人の体がついて来られないかもしれないし、魔力量の多い人でもかなり消耗してからじゃないと、さっきの私みたいに暴走しかけて大変。

 使う条件としては、酷く消耗していて短時間で回復したいときや、大量に魔力を使うアテがある時…かな」


 背中に手を当てて回復魔法をかけているサイモンに、私は空いた小瓶を眺めながら言う。


「ふむふむ。その辺りは改良の余地があるかもしれんが、実際に程良い効果に出来るかはわからんのぅ。

 なんせこれ以上ないと思える比率で作っておるから、それを変えると別物になってしまうかもしれん」


「…当面は薬の効果を周知して、条件を満たした時にだけ使うようにさせたらいい。誰でも使えるようにするのは、賢者のこれからの仕事」


「そうじゃのぅ、ワシも努力するとしよう。

 なんせ長年の研究が実を結んだうえ、更にそれをより良くできるかもしれんのじゃからのぅ」


 隣の机の上にある紙に何かを書きながら、もう片方の手で回復魔法を扱うサイモンは、やはり賢者と呼ばれるだけの力があるらしい。

 普通の治癒術士が両手で行うような作業を、この老人はメモを取りながら片手間で行っているのだから、流石と言うべきだろう。


「…じゃあ私は治療もしてもらったことだしそろそろ行くね。これで戦場に戻れる、本当にありがとう」


「待て待て、出来ればもう1日安静にして、明日の朝もう一度ここに来るのじゃ。それで完全に治っているようなら、好きにするが良い」


「…んー、でもそれは…」


「騎士の役目はわかっているつもりじゃ。敵がここまで来るなら、もちろん無茶をしても止めはせん。しかし不完全なお主が戦場に出たとして、それは味方にとって良いことなのかのぅ?

 それにもう日暮れが近い。これから馬を出し急いで戦場に戻らずとも、明日まで待って完全に治ってから動いても、それほど状況は変わるまい。

 それともセントリングの騎士は、そんなにヤワなのかの?」


 騎士団本部では団長たちから、スウサの援軍にはエレオノールが向かったと聞いている。彼女ならたとえ敵が魔王軍四天王が相手だろうと、負ける姿が想像できない。

 それに今も味方が戦っているのに、自分がこうして休んでいるのは落ち着かないけれど、サイモンが言うように半端な状態で復帰して周りに迷惑をかけるのは、休んでいるより更に悪いと思う。


「……わかった。言う通りにする…」


「ふぉっふぉっ、素直なのは良い事じゃ。明日まで大人しくしていれば、この薬を幾つか作って渡してやるからの」


「…おお…それは助かる。さすが賢者、感謝する…」


「ふぉっふぉっふぉっ!もっと褒めるとよい!」


「……おお、さすが大賢者は立派」


「ひょーっひょっひょっ!」


 嬉しそうなサイモンを見て、私はしばらく彼を褒め続けた。

 やがて高笑いしていたサイモンが、反り返り過ぎて腰を痛めて悲鳴を上げると、彼の従者が慌ててやって来て回復魔法をかけ、私は興奮していたサイモンが落ち着いたのを確認すると、改めてお礼を言ってから騎士団本部に戻ることにした。

今回のケルガーと同様に、ちょいちょいラジクなども色んな場面で手合わせを願い出ていますが、自分と同じかそれ以上に強い相手と、命の危険が無い状態で手合わせできるのは、魔力量や属性を増やすために戦闘経験が必須なこの世界では、自分の成長のためにかなり有益だったりします。


なので国内最高峰の実力を持っていて人数も少なく、(一部を除いて)かなり忙しい護聖八騎と手合わせ出来るのは、騎士にとってはかなりのご褒美です。

特にアドルピスカは他の二人も誘うつもりなので、これはもう破格の条件と言えます。無事に安全圏まで連れて行ってくれた、命の恩人に対するお礼としても充分ですね。


しかし、レストミリアの場合はそういったやり取りがほとんど無いです。

これは治癒術士の場合はそれが仕事ですし、本人の治癒術士としての訓練や成長にも繋がるので、互いにわざわざお礼を用意したりすることは少ないです。強い相手との戦闘と同様に、重傷であればあるほど、それを治療した治癒術士も経験を得られるわけです。

この辺りはレストミリアが登場したばかりの頃に、マリアの昔話を引き合いに出して言っていたかも知れません。(記憶違いで無ければ…)


最初はゴーレムを破壊されて血圧急上昇のサイモンでしたが、おじいちゃん子のアドルピスカは、サイモンとは何だかとても気が合うようです。

サイモンの方も気を遣ってくれる従者や部下はいても、掛け値なしに素直に褒めてくれるアドルピスカのことは、結構気に入ったみたいです。


最近の中では特に楽しく感じるやり取りを書いていると、つい夢中になってしまい予定より長くなりました(笑)


なので次回もアドルピスカ視点でジグたちと会い、別れてからのお話になるかと思います。


というかこの閑話の位置はミスってしまったような気がします。本来はもう少し手前、ルナメキラが練兵場に登場する前に挟むべきでしたかね…。

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