★第140話 閑話 人槍一体の氷矢 (アドルピスカ視点)
今回はアドルピスカが、サイモンの治療を受けた話の続きです。
それとこの作品ではないのですが、なろうラジオと言う番組の企画で、1,000文字以内の短編小説を募集していたのですが、前回の活動報告でも書いたように、自分も初めて挑戦してみました。
もし良かったらそちらもご覧になってくださいませ。タイトルは「伝説の博物館」です。
2024年3月6日追記↓
2024年3月より、作品にいただいたファンアートの中でも、ご本人様からご許可をいただけたものを作品冒頭や本編に順次載せております。
今回はぬこじゃむ様(TwitterID=@nukojam)より、アドルピスカとウルファルクのイラストです。本当にありがとうございます!
翌朝、私は目覚めて支度を整えると、前日と同様に内城壁の中へ行き、魔導師たちの散らかした研究の残骸を乗り越えて、サイモンのいる最奥の部屋へ到着した。
「…サイモン、いる?」
「おぉ、お主じゃったか、おはようさん。体調はどうじゃ?」
「…うん、もう平気。何も問題ない…」
「そうかそうか、それは良かったのぅ。…ふむ、たしかに異常は無さそうじゃ。これなら戦場に出ても問題あるまい。
ほれ、昨日の薬もいくつか出来ておるぞ。全部持っていくがよい」
サイモンは私の方に手をかざし、何やら様子を観察しながらそう言って、近くにあった箱を指差す。その中には小瓶がいくつか入っていて、私はお礼を言うとそれを受け取った。
「…賢者サイモン、本当にありがとう。出来ればスウサで戦っている人たちにも使ってほしいけど、それはまた今度だね」
「そうじゃのぅ。まぁ今回は、お主がこうして使ってくれるのじゃから、その話が広まれば他の皆も自ずと支給された物を使うようになるじゃろうて」
「…ん。凄く効果が高い薬だって、私からも皆に勧めておく…」
「ふぉっふぉっ、それは助かるのぅ。では、気をつけてのぅ」
「…うん、今度は負けない。サイモンも研究頑張って…」
私は小瓶をしまうと、サイモンに見送られながら部屋を出る。
それから騎士団本部に移動して、団長にサイモンの治療や薬で全快したと報告すると、回復までの早さに半信半疑な様子ではあったものの、私が手の平に魔力を溜めて見せると、納得した様子で私に任せる任務を見繕い始めた。
「治ったとは言え病み上がりだ。出来ればいきなり前線に出るよりも、他の者と一緒に行動する方が良いか…。
そう言えばケルガーも昨日到着して以降は休んでいたし、それなら一度二人でリッツソリス周辺の警戒でもしてもらおうか」
「それは別にいいけど、スウサの方に行かなくて良いの?」
「ふむ、その事なんだが今朝早くに、エレオノールからの早馬が到着してな。アルテミアが重傷を負いながらも耐えていたが、砦はすでに落ちてしまったらしい」
「…え?あのアルテミアがやられるなんて、ちょっと信じがたい…」
「俺としても想定外だったが、なんでもルナメキラの奇襲を受けたようでな…。その頃お前たちは砦を離れていたことだし、さすがのアルテミアも一人ではどうしようもなかったのだろう。
しかしその後は、お前と共にサスリブ山にいたラジク達が戻ってきて、アルテミアを回収したのちエレオノールと合流したそうだ。
砦を失ったのは痛いが、それでも敵に利用されて困るほど砦は原形を留めていないらしいから、敵の手に渡ってもそれほどの痛手ではないようだ」
「…でも砦が落ちるほどの攻撃を受けたなら、守備隊の被害も…」
「まぁそこは戦だし仕方がないことだ。しかしそれもゼストルフ将軍とアルテミアが命懸けで逃がしたことで、砦が陥落したとは思えないほど被害は抑えられているようだが、さすがに皆無とはいかんだろう」
「…それで結局、今の戦況は…?」
「エレオノールが到着した時点で砦は陥落寸前だったから、本陣は現在スウサの集落に置いているらしい。
それと双方が野戦で戦うことになったのと、到着したクロエら治癒術士が全力で治療にあたったため、戦力的にはラジクやモルド達も含めた結果完全に逆転し、こちらが優勢だろうとのエレオノールの予想だ。しかし…」
「…団長、まだ何か問題があるの…?」
「サスリブ山にいたルナメキラが偽者だったのは、すでにお前も知っているだろう。
しかし更に悪いことに、本物が砦を奇襲して以降、再び奴の姿が見当たらないらしい。
その点を踏まえて、先ほども言ったようにお前とケルガーには一度、リッツソリス周辺の確認をしてもらいたいのだ」
「…うん。そういうことならわかった。ケルガーを見つけたらすぐに動く」
「うむ。主要な戦力は出払っているから頼んだぞ」
