第10話 襲撃 その4 防衛開始と増援
皆で戦うと決めましたが、引くべきラインはヒルダがしっかりと引きます。
前話の後書きにも書きましたが、保留していた国と街の名前が決まりました。
国がセントリング、街はリッツソリスです。
手伝うことを許された見習いたちは、意気揚々と仕事を始めようとする。
「皆の気持ちはありがたいです。
ただし魔力や体力的な限界を感じたら、動けなくなる前に自分から孤児院の中に入ってくださいね。これ以上は譲れません」
僕を含めた見習いたちは意気込んでいたのは良かったが、ヒルダはビシッと人差し指を立ててそう言い、見習いたちにしっかりと釘を刺した。
こればかりは戦いの場で周りに迷惑をかけるわけにもいかないので、皆も了承する。
こうしている間にも戦闘の音やモンスターの吠える声が聞こえてくる。だいぶ近くまで来ているようだ。
騎士団が押されているのか、それとも誘い込んで挟み撃ちにするつもりで下がっているのかまでは、僕にはわからない。
そんなことを考えていたら、兵士の一人が上空を指差す。
「上だ! 飛行型のモンスターが近付いてくる!」
一斉に反応した兵士たちは、結界内で武器を手に待ち構える。
「狼狽えてはなりません! 恐れる暇があるのなら、そのぶん祈りなさい!」
年若いシスターの中からは「ひっ」と怯えたような、軽い悲鳴も聞こえたがヒルダが一喝する。
すると間もなく、紫色をして長い尻尾のついたコウモリのようなモンスターが、口を開き牙を立てながら一直線に突っ込んできた。
しかし結界にぶつかった途端キンッと音がすると、中に入れないどころか弾かれて4、5メートルほど吹っ飛んだ。
そこにすかさず騎士が攻撃を加えて倒す。
「見なさい。複数人で祈りを束ねて結界を作れば、普通のモンスターにはそうそう破れるものではありません。
他のことに気をとられて祈りが疎かになったり、魔力切れになる方がよほど危険なのです!」
討ち取られたモンスターを指差しながら、ヒルダが言う。
ラジクに届いた騎士の連絡を聞くに、どうやら敵の攻撃は南門に集中していて、こちらに来た騎士団はそこへ横槍を入れて、順調に敵の数を減らしているらしい。
それから何度か狼のようなものや、先ほどのコウモリのような小型のモンスターが襲ってきては弾かれ、討ち取られた。
これなら大丈夫かもしれないと思い始めた頃、主戦場の方から負傷した兵士や騎士が数人、こちらに向かってきた。
「敵の増援が……突然ロックウルフの群れとスタンバードの群れが現れたんだ」
どうやら新手が現れたらしい。孤児院の中へ案内する時に負傷した兵士から、そのような情報を聞いた。
ロックウルフは毛皮が岩のように硬い狼型のモンスターで、素早いうえに防御力も高く、統率のとれた群れで襲いかかる厄介なモンスターだそうだ。
スタンバードの方は全身から麻痺毒を分泌する鳥型のモンスターで、空から襲いかかっては敵を麻痺させ一撃離脱を繰り返す。
毒性はそれほど強くはなく数分で動けるようにはなるが、他のモンスターと一緒に出てくると極悪な組み合わせになるらしい。
南門の方を見ると、スタンバードを撃ち落とそうとしているのだろう。魔法や矢が空にいくつも放たれている。
するとその方向から茶色い狼と、紫と黄色の鮮やかな色をした鳥が十体くらいずつ、こちらに突っ込んでくる。先程言っていたモンスター達だろう。
先にスタンバードを何とかしなければとラジクが騎士たちに指示を出し、皆で魔法を放ち四体ほど倒したが全ては落とせない。そうしているうちにロックウルフに襲われ乱戦になった。
一人の騎士に対してロックウルフが二、三体で囲み、空からはスタンバードが隙を窺っている。
騎士たちは上空からの麻痺攻撃をかわし、複数のロックウルフの攻撃を受けながらも一匹ずつ確実に倒していく。
どうにかロックウルフが片付き、スタンバードも残り三体ほどになった時だった。
南の森からバキバキ!と木の倒れる音が聞こえ、巨大なモンスターが二体現れた。
「なっ!? ジェネラル・オーガが何故こんな所に!」
森から出て来たモンスターを見て、騎士たちが目を見開く。
ジェネラル・オーガと呼ばれたモンスターは、額には上に少し反り返った二本の角があり、それぞれの肌の色は赤と青で、5メートルはありそうな巨体に重装鎧を着込んで、棘のついた巨大なハンマーを持っていた。
見た目は大きな赤鬼と青鬼が、西洋鎧と武器を装備しているようだ。
すると青い方は南門の方へ向かい、赤いのはこちらに向かってズシンズシンと迫ってくる。
そしてこちらとはまだ少し距離のあるところで立ち止まると、口を大きく開いた。口の周りからだんだんと魔力の光が迸っている。
「咆哮波が来るぞ! 教会の者は結界の強化を!
……直撃を我々だけでは防ぎ切れん。受けたのち、上に逃がすぞ!」
ラジクが声を張り上げて騎士たちに指示を出しながら、オーガと僕らの間に割って入り背負っていた盾を構えた。
僕たちはその声に応えるように、皆で必死に祈りを捧げ結界を強化する。
「ヴガアアァァァァーーーッッッ!!」
耳をつんざくような声……いや轟音と共に空気が揺れた。
ガアンッ!と音を立て、騎士たちが構えた盾に攻撃が当たった。騎士たちは必死に耐えていたがオーガの攻撃は凄まじく、ジリジリと後ろに下がる。
「今だっ!」というラジクの声が聞こえた刹那、騎士たちは構えた盾を斜めにして攻撃の方向を上へと逸らしたが、自分たちはその余波で結界内に吹き飛ばされた。
少し上に逸れた攻撃は結界に当たりギイィィィン!と音がしたかと思った瞬間、結界を容易く貫き僕たちの頭上を掠め、北にある城壁の上部に達して爆発した。
その威力は凄まじく、遠くでガラガラと壁が崩れている。そしてこの攻撃は結界に満ちていた恩恵を、根こそぎ消し飛ばしてしまったらしい。
ドームのように教会と孤児院を覆っていた、膜のような結界は跡形もなく消えていた。
それを見て兵士や騎士たちは体勢を立て直しつつ、武器を構えオーガに向かって行くが、その直後に何かが上空から、騎士たちに向かって猛烈な勢いで降ってきた。
「上だっ!」
僕は咄嗟に叫ぶが遅かった。
スタンバードの爪が騎士たちを捉え、四人いた騎士のうち三人が麻痺して倒れた。
本格的に戦闘を開始。
サブタイトルの増援は、敵の増援というか後詰めでした。
スタンバードは凄くいやらしい、厄介な相手です。
イメージとしては某狩猟ゲームの羽虫や、巫女の生まれ変わりと半人半妖の話に出てくる毒虫です。
ジェネラル・オーガはこの付近にはいないはずのモンスターで、騎士団でもかなり苦戦するくらいの強さ。




