第112話 子鬼の山 その1 見習い小隊と仲間外れ
合同訓練からの流れではありますが場所が大幅に変わることもあり、この機会にサブタイトルを切り替えました。
翌日、僕たちはまだ暗いうちから起きて支度を始め、迎えに来たラジクと共に街の南門に向かった。門の前には騎士や治癒術士が集まっていて、アルテミアやレストミリアの姿があった。
今回の演習ではアマリアも行くので、引率と護衛も兼ねてレストミリアが治癒術士を率いるらしい。一応、治癒術士長だしね。
騎士の方はアルテミアが指揮を執るらしいが、その他にもう一人、初めて見る女性の騎士がいた。
「やぁ、アドルピスカ殿。やはり貴女も行くことにしたのだな」
「うん。たまには新人の面倒も見ないとね」
ラジクと言葉を交わすのは護聖八騎の一人らしい、淡い水色の髪に淡い桃色の目をし、槍を持ったポニーテールの女性だった。
淡々と話す感じは、これまで会った騎士の中には居なかったタイプだ。
そして何故かこちらを見ている。
「ん?あぁ、この子は俺の弟子のジグだ。他にも『爆拳』のモルド殿や、アルテミア殿、レストミリア殿からも色々と教わっている。
それとこちらはアマリア殿だ。レストミリア殿から治癒術等の教えを受けていて、アベル将軍と治癒術士のマリア殿の娘と言えば分かるだろう。
二人とも、こちらは護聖八騎の一人で『凍華槍』アドルピスカ殿だ」
「ジグです。アドルピスカ様、宜しくお願いいたします」
「アマリアと申します。宜しくお願いいたします」
「うん…アルテミアの報告書で知ってる。よろしく」
言葉少なく挨拶を交わすと、アドルピスカはアルテミアの所へと歩いていった。アマリアもレストミリアがやって来て、治癒術士たちの方へと向かった。
「なんだか物静かな人でしたね」
「あの雰囲気に騙されるなよ。戦闘になればかなり容赦ないし、下手にサボっているとあの槍で刺されるからな」
「師匠、それはサボらなければ良いだけなのでは…」
「ゴホン…それと規律を乱す者にも厳しいから、あまり勝手な行動をしないようにな」
「なるほど。サボるのも規律を乱すことに含まれるから、その結果として師匠は槍で刺されるわけですね」
「そういうことだな…って、俺のことはもう良い!まぁ何にせよ今回は、お前も年の近い者たちと行動を共にするわけだから、無茶はしないようにして何かあれば、必ず我々の指示を待つようにするんだぞ」
「わかりました。そう言えば、もう編成は決まってるんですか?」
「うむ。その辺りはもうすぐアルテミア殿から、皆に知らされるだろう」
そんな話をしていると全員が揃ったらしく、アルテミアが皆を集めて班分けをし始めて、僕は見習い治癒術士が一人、見習い騎士が二人の計四人の班になった。
アマリアはと言うと、練兵場で僕と戦ったゲオリグと見習い騎士、それと前に気が合うと言っていた、同い年と思われる治癒術士と一緒になっていて、何かの話題に花を咲かせていた。
こちらは僕以外の全員が見習いなのに対して、アマリアの所は騎士見習いが一人、他は治癒術士と下級騎士見習いが一人ずつという、何ともあからさまな偏りを感じる編成になっていた。
まぁアマリアの安全を考えれば問題は無いんだけどね。どうせミリアさんが常に目を光らせているだろうし。
それにしても何だろう。僕たちの方は自己紹介をした後は他の三人で固まっていて、何やらコソコソ話をしている。
アマリアからは興味を持たれていると聞いていたけど、何かの間違いだったのだろうか。これだと友達も出来なさそうだなぁ…。
それに僕だけ遠巻きに見られているのは、正直言って傷付くのでやめてほしい。
そんな風に僕が軽く傷付いていると、班分けも終えたということで、アルテミアが再び話し始めた。
「全員班分けは終わったわね。じゃあこれから向かう目的地と、何をするかの詳細を伝えるわね」
恐らく準備する前に教えてほしいと皆が思ったことだろう。
しかし任務では常に情報があるとは限らないので、今回はその辺りも考えながら自分に必要なものを、準備し揃える練習も兼ねているらしい。
「これから私たちが向かうのはスウサの大草原で、最終的な目的はその先にある山のゴブリン討伐よ。