私は団長との話を終えると、ケルガーと合流して早速街の外に出た。
「街の周辺と言っても街の北側は、ソリス川が堀の役目をしていますし、西や東側も何かあれば監視塔から連絡があるでしょう。
なら今一番警戒しなくてはならないのは、砦が機能していない南側かと思うのですが…」
「…うん。じゃあケルガーの考えでいこう。私は考えるの苦手だし…」
「は、はいっ、ありがとうございます!」
「…というか、なんでそんなに畏まってるの?」
「え?いや、それは上級騎士と護聖八騎では立場が違いますし…」
「…でもケルガーの方が年上だし…騎士としても先輩なんだから、気にしなくて良いと思う…」
自分で言っておいてなんだけど、その考えに従うとなると、私こそ口調や態度には気をつけるべきなのかもしれない。
まぁ、でも面倒だし深く考えないようにしよう。
どうしても必要な時には仕方ないから頑張るけど、騎士同士でそんなに気を使っても疲れちゃうし…。
「いえ、そこはさすがに示しというものがありますから。我々が自ら規範となって、新人や見習いに騎士の在り方を見せなくてはなりません」
「…そう。ならいいか…」
私は考えるのを放棄してケルガーの言う通りにする。別に面倒になったわけじゃない…はず、多分?
互いの意見が違うのなら、あまりしつこくしてもダメだと思っただけ。人付き合いの基本は会話だけど、仲良くすることもこれ大事。…そうだよね?
私が一人で言い訳っぽいことを考えていると、ケルガーはまず守りの手薄な街の南西側……広大な畑が広がる一帯を見に行こうと提案してきた。
街の北と東は川幅の広いソリス川、東・西・南には監視塔や砦があるし、南東側には常に結界が張られている教会があるから、他よりも守りが堅い。
それに比べると西の監視塔からスウサの集落にかけての南西部一帯は、畑を潤すのと同時に有事の際には堀の機能を果たす水路が有るとは言え、その幅はソリス川とは比べ物にならないほど狭く水深も浅いので、だだっ広い畑以外には他に何も無いうえ、更に畑の西にも草原があるばかりで格段に守りが手薄なのだ。
「…トスウェの草原にも、監視塔を置けば良いのにね…」
「アドルピスカ殿の言いたいこともわかりますが、あちらの草原には本当に弱いモンスターしかいませんし、平地で見晴らしが良いので敵が大勢で接近しても、かなり遠くから発見できてしまいますからね。
予算や人員の配置を考えても、他に回す方が良いと判断されているのでしょう」
「…んー、そういうものなら仕方ないか…」
そんなやり取りをしながら私たちは見回りを続けていると、畑や南の街道を過ぎて街の南東に位置する教会へと到着した。
「…あれ?誰もいない…」
「そういえばモルド殿がスウサに出向く際、こちらの守備兵も後から援軍や守備部隊に参加するため、教会の者達は一旦街の中に避難させたと言ってましたね」
「…そう。いつもはラジクや他の人が守ってるし、大抵はモルドもここにいるもんね…」
私は無人になった教会を通り過ぎ、南の森や丘の下の川沿いを確認して、街の東や北をぐるりと回って団長のもとに報告しに向かった。
すると騎士団本部の団長の部屋に差し掛かった辺りで、突如大きな音が響いてきた。
「…これは爆発音?」
「何か起こったのかもしれませんが、まずは団長に報告しましょう!」
ひとまずケルガーの提案通り、私はドアを開けて部屋に入ると団長に見回りの報告をする。
「ご苦労。しかし先ほどの音が気がかりだ。すぐに伝令が来るとは思うが…」
「失礼します!街の南東、教会の付近から敵襲です!敵の勢いは凄まじく、このままでは門が突破されるのも時間の問題かと…!」
「何!?アドルピスカ、見回りの時には何も分からなかったのか!?」
「…さっきも言ったけど、索敵魔法を限界まで広げても結果は敵影無し、魔力反応無し、異常なし」
「アドルピスカ殿の言う通りです。自分も同様に確認しましたが、これといった異常は感知出来ませんでした」
「なら何故敵がこうもすぐに現れたのだ!……いや、すまん。お前達を責めても仕方がないことだな。
このタイミングで敵が攻めてきたのなら、十中八九ルナメキラが相手だろう。魔王軍四天王の中でも策略にかけては随一と言われている奴なら、たとえ護聖八騎や上級騎士、それに俺とて騙されないとも限らん…」
「おうおう、ディアブラス。敵がこの街にまで来たなら、ここはひとまずワシが相手をしてこよう。
その間にお前たちは今後の策を練り、住民達が避難してきても受け入れられるようにしておくのじゃ」
「了解だ。アイゼンフォートにはケルガーも付ける。二人で協力して敵を阻め。
