★第9話 襲撃 その3 迎撃準備と騎士団
ジグ達はようやく教会へ向かいます。
相変わらず頻繁に、そして一文字から多いときには数行に渡って、更には設定が変わったりもするレベルで、修正を入れております。
読んでも読んでも矛盾や誤字脱字があったり、こっちの方が良いなというアイディアが出てくるたびに、書き換えてます…。
なんならこの文章も、何度目かの修正後に書き込んでおります。本当に申し訳ございません…。
2024年3月6日追記↓
2024年3月より、作品にいただいたファンアートの中でも、ご本人様からご許可をいただけたものを作品冒頭や本編に順次載せております。
今回は ぱにき様より、新登場の人物(ネタバレにつき名前は伏せております)のイラストを載せさせていただきました。本当にありがとうございます!
僕達は数人の兵士と共に丘を登り教会へ向かって走る。
その間にも南からはスウサの戦いで負傷した住民や兵士達が街道を逃げてくる。彼らの敗走中にトイスの集落の兵士達が時間稼ぎを買って出たそうだが、結果は残念ながら狼煙が示している。
「ジグ! ボヤボヤしてないで早く行かなきゃ。教会に着いてからも、皆を集めて備えることがたくさん有るんだから!」
トイスの住民や兵士も、逃げていればこれから姿が見えるだろうか……などと考えているとアマリアが言う。
僕はそれに頷き、また教会へと走る。
教会に着くと悲壮な表情をしたヒルダがこちらに向かってきた。
「私としたことが、もう少し早く狼煙に気づいていれば街への避難も出来たのに……。
カディルと共に執務をしていて発見が遅れてしまって、本当に申し訳ないわ。トイスの狼煙で気づいて、カディルには子供たちを集めて孤児院にいるよう言ってあります。
他の皆は結界の強化のため、教会と孤児院の間の中庭にすでに集まっていますよ。
ところでこちらの方々は……?」
魔王軍との戦いを経験しているヒルダや、今は各地に散って不在の年嵩のシスター達なら、上げられた狼煙の意味もわかっているようだが、若い世代のシスターや子供たちには意味もわからず、特に気にも留めなかったようだ。
二度目の狼煙で不思議に思った子供たちが質問したことで、狼煙に気づいたヒルダはただちに皆を集めて指示を出してくれていた。
「街から教会に派遣された兵士の方々です。教会は彼等と協力して敵を防ぎます。
子供達にはカディル神父に代わって魔力の特に低いシスターや見習いを付け、食事や怪我人の受け入れ準備の手伝いをさせてください。
後から応援が来るはずですから、私達もそれまでに迎撃準備を整えなくては……」
ヒルダの質問に答え、加えてアマリアはそう告げる。
僕はヒルダにそっと耳打ちをして、これまでにあったことを大まかに説明し、ヒルダが僕達を使いに出した事にしたのを教えると、目を見開いて「まぁ…」と小さく囁いたが納得はしてくれたようだ。
「わかりました。ここは北に城壁、東には川、南に森があって、敵が攻めてきても大勢では真っ直ぐに来られないはずです。
ひとまず応援が来るまでは東と南に見張りを立て、他の方々は街道側に集中して敵に備えましょう」
状況を把握したヒルダは周りを見回しながらそう言うと、早速準備に取りかかる。
カディルを呼び周囲を兵士たちが警戒するなか、僕は中庭で皆と祈りを捧げ結界を強化をしたら、軽く食事や休憩をとった。
これからどの程度の戦いになるかも不明なので、魔力も体力も出来るうちに回復させないと保たない。
そうしているうちに応援の部隊が到着した。豪華な鎧やマントを着け、馬から降りると兜を抱えた二十人ほどの集団がこちらに近付いてくる。
「おぉ、まさか騎士様が来てくれるなんて」
兵士たちは口々にそう言っているのを聞くに、驚いたことに一般の兵士ではなく、どうやら騎士団がやって来たようだ。カルスト兵士長に感謝せねば。
「私は今回こちらの指揮を執る、上級騎士のヴォルグラントだ。此度の教会からの提案、誠に感謝する。
実を言うと会議中には一部の者から、ここを接収してでも手伝わせようという意見も出ていたところに、カルスト殿からの提案があって非常に助かった。
共に戦うのなら無理矢理に従わせるよりは、互いに協力出来る方が断然良い」
出迎えた教会の人達に向かって、先頭を歩いてきた金髪に緑の瞳をした好青年が、にこやかに笑いながら言う。
歳は二十代前半くらいに見えるが、イケメン過ぎてアテにならないかもしれない。まるで物語やゲームに出てくるような、これぞまさに騎士って感じだ。
ここまで格好よくて言動的にも良い人感がすると、嫉妬する気にすらならないね、うん。
「ありがたきお言葉とご配慮、勿体のうございます。こちらからの提案を快く受けて下さった騎士団に、教会を代表し感謝を申し上げます」
ヒルダがそう言って礼をし、続いて後ろにいた神父とシスター達もお礼を述べる。
ヴォルグラントはそれに対して頷き、シスター達の中にいたアマリアの方を、チラッと見て微笑んだ。
大抵の女性はズキューン!と効果音が鳴って、一撃で落とされそうなイケメンスマイルだった。その証拠に周囲のシスターは、何人かが頬を赤らめソワソワしている。
……が、アマリアは特に気にした様子もなく、キョトンとしていた。
何なのだろう。カルスト兵士長といい、このイケメンといい、うちのアマリア姉さんを気に入ったのだろうか。
しかしいくら兵士長だろうが上級騎士だろうが、ダメなものはダメだ。アマリアにはモルド神父がいるのだ。などと考えながら心の中でモルド神父を応援していると、イケメン……もといヴォルグラントがにこやかに口を開く。
「よし、ではモタモタしていられないな。地図は頭に入っているだろうから全員配置につけ。
南門の兵士たちは結界内に留まり、内部に侵入したモンスターがいれば複数人で足止めし、必ず騎士の合流を待て。負傷した者は無理をせず、下がって治療を受けるように」
ヴォルグラントが指示を出したり、ヒルダに教会の医薬品や食料の備蓄、シスター達の魔力残量などを確認し始めたところで、街道の方からドオォォーン!と爆発音がした。
それを聞いたヴォルグラントは、直前までとは別人のように真剣な表情に変わり兜を被る。
「教会の者は祈りの場へ! 騎士団は守備担当を残して、全員出撃だ!