まずは草原でモンスターと戦って、班ごとの連携の確認をするわ。それで何か問題があれば再編成するし、それが済んだら街道を更に南下して、森を挟んだ先にあるサスリブ山へ向かうわ。
サスリブ山に入る前に一度野営して、翌朝から山に入るから、皆そのつもりでいるようにね。では出発!」
そうして僕たちはアルテミアを先頭、アドルピスカやレストミリアを真ん中、ラジクを殿にして、周囲に護衛の他の騎士や治癒術士が散らばりながら街道を進み、スウサの大草原へと向かった。
他の班は顔見知り同士も多いらしく、今のところは割と遠足のような感じで、和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気だ。
しかし僕の班…というか僕だけは別世界の住人で、他の三人が固まりながら歩く少し前を、一人寂しく進んでいる。
なんだこれ……もしかしてこれがこの世界のイジメなのだろうか。いや、まぁ前世の世界でもこういうのは変わらないかも知れないけど、本当にヘコむから勘弁してほしい。
僕ががっつり傷付きながら歩いていると、隊列の真ん中辺りにいて不測の事態に備えているはずの、レストミリアが近付いてきた。
ちなみに僕の班は真ん中辺り、アマリアの班は更にその少し後方にいる。
「やぁジグ、一人ぼっちで寂しそうだから来てあげ……おっと、そんな冷たい目で私を見ないでおくれ、ゾクゾクしてしまうじゃないか」
「僕の視線が冷たいのは、ミリアさんが出来たばかりの心の傷を抉るからですよ。それに見習いや騎士のいるところで、アマリアに対するような変態性を出さないでください。一応、治癒術士長という地位の人なんでしょう?」
「手厳しいなぁ、これは中々ご機嫌斜めだね」
「何故かは分からないんですけど、仲間外れというか避けられてるみたいでしてね…。
でもミリアさんが悪いわけではないので、八つ当たりしてゴメンナサイ」
「ゴメンナサイが棒読みな気がするけど?」
「そりゃ思ってないからですよ、仲間外れなのはミリアさんのせいではないですけど、一人ぼっちとか言うのはミリアさんが悪いです」
「それにしては随分とお喋りなことだね。構ってもらえて嬉しいのが隠せてないよ?」
「ぐっ…」
この変態魔女はその神眼で何でもお見通しなのか、こちらの図星をビシバシ突いてくる。
最近は丸くなっていたと思っていたが、何だか初めて会った頃を思い出す……そう言えばこういう人だったね!
「この状況も今のうちだけさ。今日のうちには多少は改善するはずだし気長に待ってなよ。
なんなら逆に、今の方が良かったと思うかもしれないねぇ…。ま、頑張って」
僕が言葉に詰まっていると、レストミリアはニンマリしながらこちらを見てそう言い、満足したのか戻っていった。
意味が分からないけど、ミリアさんなりに励ましに来てくれたようだ。やはり慣れた相手と話すのは今の僕にとっては、結構ありがたかったので感謝したいと思う。
その後も一人でいたが、レストミリアのお陰で多少気が楽になったので、それほど苦にはならなかった。
やがてスウサの砦や集落に到着し一旦休憩を取ると、僕たちは草原へと入っていった。
ちなみに班編成は上からの指示で組まれたものだが、班を率いる者もまたアルテミアによって決められていて、この班は僕が指揮を執ることになっている。
これは年齢や階級に関係なく、上から決められた指揮系統に従えるかどうかを図るものでもあるし、単純に戦闘経験や指揮能力によって決定するものでもあるらしい。
「ええと、じゃあ僕たちの班の方針とか、役割分担を決めたいんだけど…良いですか?」
監督役の騎士や治癒術士の数がそれほど多くないため、草原での実戦はいくつかの班ごとに行われる。
僕たちの順番はまだ先なので、今のうちに作戦などを決めたかった僕は、思い切って三人に話しかけた。すると班長としての言葉には大人しく従うらしく、皆はこちらを向いて耳を傾けてくれた。
「この班は騎士が二人、治癒術士が一人なので僕は後衛に入ります。回復は任せるので、僕は弓や魔法で援護します。
それとここのモンスターは、基本的にはそれほど強くないですが、トライホーンとグレートホーンにだけは注意してください。