それとアドルピスカ、お前は冒険者ギルドに赴きすぐに街の防衛依頼を出せ。報酬云々でごねるなら多少脅しても構わん…まぁ『凍華槍』に文句を言う奴もいないだろうが」
「…うん、了解。行ってくる」
私は騎士団本部から飛び出すと、身体強化を全開にして冒険者ギルドに急いだ。
街の外では巨大な狼のモンスターが暴れていて、城壁や門の守備部隊が応戦して敵を食い止めていた。
「…もうアレを見て分かってるとは思うけど、騎士団長から首都防衛の協力要請が出されてる。今街にいる冒険者全員を集めて、すぐに準備して欲しい…」
私はかなり頑張って丁寧にお願いしてみた。
私が移動しているあいだに、敵はその勢いのまま南門を突破してしまい街の内部に入り込んでいた。今はアイゼンフォートやケルガーの部隊が、必死に応戦して敵を食い止めている。
話を聞いていた強面のギルド長は、私が到着する前からすでに慌ただしく指示を出していて、ギルド本部には次々と冒険者が集まっていた。
「あ"ぁ"っ!?そんなもん見りゃわかるし、準備の出来てる奴から戦場に出てるぞ!俺たちだってギルドを潰されちゃかなわねぇからな!」
「…話が早くて助かる。敵との戦闘にはアイゼンフォートが出てるから、現場では彼の指示に従って欲しい…」
「ほぅ、あの『黒鉄要塞』か!こりゃあ頼もしいな。おいテメェら!前線にはあの黒鉄要塞様が出陣してるとよ!
あの爺さんは話が分かる、しっかり働いて稼いでこいよ!」
「おぉーっ!!」
ギルド長の言葉に周りの冒険者たちが拳を上げて応じる。護聖八騎として長年その名を轟かせてるアイゼンフォートは、その戦闘力だけでなく本人の性格も広く知られている。
特に冒険者には自分たちの側に立って、しっかりと報酬を考えてくれる騎士として、有名なのだそうだ。
「それでアンタは誰なんだ?」
「…私はアドルピスカ。団長に頼まれてここに来たけど、対応が早くて助かった。ありがとう…」
「おいおい、話には聞いていたけどあの『凍華槍』かよ。本当にこんな嬢ちゃんが、護聖八騎になってたのか…」
「…どういうこと?」
「いや、俺は昔ロンメル将軍の部隊にいたことがあってな。将軍ときたら前線で野営してても孫娘のことを考えてたし、周りの奴らは将軍から事あるごとに、孫娘が如何に可愛いかっていう話を聞かされてたんだ。
あいにく俺は戦闘で負傷して前線を離れ、その間に将軍は残念ながら討ち死にしてしまったが…俺は世間で言われているような話には納得してねぇ。あの人は良い上官だったし、部下も皆将軍を慕っていた。
生き残りが少ないのは激しい戦闘だったのもあるだろうが、部隊の皆が最期まで将軍に付き従ったからだと俺は今でも思ってる。だから…」
「…ありがとう。私が知らない祖父の話が聞けて良かった。
それに私は周りの人がどう言おうと祖父のことを信じてるし、亡くなってからずっと不名誉なことを言われていても、いつか私の名と力で名誉を取り戻すため騎士に…護聖八騎になった」
「あぁ。すでにアドルピスカの名はセントリングだけでなく、周辺の国にも鳴り響いてる。
心ない奴らはまだ戯れ言を言うこともあるが、このままアンタが頑張ればそう遠くない将来、必ず将軍の名は名誉を取り戻すはずだ。
その時まで嬢ちゃんはしっかり生き残れよ!」
「…うん!」
祖父のことを実際に知っている人がいて、しかもその人から私も知らなかった話を聞くことが出来て、私はなんだかとても力が湧いてきた。
サイモンの薬を飲んだわけでもないのに魔力が湧き上がる…。この喜びと共に溢れる温かな魔力を今すぐどうにかしないと、歌って踊り出してしまいそうだ。
ふと窓の外を見るとそこには巨大な狼がいる。
おじい様のことを考えて溢れた魔力なら、おじい様のために使うのが良い。ちょうど目の前にはこれをぶつけるに足る敵がいる。
「…見ていて。私はまた一つ、おじい様の名誉を取り戻してくるから…」
「ど、どうした嬢ちゃん!?体から魔力が漏れてるぞ!」
「…行ってくる…!」
私はギルド本部から出て走り出すと、槍に魔力を溜めながら高速突進を始める。
街の南部はすでに瓦礫と化した建物が数多くあり、私は槍の先端に集めた魔力を鏃のようにして自分の前方に広げ、人槍一体の氷の矢となって突き進み、その瓦礫を吹き飛ばしていく。
アイゼンフォートたちは敵をよく抑え込んでいたけれど、それでも巨狼から次々と生み出される眷族の数に苦戦していた。
私は鏃の先端から冷気を伸ばして道筋をつけると、それを見たアイゼンフォートが私の意図を察して叫ぶ。
「敵に一撃を与えたのち一斉に離脱するのじゃ!死にたくなければ、あの氷の道には触れるでないぞ!ワシがそれぞれ合図したら攻撃と離脱じゃ!