ではラジク殿、ここの守りは任せたぞ!」
「はっ、ヴォルグラント殿も気をつけられよ」
ヴォルグラントは剣を抜き、皆に指示を出して馬に乗ると街道の方へと駆けていく。
ラジクと呼ばれた騎士は中級騎士で、三十代半ばくらいで青い髪に顎髭を生やした騎士だった。
僕はヴォルグラントの隊がいなくなると彼や兵士、皆と一緒に中庭へ向かう。敵はどんどんと近付いて来ているようで、爆発音は徐々に大きくなっていた。
「先ほどの祈りで魔力が減っているでしょう? ここは成人した者たちに任せて、あなた方は孤児院の中で待機しなさい」
「シスター・ヒルダ、私たちだって日々祈りを捧げて訓練しています。
それに魔力の扱いにもだいぶ慣れてきていますし、こんな時のためにこそ我々がいるのですから、どうか一緒に祈らせてください!」
中庭に到着するとヒルダは僕を含めた見習い全員に向かって休むよう言ったが、僕よりも年上の見習いたちがヒルダに抗議した。
「そうですよシスター・ヒルダ。今は少しでも魔力を使って結界を強くしなくては。私たちだって見習いになったばかりだけれど、まだ少しくらいの魔力は使えます」
僕と同じ世代で、今年見習いになった者も口々に言う。
「しかし、あなた達まで危険な目には……」
「ねぇ、シスター・ヒルダ。もし騎士団がこのまま無事に撃退に成功して、誰にも何事もなく終われば良いけどさ。
でももしそうならずに敵がこっちにも押し寄せて、結界も破られて、その時に騎士団が苦戦していて助けにも来られなかったら、ここにいる皆はどうなるの?」
ヒルダが言いかけたところで僕が尋ねると、彼女は無言でこちらを見ていた。魔王軍と戦争当時のことを思い出しているのだろうか、苦悶に満ちた表情だ。
「でも、だからと言って……」
「街で兵士長に聞かれた時にも同じような事を言ったのだけれど、僕の家はここにあって家族はここの皆で、ここが大切な居場所なんだ。
逃げるのなら皆で逃げたいし、戦うのなら皆で力を合わせて戦いたい。
それに敵が迫っている今、まだ赤ん坊や幼い子は守られるのが仕事で、少し大きくなった子たちは魔力が不要な孤児院の中での仕事が有る。
成人した神父やシスターには結界の維持が有るけれど、各地を巡ってて全員いるわけじゃない。
なら、その穴埋めをするのは当然、見習いである僕たちの仕事だよ」
ヒルダがようやく絞り出した言葉を遮るように言うと、僕の言葉を聞いているヒルダは、それでもまだ首を横に振る。
僕なんかよりも壮絶な経験をしてきたであろうヒルダには、まだ迷いがあるのだろう。でも僕だって引くわけにはいかない。
「縁起でもないから直接言葉にしたくはなかったけれど、シスター・ヒルダ。僕たちは今出来ることがあるのにそれをしなかったことを、皆が傷ついたり死んでしまった後で絶対に後悔したくない。
そうならないために今するべきことは大人に守られることではなくて、一緒になってここを守ることだと思う」
それを聞いてハッとしたような表情をしたヒルダは、両手で顔を覆い嗚咽を漏らす。
「そう……そうね。大切なものを守りたいのは皆も同じよね。
自分の代わりに誰かが傷付いたり、一人残される辛さを味わって、あの時こうしていればと後悔しながら生きていくのは、この年寄りだけで十分だわ……」
涙を拭い、顔を上げたヒルダの表情には決意が宿っていた。
「では皆で無事に、ここを守りきりましょう」
ヒルダが一人一人の顔を見て見習いたちに言う。
「はい!」と、皆は力強く答えた。
イケメン登場。この人もアマリアを知っている様子。
騎士の位は魔力量や戦闘能力、指揮能力、功績になどよって上中下に分かれておりますが、下級騎士になるのも並外れた才能や努力が必要であり、選りすぐりのエリートです。
セントリング国内には100人ほどがいて、何割かは首都以外に散って巡回や特殊な任務を遂行していたりもします。
そう考えると、20人も来たのは破格の待遇。
街は数にものを言わせて、教会は少数精鋭で守る構えです。
見習い達は必死の説得。
ヒルダとしても過去の経験から、皆を守るためには頑固でしたが、自分の後悔を子供達にまで負わせたくはないのです。
もちろん危険ではありますが。
追記。
迷っていて今まで決まっていなかった国と街の名前が決まりました。国はセントリング、街はリッツソリスです。
セントリングは完全に思いつきの感覚で、
リッツソリスは街の周囲の「資源」が「豊富」であることから、それぞれの英語を調べて組み合わせ、それっぽい名前にしました。
(後の修正でこのお話の前には名前が出ています。あくまでも当時の事としてご覧ください…)