頭に3本の角があるのがトライホーン、それよりも巨大で角が1本なのがグレートホーンです」
僕が話していると、騎士見習いの一人が手を挙げた。背中くらいまでの青い髪に青い目をした女の子で、たしか名前はラティナだ。年齢は三つくらい上だと聞いた気がする。
「あ、あの、その…私は騎士見習いではありますが魔法戦の専門なので、前衛より後衛の方が…」
やけにビクビクしているし、何故か年下の僕に敬語なので違和感が凄い。僕が班長ということで立場が上なので、そういった態度をとってくれてるだけなのかも知れないけど。
「そうなんですね。僕が知っている騎士様は、ほとんどが武器を持って前衛に出るイメージだったので、魔法戦に特化した騎士がいるのは知らなかったです」
「ほ、ほとんどの騎士は魔法だけでなく、武器を扱う近接戦を得意としているのですが、私はその武器も苦手なのと…エレオノール様に憧れて騎士を目指していますので…」
「あ、すみません。僕は騎士の方に詳しくないので、そのエレオノール様を知らないのですが、どのような方なんですか?」
「エレオノール様は護聖八騎の一人に数えられ『全魔』と呼ばれている、騎士の中でも最高の魔法戦闘の技術を持つお方です。とても美しいお方で、私の憧れなのです!」
それまではビクビクしていたラティナだったが、憧れのエレオノールの話になると元気が出るらしく、それはもう活き活きと話してくれた。
それにしてもこれまで見た騎士の中には、そういった魔法戦に特化した騎士がいなかったので、僕は少し驚いた。
たしかに騎士や治癒術士がいて、王宮には魔導師もいることは知っていたから、戦場に魔法に特化した人がいないのは不思議に思ったこともあるけれど、基本的には身体強化などで接近戦もこなせないと厳しい事から、そういうものだと思い込んでいた。
僕が知らないだけで、世の中には色々な戦闘職があるのかもしれないね。勉強になるなぁ。
「そんな凄い人がいるとは知りませんでした。ありがとうございます。
じゃあラティナさんは、オリヴィエさんと一緒に後ろにいてもらって、支援をお願いします」
「は、はい!わかりましたっ」
「畏まりました」
ちなみにオリヴィエは見習い治癒術士だ。紫色のショートカットに赤い目をした、ラティナと同い年の女の子で、ラティナとは対照的に凄く落ち着いている。こちらも僕を遠巻きに見ていた割に、指示には大人しく従ってくれるようだ。
「それと前衛ですけど、基本的には騎士のダンクさんに任せるので、僕は近くでサポートしますね」
「了解です」
ダンクは他の二人と同い年の騎士見習いで、緑の短髪に緑の目をした、かなり体格の良い少年だ。重装鎧を纏い大きな盾にメイスを持った、まさに前衛壁役といった感じの姿だ。
標準体型の僕としては、戦うには羨ましい体格で正直言うと憧れる。
見た目や年齢的にも、ダンクが班長の方がしっくり来るとは思うが、アルテミアが決めたことなので仕方がない。
彼も作戦には従ってくれるようなので、ひとまず安心した。
そうして皆と話していると、先に草原で戦闘していた班が戻ってきて、僕たちの番になった。
いつもは周りに自分より強く頼れる人がいたが、今回は状況が違うので緊張する。
他の三人も強張った表情をしているので、似たような心境なのだろう。しかし僕には気の利いた事は言えないので、これまでの経験を踏まえて声をかけることにした。
「ここのモンスターとは2回ほど戦ってますし、仮にグレートホーンが出ても討ち取れるので、あまり気負わず焦らずに、そして無理はせず行きましょう」
安心させるために僕は言ったのに、他の三人はそれを聞くと何故か驚いたように、あんぐりと口を開けていた。
何人か新しいキャラクターが出て来て、いよいよ出発しましたが、小隊の仲間とはあまり打ち解けられず、先行きはそれなりに不安です。
レストミリアは彼女なりにジグを気にしてはいますが、それよりも仲の良い治癒術士以外の二人が男ということもあって、アマリアの方が気になって仕方がないせいか、少し辛口な気遣いになってます(笑)
次回は小隊による戦闘の予定です。