三、二、一、撃てぇい!……よし今じゃ!離れろ!
…ふうぅ、『エル・アイアン・ウォール!!』」
周りにいた騎士や冒険者が一斉に魔法を放ち、巨狼の動きを僅かな時間止める。
そして皆が一斉に飛び退くと、アイゼンフォートは地面から鉄の壁を生み出して次々と移動させ、それまで暴れ回っていた巨狼の眷族を1匹残らず私の通り道に並べた。
「…アイゼンフォートは本当にちゃっかりしてる。でもこれで皆が楽になるなら…。
はぁぁっ!『氷矢戦槍!』」
私は両脇を鉄の壁で挟まれた青白く光る冷気の道を、狼たちを貫き穿ちながら駆け抜けていく。
冒険者や騎士たちはそれを見ながら歓声を上げ、
氷の矢となった私は眷族の赤い血をたなびかせて巨狼に突進すると、その体を胸部から右腹部にかけて貫き、全身を狼の血で染め突進の勢いのまま、その奥の建物に激突した。
「…うぅ、これは威力が高すぎて、ちょっと使いどころが難しいかも…」
私は自分の勢いを殺しきれず、建物を三軒ほど貫いてからようやく止まることが出来た。
崩れた壁や家具などを、地面から氷を伸ばして持ち上げ脱出すると、一瞬で眷族を失い自分にも深手を負わせた私に向かって、巨狼が怒りに満ちた表情を浮かべて牙を剥いていた。
「…まだやる気なら相手になる…」
正直言うと魔力は空っぽだったし、治ったばかりなのにあちこち痛かったけれど、敵が目の前にいるなら弱音を言ってはいられない。
すると巨狼が飛びかかってくる前に、私の目の前には分厚い金属の壁が現れた。
「アドルピスカ嬢、もうよい!ここはワシらに任せて、お主はディアブラスの元に戻って次の指示を待つのじゃ。
手助けには感謝するが、冒険者の準備も整ったようじゃし、ここは一旦退いて次に備えるのじゃ!」
「…ん。わかった」
私はアイゼンフォートが敵を引きつけているうちに、撤退を開始する。
一度後ろを振り返ると、巨狼はすでに私から受けた傷が塞がりつつあって、更に消し飛ばされた眷族を補充するかのように、次々と生み出していた。
「…あれだけのダメージを与えたのに、それを回復したうえでまだあれほど戦えるなんて…」
敵が強さだけではなく、尋常ならざる耐久力や魔力を持っていることに驚きながら、私は騎士団本部へと戻っていった。
申し訳ございません!またもや予定より長くなってしまい、ジグ達と会えませんでした…。
本当にダメなんです、アドルピスカさんがお気に入り過ぎて、書いているとついつい長くなってしまうんです…orz
ちなみに人槍一体は勝手に作った言葉です。人馬一体みたいな感じで捉えていただけたら、意味的には大丈夫だと思います。
そしてまた一つ武勲を刻んだアドルピスカに、冒険者や騎士からは称賛の声が上がり、ギルド長もご満悦です。
次回は話をなるべく簡潔にして、次々回にはジグ視点に戻れるよう頑張りたいと思います(汗)




